443 会話ド下手野郎
扉が開かれた先には広間が広がり、そこでは既にパーティーが始まっていた。
立食パーティーというのか、こういうのは。
ワイングラスを片手に上品そうな人たちと──あからさまに冒険者だと思しき人達が一緒に話をしている。
上からは高級そうなシャンデリアがぶら下がっていて、真ん中の奥には緩やかな螺旋を描き二階へと繋がる大きな階段が見える。
朱と白と所々に黒が差し込まれた演技の良さそうな場所。でも、目がチカチカするのが難点。まつ毛のカーテンでぼかしておこう。
中にいる人は綺麗な人が多いなぁ~、年齢層は高めだけど。発光するライトでも身につけてんのかってくらいギラギラしてる。
(お金を着てるみたい~って感想は失礼に当たるか)
そして、そんな中に異色な彼ら。
入墨……は、隠す必要もないらしい。
(フーシェン……)
ロバートの関係者となればそりゃあいるよな。
というか、そういうのはおっぴろげにしていいのか? 貴族も承知なのか。
(まぁ、派閥内なんだろうし、こうして頻繁に顔合わせとかしてるんだろう)
二大貴族って僕が思ってるより大きいもんな~。ロバート一色か。
そう思うと、そんなフーシェンが上位血盟から落ちたのって結構痛手だったり?
「きょろきょろすんな」
ガスッと肘打ちをされ、口はしから血が出てきた。本気の肘打ち……。
都会に来た田舎者みたいな反応をしてたらダメですもんね、すみません。
さて、さっそく敵情視察といこう。
「これは、国定魔導士さんじゃないですか」
「本当だわ。初めまして」
「……初めまして」
ええーっと……貴族の人、だな。
名前とか知らないんだけど……どうしたもんか。
「ポルポト伯爵、お酒はあまり良くないですよ?」
「あ、ああこれは解析士殿。はははは、手厳しい」
「サリエヌ子爵も、お子さんが生まれたばかりなのですからほどほどに」
「少しくらいなら大丈夫よ」
「油断をしているとすぐに太りますよ」
お、おお、リリーさん、すごい。全員の名前を覚えてるのか?
それにそんな情報をどこで仕入れてるの? というか、こういう場所は慣れてる?
誘ってよかった……。僕だけだったら無理だった。
(鑑定、名前と所属くらいは分かるだろ。合わせろ)
耳打ちをされ、また一つ賢くなった気がした。
そういう風にも使えるんだ、このスキル。
(相手が有名人だったら、名前と適当な情報を言えば良い。あっちがいい気になる。世渡り、大事、分かるか)
(すみません)
こういうところにくると己のコミュ力や社交力が無いことが分かる。
「それで、賢者殿と解析士殿のご関係は?」
「イェーガー子爵。私と彼女は同じ団員なのですよ」
「というと【紫蘭之団】ですかな」
「ええ。経験豊富な彼女によくサポートをしてもらってます」──この子爵は、えーと、何喋ったらいいんだ?「えーと、今日一番美味しかったお料理などは……」
「は?」
「失礼、イェーガー子爵。あちらの方が子爵にご挨拶をと」
「そうですか。では、賢者殿、失礼します」
「あ、はぁ……」
──ガスッ。
(オイ、会話ド下手野郎。なにが一番美味しい料理だよ、友達か)
(だって……貴族の人と会話したことほぼ初めてですし……)
(話題なんて振るな。お前は明るいキャラで売ってる訳じゃないんだから)
あ、そっか。アイリスは大人しめの女性。そんな積極的に行かなくても良いんだ。
そこからもなんとか貴族達の問答を捌いていると、視線が刺さってきた。
そちらを見ると、フーシェンの人たち。すごい見てくる。
(そりゃあ、アンの件を潰した奴がいたら警戒もするか)
彼らにとって僕は「敵でもあり、やりようによっては味方にもできる奴」だ。
味方になるつもりはないが、ここばかりは仲良くしないとな。
「イレネロさん、ちょっと冒険者の方たちに挨拶をしてきますね」
「……分かった」
って言いながら服をクイッと引っ張ってきた。
分かってんだろ、って再確認だろう。分かってますとも。
僕が近づいていくと、僕でも知っている顔がこちらを見上げ──顔色を変えた。
わー、露骨。嫌なんですか僕のこと。申し訳無いなあ。
「フーシェンの皆様、初めまして。挨拶できる機会が無くて申し訳ありません」
挨拶をされる前にしておいた。
それで一瞬だけ敵対をするような目つきになったこの男は、ポルタル。
フーシェンの血盟主だ。
実物を見るのは初めて。リリーさんの評価で言うと、凡人、との話だが……凡人か。
(これが凡人なら、僕はなんていうカテゴライズなんだろう)
出来る大人という雰囲気こそないが、立ち姿は雄々しく、揃えている顎髭からは男性ホルモンがにじみ出てる。背丈は決して高くはないとはいえ、遠目から大きく感じさせるだけの存在感は持っている。
僕からしたらちゃんとした上位血盟の血盟主だ。
「前回の件について、私から謝罪をしなければなりません」
「謝罪、ですかな」
「ええ」
なんのことだ、と思ってる顔をしてる。
そりゃあそうか。謝られる筋合いなんてないもんな。
が、一応だ。アイリスは善良なキャラクターで通さないといけないもんで。
「転生者疑いの少女の件で、フーシェンの方にも迷惑をかけました。どうやら、ナクソン・ジェンキンスがフーシェン様を利用しようとしていたようで」眉を潜めないでください。僕だってこんなこと言いたくないんですから。「依頼書の件に関しましてもこちら側が早く行動をしていればコトが広がることがなかった……。血盟の大事な時期にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
こんなものでいいか。やり過ぎくらいでいい。
あの広場で「アンが依頼を受ける」→「フーシェンに依頼を出す」→「フーシェンが監査庁に依頼を出す」という流れだったと説明をした。
事実、そうであったし、ここに関しては彼らは否定はできない。
それで「ナクソン・ジェンキンス」という人物を前々から注視をしていたという話もなんとなく広場で触れていたので、もっと早く動いていれば迷惑をかけずに済んだ。申し訳ないと言う。
「アイリスさんが謝るようなことではありません」
「謝るようなことです。もし、そうでなくとも、私の気が済みません」
と茶目っ気でも出しておこう。
視線をその近くにいたフーシェンの人たちにも向けていおいた。
スケアはいないか。フーシェンとはいえ全員が参加してる訳じゃないか。
でも、スケアみたいな人はいるな、狼人の……。
「あァ? ンだよ、じろじろ見てきやがって」
(うわ)目が合ったらズシズシと目の前にまで歩いてきた(うわあ)
すごい既視感ある……。




