441 それはさすがに怒られた
リリーさんの隣で一緒に料理を作ることにしたんだけど、すごく嬉しそうな顔をしてた。
大人びた表情をする人なのに、こういうときの表情はすごく少女らしいんだよな。身長もアンよりも小さいし、ティナ先生よりも小さい。一番小さいんじゃないか? 年齢は聞く限り三桁らしいから、子ども扱いは失礼だろうからしないけど。
(これくらいならさせてもらってもいいだろう)
料理をしているとケトスから「クラディスの料理は美味しい」って話を聞いていたみたいで、途中から料理はせずにメモをするようになった。
異世界人の料理かぁ、とかぼそぼそと言ってるの面白かった。
暇つぶしにミゲルさんやフェレデンテさんが覗きに来て、茶化して、ソファに戻っていった。
(ケトスがここにいたら一緒に楽しめたのに)
なんて思いながら、料理を作って食べることに。
また時間を作って料理のことを聞かせてくれ、という約束も取り付けた。
「うんまっ! トマトが酸っぱくない! なんで!?」
「ちょっと処理しただけですよ。本当はもっと長く置いた方が良かったんですけど」
「はああー……ケトスが通う理由が分かった気がする……」
華奢な体で大きなピザを頬張り、ん〜、と片頬を抑える。
表情が豊かな人だ。作った側も嬉しい気持ちになる。
「それで、ティータは何位だったんですか?」
ご飯を食べながら話を振ると、もっしゃもしゃと食べながら眉を釣り上げた。
「7位だった! チクショウめ! せっかく寒い中見に行ったのによぉ!」
ぐぬっ、と不貞腐れるリリーさん。
その帰りに呼びに来てくれたのか。
「さすがにフーシェンは抜けれなかったか〜」
「ケトスが協会に入ったからいけるかと思ったんだが」
「でも、準上位血盟ですよね? すごいんじゃ」
「何年準やってんだよって話だけどな。8位にはできたてのエヴァーチェ」──わぁ、エヴァーチェってそんなに高いんだ──「アサルトリアは5位のままだな。こっからしばらくしたら総合順位が発表されんだよ。ちょっと暖かくなってきたタイミングでな」
「総合順位って必要あります……?」
「血盟の特典が決まるのがその時だな。これでアサルトリアがずっとパーティーするぞ〜? フーシェンは悔しくて泣いてることだろうさ」
うげ、そうだ。フーシェンが荒れる可能性があるのか。
アンの一件から大人しいけど、これでどうなることやら。上位血盟落ちが決定したってことだろうし。
さすがに暴れ回ったりとかはさすがにしないよな。……しそう。
「ちなみに、ハインストは4位に落ちたぞ」
「え、ハインストって確か2位じゃなかったですっけ」
「依頼もろくにしてなかったからな。ふらふら遊び回ってるからだ」
そんなに落ちるってことあるんだ。
2位から4位か。ログリオさんが凹むところは想像できないけど、落ち込んだりするのかな。
あ、だから、ログリオさんやイブがこの王国に来てたのか。順位を見に来たんだ。
そのまま食事会は終わり、ミゲルさんとデンさんは依頼があるからと冒険者組合に行った。
僕はそのまま血盟拠点にいて、リリーさんにしたかった話をすることに。
「リリーさん、ロバートの館に招待されたんですけど」
パリンッ。
「あ」
皿洗い中のリリーさんが固まり、皿が割れてしまった。
それを掃除しようとするとギギギと錆びたように振り向いてきて。
「……行くのか、お前」
「え、はい。せっかくなので……」
「バカなのか、お前」
「敵の顔を拝めると思って。敵の調査です」
リリーさんの真下で割れた皿を片付けてると、オラッと蹴られた。いたいっ。
「ったく……」とエプロンでゴシゴシと手を拭くリリーさんは洗い物を辞めた。
ズシズシと歩いて行き、ソファに座り、隣を座れと叩いてきた。
隣に座ると、耳をつねられた。いたい……。
「存外、君は行動力が高いな。バレて殺されるのがオチだぞ」
「それでもです」パッと耳を手放され、赤くなった耳をさすりながら。「ロバートはアンにヒドイことをした奴で、敵です」
直接なにかができるわけじゃない。が、アイツがアイリスを気にかけているのは分かる。
だから、なにか利用できないかとは思っている。
敵情視察ができるだけでも行く価値がある。今後の動向も知ることができるかもしれない。
「普通に行ってもらいたくないんだが。……付き人は誰か連れていけないのか?」
「1人なら連れてきてもおっけーみたいです。だから──」
「ああ、読めた読めた。みなまで言うな。だから私に依頼をね……」
はあ、と大きなため息をつき、髪をごわごわと掻きむしった。
「う”う”う”う”う”う”う”う”。ほんとに、コイツはァッ!!」
と唸った後に僕の脇腹を刺してきた。ぐはっ!
「君は私をコキ使いすぎだぞ! ケトスよりもひどい!!」
「あ、あはは……ケトスには負けますよ」
「いーや、どっこいどっこいだ。見た目もなんとかく似てるような気がするし」
口端を捕まれ、グイーッと引っ張られた。いたいいたいです……。
目の端に涙を浮かべながら、リリーさんって面白い人だなぁ、なんて思ってしまった。失礼に当たるだろうけど。
ケトスが頼る理由もよく分かる。なんだかんだ優しい人だ。
「まぁ、分かった分かった。いつだ! それは!」
「今日の夜です」
「お前……」
それは、さすがにぶん殴られた。
助走を付けて。右頬に。




