440 ティータ歓迎会
ティータの血盟拠点で歓迎会が開かれた。
拠点に入るまではちょっと緊張をしていたんだけど、入ってみると見知った顔しかいなくて緊張なんてどっかいっちゃった。
「お〜、あの時の。名前見たことがあると思ったら」
「ケトスの彼女が来るとは。団長もやるなあ〜」
「えーと……ミゲルさんと、デン……さん……?」
入ってきた僕にグラスを掲げたのは、下位ダンジョン攻略後の外食で話をかけてきた人たちだ。
「そー、ミゲル。よろしくね、魔法使いだから」
以前、レヴィさんに名前を聞いたことがある気がする。
ミゲル。魔法使い。認識票は翠金等級の冒険者だ。
「前に協会にいたんですよね、聞いたことがあります」
「お。そーそー、アサルトリアのレヴィでしょ。同期だもん、僕」ソファから体を乗り出して、自慢するように笑ってきた。「まぁ、もう研究はしなくなったよ。左目を怪我しちゃってさ」
ちょいちょいと指された左目は、ミルクティ色の髪と包帯で丁寧に隠されている。
服装は黒いローブと、その下に襟がついているフォーマルな上着。
どことなく、ケトス味があるのは気の所為じゃないはず。
「あ、この服気づいた? そうケトスと一緒なの。僕がケトスに買ったんだよ、アイツ頓着しないじゃん」
やっぱりそうか。
「あれだけ毎回血まみれだったら頓着はしてなさそうですよねー……」
「あれをキレイにしてるのも僕さ。そのために清潔を覚えたんだ」
と言うと、僕に向かって清潔をしてきて、また自慢げに笑った。
面倒見が良くて、自慢したがりってことは分かった。
魔導士なのに、治癒魔導士の清潔を覚えるなんて面倒くさいだろうに。
「でもさ、レヴィと知り合いならアサルトリアには入らなかったの?」
「私が連れ込んだんだ、アイツらに取られる前にな!」
料理を作ってるリリーさんの一言でミゲルさんがバカウケ。ダッハッハとソファで脚をばたつかせてる。そんなに面白かったかな。
「よろしく、ケトスの彼女」
「わっ」横から出てきてびっくりした。「えーと、デンさん。……フルネームをお聞きしても?」
「フェレデンテだ。呼びにくいだろうから、デンで良いぞ」
フェレデンテさん。名前は聞いたことはないけど、その見た目はちょくちょく見かけたことがある。あの時とかあの時とか。ギルドで何かしようとする時に視界に黒い人が映るなーとおもってたけど、多分この人だったんだと思う。
声から推測するに男性のような気もするが声が籠っていて判別不能。
そのほかの判別材料も全身鎧によって外への露出を防がれている。肌の色すら分からないとは。
(フルアーマーか、珍しい)
鎧は全身が返血のような一色に染め上げられ、竜の鱗にも似た装甲は鎧だというのに程よい柔軟性で体型に合わせて曲線を描いている。
すらりと伸びた両足も両腕も鎧特有のぼてっとした見た目ではなく、体にフィットするように細く伸びている。
「不思議な鎧ですね」
「特注品だ。龍を殺したことがあってな、その材料で」
「龍を……?」
ぽわぽわと龍を思い浮かべる。
そうか、この世界には龍がいるんだったか。まだ見たことはないものな。
「そんなんだからデンは竜騎士だと間違われるんだよね〜。伝説の竜騎士様だ! って!」
ほお。
「竜騎士って職業があるんですか」
「いいや、無い」
「無いんかい」
おっと、突っ込んでしまった、えふんえふん。
やばい、ミゲルさんすごい笑顔だ。邪険に扱われると喜ぶタイプだったか。
「竜騎士と呼ばれる人がいただけだ。それに似てるということでな」
冒険者ギルドでそんな話は聞いたことはないんだけど。
実在をしてる人なのか、今も生きてるのか。竜騎士か。
ドラゴンにまたがってでっかい槍を振り回す姿しか想像できないな。
「ってかルーキーを入れるなんてすごいっすね、だんちょ!」
「もっと早く入れりゃあ順位発表もいくらか上がったんだろうがなァ!」
奥からリリーさんが此方に向かって料理を投げてきて、チクショウがって嘆いてる。怒ってます?
投げられた料理はミゲルさんがそれを空中で魔法でキャッチしていた。
あの裏面は……ピザ? え、石窯があるの……。うわ、ある。すっご。
ふわふわと移動させて、机の上の大皿の上に乗せていた。
「ささ、料理が全部できたぞ。先に食ってるやつがいたがな」
「美味しいんすもん〜」
エプロン姿のままやってきたリリーさんに席に座れと促され、隣に座った。
「血盟順位が発表されたんですか?」
「おうよ。最近、アサルトリアの奴らもバタバタとしてたろ? 必死に五位にしがみついてんだ」
血盟順位って確か上半期と下半期があるんだっけ。
そっか、この世界に来て一年が経つなら二回目があるのは当然か。
ミゲルさんがピザを取ろうとして、ペチンッと叩かれていた。
どうやら、先に僕が食べないといけないらしい。
具材はシンプル。さすがに日本のピザみたいに色々乗ってる訳もなく、持ち手がチーズみたいなアレな訳でもない。
だけど、美味しそうだ。
「どうだ? 美味いだろ」
「ふぇふ……」
口触りはピザ。だけど、口の中に広がったのは……えっ、トマトつっよ。
お肉とかもめっちゃ乗ってるし、チーズも乗ってるけど……ほんとトマトつよっ、トマトが酸っぱ過ぎるのか。でも美味しい。
「おいひいふぇふ」
「だろう」
満足げに笑ったリリーさんはミゲルさんにGOサイン。
デンさんもピザを取って向こう側を向いて食べていた。
次のを焼きにリリーさんはまたキッチンの方へ。
この世界って中世よりかと思ってたけど、全然トマトとかあるし紙とかあるし、服装やら何やらもおしゃれなの多いし。
まぁ、転生者の影響ですで納得できるんだよなー。カレーやらオムライスやらも有るもんな。
なんて思いながらピザを食べ、少し酸っぱくて口を尖らせた。
(リリーさんが率先して料理をして、団員に振る舞う形なのか)
うん、リリーさんはやっぱりお節介焼きの人だ。
面倒見が良いんだろう。だけど、ちょっと料理の手伝いしたい。
「……」
そわそわしてきたので僕もキッチンに立って一緒に料理を作ることにした。




