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438 時は動き出す



「久しぶりだから手合わせでもするか? 訛ってないだろうな」


「……長らく人と関わる機会が無かったから、自分のペースでやらせてくれ」


「えー、ノリわる。あんたに勝ったら、オレがナンバーツーになれるのにさ」


「悪いな」


 ティナの誘いを断り、モーティアは壁際によった。

 何十年と離れていた血盟だ。関係なんてまっさらに戻っている。ティナという男性にしてみれば全く気にならないのだろうが。


 だが、どれだけ離れていようとも役職だけは機能をしている。

 ハインストの組織構造は他の血盟とは異なり、パーティー単位ではなく単独《ソロ》の腕っこきが集まった血盟だ。そのため、特殊な序列で血盟をランク付けしている。


 一席:モーティア

 二席:ウィンストン

 三席:ティナ

 四席:イブ


 実力や血盟への貢献度によって変わる序列だが、一席はずっと変わらずモーティアが座っている。

 要するに彼女は、ハインストに所属する血盟員の中で一番強いとされているのだ。

 

「ゆっくりと慣れていくといい。焦る必要なんてない。それにこのランクもさほど機能をしていない。気にすることはないさ」


「うぇ〜……オレは一番になりたいんすよ、旦那ァ」


「ふふ。ティナならなれるさ。ただ、今は彼女に合わせてほしい」


「あーい。じゃあ、また声かけるからよろしく」


「……あぁ」


 ログリオの声掛けによってティナの闘争心が収まり、彼はソファに飛びかかるようにして座った。


「…………あなたがモーティア」


「……君のことは話に聞いているよ。イブ」


 モーティアは手を差し出すが、イブはその手に一度目をくれて、顔を上げた。


「転生者とは握手しない」


「手厳しいなぁ。まぁ、外面だけでも仲良くしてくれると助かるよ。居心地が悪いのは苦手なんだ」


「……ファザーが認めてるから仲良くはするけど、ボクは転生者が嫌いだ」


「そう。私も転生者を殺すために作られた貴女を恐ろしく思ってるわ」


 ニコリと微笑むモーティア――ヘルムによって隠されてるが――に、イブは恐ろしい顔を向けた。


「女って怖いな、うーさん」


「私に話を振るな」


 そんな外野の声を楽しそうに聞く血盟主は、イブに自分が被っていたハットを被せた。


「モーティアは特別さ。領土戦争の前から私達の仲間だからね。仲良くするんだよ?」


「……分かった」不満が爆発しそうなのが口元で分かるが、それもすぐに切り替えた。「じゃあ、とりあえずは、これでようやく全員が揃ったってことで」


「あぁ。予定をしていたよりも少し遅れてしまったが……次の段階に進もう」


「……!」


 ログリオに頷かれて、イブはさっきまでの表情から打って変わってスキップをする少女のような顔になった。

 

「あー、楽しみっ! たくさんの転生者を見つけて。たくさん殺すんだ……!」


「言葉にしたらえぐいなあ〜」


「そんな事ないよ! ハインストは掲げる目標は世界の復元! そしてその復元された世界には――転生者は要らない」


「言いたいことを全部イブに取られてしまったな。ハッハッハ」


「へっへーん。宴の音頭みたいなもんでしょ」


 こういうセリフをイブが言ってみたかったのは若気の至りだろう。

 そして、この状況を以前から心待ちにしていた男も年甲斐なく口元を緩ませていた。


「まだまだ始まったばかりだが、ここにいるみんなならできる……そう思っている」


 ログリオの声に建物内の者たちは口を閉じ、耳を傾ける。

 常に冷静で、威厳のある自分たちの長が熱に浮かされているのだ。

 そしてこの言葉が、ハインストという組織の新たな『始まり』だと分かっている。


「私は転生者が嫌いだ。大嫌いだ。憎んですらいる。

 私はこの世界が嫌いだ。歪んで、輝きを失ったこの世界が。

 平和だと謳われて、妄信され、簡単に騙されるこの世界が。

 救いなぞなく、愚か者が蔓延り、惨めに散るだけの世界が」

 

 彼にとってこの計画というのは念願だった。

 ログリオ・ピラトレット──転生者を憎む、断罪者。

 彼の理念は兼ねてから変わらない。


 転生者の根絶。

 世界の正常化。

 そして、かつての世界の復元。


 混沌としながらも平和だと騙るこの世界にメスを入れるべく動き始めた。


「みんな、武器を取れ。愚か者達に突きつけろ。我々の向かう先にあるは平和。戦争前の温かい日常である」


 ログリオ一人だけでは難しい話だ。

 だが、この場にいる者たちは現代の英雄とそれに準ずる英傑達。


 白翼等級《エルブランシュ》の拳之王《クロフォード》──ティナ 

 白翼等級《エルブランシュ》の大魔導士《ハイウィザード》──ウィンストン

 白翼等級《エルブランシュ》の槍聖《ロンギヌス》──モーティア

 白金等級《プラチナ》の転移者(てんせいしゃごろし)──イブ


 一つの国くらい滅ぼすことのできる者たちが集まれば、心強いというもの。


「計画を。世界の正常化に向けた計画を。……推し進めるぞ」


 さぁ、世界を自分たちが思い描く平和に陥れろ。



 第6章:転生者冤枉編(下)──完

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

これで、第六章の上下が全部終わりました。


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