435 なんで、転生者なんだろう
なんだかドッと疲れた。一気に老け込んだ気がする。
王城から家に帰る道のりを街頭の灯りを頼りにフラフラと帰ってた。
「ここ数年でいろんなことが起きた〜って話だけど、それを実際に立ち会ってる側はしんどいよなあ」
真面目な時とかやる気がある時にしたことが、気を抜けた瞬間に色々と襲ってくるのは勘弁して欲しい。
こういう時はケトスがおすすめしていた公園のベンチに座ってゆっくりするのだ。
「エリル……ちょっと、でてきておくれ……」
「呼ばれて飛び出てどっか行ってきます!」
「どっかいかずに戻ってきて〜……」
横に座ってもらい、誰もいない公園でゆっくりと時間を潰す。
どうせ、家に帰ってもだれもいないのだから、家の外でのんびりとしても許されるハズ。
「アンはどこにいるか分からないしー……佳奈は王城で住み込みで訓練してるし……」
「エリルちゃんはいつもますたーの側にいますよ!」
「エリルちゃんはねぇ〜……いい子だよ……」
ふにゃふにゃな返答をしながら雪解けが始まっている地面をサクサクと鳴らす。
……冬ももう終わりだ。
「もう春だってさ。早いね……ぼくが来たのもこれくらいの時期だっけ」
「あともうすぐで一年ですね! 時間が経つのは本当に早い!」
「まだ一年しか経ってないって聞いて絶望してるよ、ぼかぁ……」
特濃過ぎて腎臓も機能しないよこんなの。
転生一年目でなんでこんなバタバタしないといけないのか。普通、一歳児ってまだバブバブ言ってるよ。
「……エリルの大人の姿、すごい人気だね」
「いや、あれはますたーの性格有りきだと思いますよ」
「性格って? 普通にしてるけど」
「お淑やかなのに強い。でも守ってあげたくなるような雰囲気もあって、男性はたまんねぇんだと思います」
「……自分よりも体格がでっかい人にそういう目で見られるのってホントこわいなぁ」
こういう体験ができるのも異世界ならではか。女性の気持ちを理解できる異世界転生、おすすめです。ただしいつ死ぬかは分かりません。どうなってんだ。
「色々と、さ。ぼく……その……なんだ……何言おうとしたっけ」
あれ、なにかエリルに相談したいことがあったんだけど。
頭が思ったよりぐちゃぐちゃで言葉があっちにいったりこっちにいったりしてる。
「あー……まってね、ごめん……すぐ捕まえるから」
「言葉が出てこない時は、文章にしようとせずに吐き出しましょう。単語単語でも伝わりますよ!」
「……それならいけるかも」
文章にせずに吐き出す、か。
じゃあ、まっさきに浮かんだ言葉を口にしたらいいんだな。
「…………」あぁ、やっぱり、コレがまっさきに出てくるか。「……さみしいなぁって、思った」
「さみしい……ですか?」
「うん」
声になる前に頭に浮かんだ言葉をそのまま吐き出すか悩んだ。
だって、こういう感情になる訳がないのだ。
「村の子ども達がなんだかんだうまくいきそうで良かった」
「やっぱり言った通りになりましたね!」
「佳奈が上手く行っててよかった」
「王城で訓練してるとは贅沢な妹さんです。魔族だってバレてましたけど」
「アンのことを無事に丸く収めれてよかった」
「ますたーの名演技は繰り返し視聴したいレベルでしたよ?」
「久々に雪山のみんなとキャンプできて楽しかった」
「わたしも一緒に魚を焼いて食べましたけど、骨を取るのに苦戦しましたね」
「ログリオの顔を見て、監査庁の集まりにも参加できるっぽいし」
「あれはビックリしましたよ。敵情視察ができるとは……他の転生者さんは絶対に怖くてできませんよ」
「うん。うん……これだけ、嬉しかったり、誇れることがあったんだ。まだいっぱいあるよ。まだ……いっぱい、嬉しかったことがある。」
ティナ先生に心配されたことも嬉しかったし、デイジーの成長なんてすごかったんだ。モーティアさんとも出会ったし。
そうだよ。これだけたくさんのことがあったんだ。
「……でも、エリル。ぼくさ……っ」空を見上げようとした目を手で覆った。「友達のことを友達として見れなくなったんだ……」
涙が溢れてくる。
今になって喪失感が襲ってきた。
「それが本当に、悲しくて、寂しい……!」
彼女はぼくのことをまだ友人だと思ってくれているのに、ぼくは心の中で勝手に線を引いてしまった。
話したいことも話せれなくなって。目を合わせるのが少し怖くなって。
前は手を握れる距離にいたのに……すっかりと遠くなってしまった──遠くに置いてしまったんだ。
「……っ……」
夜だからこんなにノスタルジックになっているのか。
夜の暗闇は心にぽっかりと空いた穴から漏れ出す気持ちを増長させる気がする。
「この世界にきて、全部、思うようにできた試しがない……失敗して、失敗して……」
寒空に息を吐き、鼻で吸う空気は心まで冷やしそうなほど冷たく。
「なんで、転生者なんだろうなぁ……、ぼく……っ」
「そりゃあ転生したからですよ」
「……そりゃあ、そうか」
エリルからの回答のほうが冷たかった。びっくりした。
そりゃあそうだ。イコールで結べるほど単純な話だ。
「友達っていうのはあの……ますたーの寝込みを襲った女のことですか」
「言い方はアレだけど……そうだよ。イブのこと」
「彼女は元々、友達という立場に甘んじるつもりはなかったんじゃないですか?」
エリルは足がつかないベンチに腰掛け、足をぶらつかせてそう言った。
僕が良くわからないと首を傾げるとエリルは言葉を続けた。




