433 ロバートの本題
(コイツ……!)
──ズッと漏れ出しそうな敵意を堪えた。
本題に入ったのが素人目にしても分かる。先程までのやり取りはいわゆるジャブというものだ。
アンの居場所を聞くか。……魂胆が透けて見える。
「無実の罪によって怖い思いをさせてしまった彼女に、監査庁側から謝罪をしたいという申出があったのだよ。虚偽の申告をした鑑定士は辞めさせる処置を取ったが、平和な世界を創る組織としては冤罪などは決して許されることではないからね」
「その件ですが、今現在も取り調べが行われております。また、彼女は人と接触するのを恐れています。その場を設けるのは困難でしょう」
「だがこのままでは監査庁も気持ちが晴れないだろう。担当者に謝罪をさせるだけだ。時間は取らせない」
引き下がらない。
もちろんこれは謝罪をしたいという気持ちで喋っている訳ではないのはそうだ。
アンの居場所を聞き、そこに新たな刺客を送る。今度は準備に準備を重ねる。ナクソンという下請けのような奴にやらせるのではなく、そういうことに慣れている奴に任せるために。
「それに大衆の不安を解消させるためには、この手の場を設けることも視野にいれておくべきだと思うがね」
あくまで親切心という建前で。
大衆が不安定な中、そういったパフォーマンスは必要であろうと。
「ロバート公。此度の転生者の冤枉というのは決して許されることではありません。彼女が負った傷というのはとても深く、社会復帰もできるかどうかも分からない状態だ。謝罪をするにしても今はその時期ではない」
「ならばいつが良いと? ほとぼりが冷めてから謝罪なんぞ行わせてみろ。より一層不信感が高まる可能性だってある」
コイツはそれっぽいことを言うのに長けてるな。
謝罪にも適切な時期っていうのがある。それはそうだ。喧嘩した奴が二年後に「あの時はすまんかった」って言ってきても「うるせぇばか」ってなるに決まってる。火が燃えつきた後に消火活動なんて無意味なのだ。
(コレは、ルル先輩も厳しいか。何かフォローをしたほうが……)
そう思っていたのだが、ソファから体を起こして膝上で手を組んだルル先輩は笑っていた。
「なにをおっしゃいますか。今回の件は監査庁に落ち度はないではありませんか」
ぴく、とロバートの営業顔に亀裂が入るのが見えた。
「冒険者組合の男が独断で行ったもの。そうでしょう? でしたら、監査庁の謝罪したいという気持ちは尊重されるべきことですが、本当に謝罪をするべきなのは監査庁ではなく、事件を起こした男性ではないでしょうか」
「…………しかし」
「また、この騒動に関してはうちのアイリスが火消しを務めました。監査庁とフーシェンはあの男性に騙されていたということで問題ないじゃありませんか。もし、何かをしたいなら謝罪ではなく、監査庁側の意見を公表という形で締めるのが良いかと思います。新聞各所に依頼をしましょうか」
ロバートは言い返す言葉を考えている様子だった。
が、見つからなかったのか組んでいた手を若干緩めていた。
「そうだな。元帥殿の仰る通りだ。依頼はこちら側がしておこう。何もかもお世話になるわけにはいかない」
「そうですか」
驚いた。元帥ってこういうことも言えるのか。
最初に会った時もこういう論争のようなものをした記憶があるが、普段の態度から考えられないような言葉がぽんぽん出てきた。
賢者は伊達ではないか。突くところとしては色々とあるが、とっさに出てくる答えとしては十分すぎる。
「それじゃあ、この件はそのように処理をするとして──」
お団子先輩に関心をしているぼくに、スッと手が差し伸べられた。
「もう一つの要件だ。アイリスくん」
「……わたしですか?」
「あぁ、監査庁が開く集まりがあるんだが、それに私と一緒に出席をしてもらいたいのだ」
突然の申し出にぼくは脳味噌が一瞬、考えるのを辞めていた。




