432 ロバートとの会合
この手の来客対応ってのは元の世界でやったことがないからやり方が分からないが、ぼくには万能な言い訳として『傭兵育ちです』ってのがある。礼儀なんてねぇです。
大人しく先に部屋に入って、来たら立って挨拶したらいいか。
貴族ってのも分かんないからなぁ。マナー講師みたいなのがいたらいいんだけど。
食事とかする場じゃなくて助かった。持ち方とか面倒くさいんだよな。あと、牽制し合うっていうイメージがあるから面倒くさそう。
が、そんなことを差し置いても……顔を拝んでやりたい。
ロバート公爵。この国の二大貴族と呼ばれる貴族の一人。
「そう緊張することもないぞ。貴族と言えども……今日は助手くんにわざわざ会いに来るんだ。本来なら手紙や魔導具での連絡だけで済ますところなのにな」
「わざわざ会いに来る価値が私にあるってことでしょうか」
「価値は十二分にあるだろう。だが、くれぐれも気をつけろよ。貴族ってのは強欲だからな、気がつくと毟り取られてるぞ」
「気をつけます」
「──ロバート公爵が来られました」
扉の先に立っている兵の声を聞き、ぼくとお団子先輩は席を立って待機。
「先輩まで立つ必要あります?」
「只人ってのは些細なことで怒る。気に食わないことが多い生き物だ。扱いやすい奴を演じる方が楽なこともある」
「私はたまに貴女が怖く感じます」
元帥なんだからどっしり構えてたらいいだろうに。
まぁ、それほど貴族とのやり取りってのが面倒っていうのが分かる。
そうして、ガチャッと扉が開かれるとソイツは姿を現した。
(コイツが……ロバート)
60歳ほどの白髪の男性。まだ黒髪の部分が残っているようだが、それもすぐに白に置き換わるだろう。中肉中背という表現が正しいのかは分からないが、痩せても太ってもいない。鍛えられているという体ではないのは分かる。
柔和な雰囲気を醸し出しているが、その皺の寄った顔の奥底にはドス黒いのが潜んでいるのを知っている。
「やぁ、今日は突然すまないね」
「いえ、とんでもありません」
元帥に挨拶をするロバートの瞳にぼくが映った。
「キミが……アイリスくんで間違いないね?」
「お初にお目にかかります。ロバート公」
気持ち悪い。その目を辞めろ。ジロジロと物差しで図るような目を向けるな。
「アイリスくんの話は耳に挟んでいるよ」ロバートがソファに座ったので、ぼくたちも遅れて座る。「監査庁の知り合いも感謝をしていると言っていてね」
「とんでもありません。あのような機会をいただけただけで大変光栄ですので、感謝だなんてそんな」
「はははは。元は傭兵出身と聞いていたが、謙虚なのは元帥に扱かれたかな? なにはともあれ、皆を代表をして感謝を」
謙遜のしすぎは印象が悪くなるか。悪くなってもいいがな。
「恐れ入ります。結果的に転生者がいなくて本当に良かったと思っております」
胸に手を当ててにこりと微笑んだ。
嫌味を含んだのを理解しろよ、コイツ。なに「そうだな」って顔をしてるんだ。
その後の簡単な話をしていくと、ロバート公の今日の目的がなんとなく分かった。
コイツ、今日来た目的を『感謝を伝えに来た』というもので、自分主体で話をしていない。
誰かの言葉をキミに届けたいので、今日はやってきましたよとずっと言ってるようなもんだ。
だったら最初の感謝を受けた時点で早々に退出を願いたいのだが、居座りやがる。
年を取ると話が長くなるという話だが、この部屋の中での最高齢はお団子先輩だ。なのに60そこらの人がだらだらと話しをしているのは苦痛で仕方がない。
「それで、新設部隊……名前は【紫蘭之団】だったか。どうだね、調子は」
「問題有りません。いくらか貴族の皆さんや軍の上役との話でぶつかることはありましたが、なんとか丸く収まりました」
「そうか! 何か問題があった場合は連絡をしてくれ。支援をさせてもらおう」
「それは有り難い」
「なに、当然のことだ。王国の民は【紫蘭之団】に期待をしているからね。その点、私も勝手ながら期待をさせてもらっている。隊長のアイリスくんには王国の民の心の拠り所となっていただきたい」
「近頃は物騒なことが多いですので、私としても【紫蘭之団】はこの王国の平和を護る部隊として活かそうと思っております」
とまぁ、なんだか大人なやり取りがされている。お団子先輩も器用だな。
あれだけ面倒くさがりなのに、この手のやり取りをこなす姿は様になってる。ってか、ロバート公爵って王国に対して割りと反抗的な態度を取ってるって話じゃなかったか? そんな奴が新設部隊に対して何か支援をするって……完全に恩を売りに来てるみたいなもんじゃないか。
「して、今日は他に要件が二つあってだな」というと、ロバートは姿勢を直して。「一つは先日の件のあの少女の居場所を聞きたいのだ」




