431 貴族の訪問者
そりゃあみんなびっくりしてる。100%真面目な話をしてる時に、急に虫取りを持った少年が飛び込んでくるみたいなもんだ。え、雰囲気、というヤツである。そんな虫取り少年は手に持っているクッキーをガジッと気持ちよく齧り、もぐもぐと咀嚼をして。
「でも、いまは女子会であるぞ。身分や肩書なんてポイして、お茶やお菓子を食すのに徹するべきである」
なんと、女子会とはなんぞや、と説き始めたではないか。
これには更にみんな驚いていた。
ぼくは驚きもしたが、正直にいって感心をしていた。
「そして話すことは堅苦しい話じゃなくっ──好きな男の子のことや!! 楽しい話の共有である!!」
(佳奈には見習うことが多いなぁ……)
机を叩きながら熱弁をする妹の姿に、大人組二人は関心と呆れが混じったため息を吐いていた。
「まぁ、アルマの言う通りだ」
「そうさね。こんな時まで胃がチクチクするようなことを話すのは気分が良くない」
雰囲気が和んだのを感じた。
ほんとうに佳奈は凄い。良い意味でも悪い意味でも空気を読まない。これは佳奈の才能だ。
見習うべきだな、これは。
昔から佳奈の周りには人が集まっている。
人柄が良くて、笑顔を振りまく。同じクラスの男子はたまったもんじゃないだろう。多くの若者が勘違いしたに違いない。
この性格は母似……というか、祖母にそっくりなんだと。人を集め、気がつくと中心にいる。
(まぁ、部屋の掃除はしないし、よく泣くし、だらしないけど)
それでも、佳奈は凄い。
自分のことを過小評価しがちだけど。自信が着いて……あとはだらしないところが治れば完璧かなぁ……なんて。
「じゃあ私から好きな人を発表しますッ! 私が好きな人はっ! お兄ちゃんです!!」
あと、兄離れをしてくれたらいいかな。
……って、今は弟だろ。オイ。テンション上がって色々忘れてやがる。
兄がいるのかってなるだろ。魔族なのに兄がいるのかって。オイ。コイツ。あ、気付いた。……ったく。
「私が好きな人は……元気な人です」
「えーーー、なになに。隊長さんは好きな人いないの?」
「特定個人の名前は出しません。元気で、よく笑ってくれたらそれで良い」
ズゾゾと紅茶を飲んだ。美味い。二人に突っ込まれる前にフォローしたんだからな。成長したと思ってたけど、まだまだぼくがいないとダメなんだから。
「私が好きな奴はねぇ……相棒さ。困った時に頼りになるからねぇ」
「あ、やっぱり十夜さんのこと好きなんだあ〜」
「向こうが好いてくれてるからね。そりゃあコッチも応えないとだよ」
十夜って人がいるのか。へぇ……ソバドアさんも若いなぁ。
「私が好きな奴……うーん、只人はすぐに死ぬしなぁ。エスタ……も好きかどうかで言われると分からないし」
「同じくらい寿命がある人とかです……?」
「だとしたらそれこそ魔王とかになるな。うーん。じゃあ、私より強いやつで、身の回りの世話をしてくれる奴がいたらソイツを好きになろう」
「え〜森人って不思議だなぁ〜。長生きさんだから燃えるような恋愛とかしないのか」
「だと思うだろ。森人はなぁ、誠実な種族でな。結婚したら死ぬまで一緒。別れることなんてない」
「そうそう。森人は愛が重いのさ。関わらない方がいいぞ。変な菌が移るからな」
「なにおぅ……?」
──コンコンッ。
「ん。客か? 今日の来客ー……」と首を傾げるお団子。
予定のない客?
「私が出ます」と、何かあった時に対処するためにぼくが対応することにした。
魔素反応も問題なし。敵意などは感じられない。
さすがに王城の中で警戒し過ぎか。
ガチャッと扉を開けると、そこにはあの黒服の大尉がいた。
「あ」
「あ……えーと……」
「? あぁ、アイリスです。大尉」
「アイリス様! これは失礼いたしました。お顔を見るのが初めてでしたので」
隊長の任命式の時は大尉はいなかったのか。なんだかんだこの顔は晒す機会が多かった気がしたけど、まぁいいか。
服装もいつものアレじゃないからな。今日は私服だ。王城内で軍人が私服でうろちょろすんなってハナシだが、許してくれ。今日はお仕事をするつもりはないのである。
「それで、元帥に何か?」
「はい。……ただ、そうですね。元帥様とアイリス様に会いたいと」
「ん、名前は? 私の知っているやつか?」
後ろからひょっこりと顔を覗かせた元帥に体勢を向けて。
「ハッ。ロバート公爵が四刻もすれば到着をするとのことで」
「……!!」
ロバート公爵だって……?
「なんでよりにもよって公爵が……って、アイリスとも会いたいって?」
「はい」
大尉の話を聞き、お団子先輩は気まずそうに口元に手を当てた。
「……分かった。貴族に応対する用の部屋に招くようにしてくれ」
「ハッ。承知いたしました」
要件を話し終えた大尉は退出。
(ロバート……か)
……ロバート公爵。アンの前の主人であり、アンが闘技場で売買されないように仕組んでいた人物。
フーシェンに出資し、アンとぼくに刺客を送ってきたこともある。……敵だ。
「不味いなぁ……コレ。アイリス、一緒に相手をしてもらうが良いか?」
「……なにが不味いんです?」
「キミ宛てに護衛の依頼というのをしつこく送ってきていた貴族がいるという話は聞いていたか?」
「えぇ。……まさか」
「公爵だよ。アイリスくんのことを大変気になってるらしい」
監査庁に擦り寄るようなパフォーマンスが目に止まったのか?
なにより……ようやく、その面を拝めるのか。




