428 血盟加入②
正直に言うと、血盟って面倒くさそう。
血盟お試し期間とやらで感じた。新入りの雑用感。
あんなんウッキウキでやりたい人はいない。ましてや、お金がもらえる訳でもない。
もらえるものとしては血盟員という肩書くらいじゃないのか。
まぁ……それでもいいっていう人がほとんどなんだろうけどさ。
冒険者をしているのも元はというとムロさん達と旅をしたいからという理由でやっている。
旅をする中で、依頼を受けて金を稼げば旅の資金を旅先で調達することができる。で、強くなる必要があるし、金稼ぎもしないといけないから──で冒険者は最適だったのだ。
だから別に冒険者として名を上げようというアレはない。
そのため、血盟に加入するメリットはぼくにはない……というのが結論だ。
「正直、血盟……あんまり良いイメージがないんです」
「ふむ」
少し考えるように顎に手を当てたリリーさんは、目だけをこちらに向けて。
「言っておくが、私の血盟は基本的に放任主義。飲み会なんてものはほとんどない。血盟拠点に住む必要もない。事実、ケトスは半年くらいいないこともあったし、他の奴らも旅に出かけたり、のんびりしてる。血盟員として期待されているのは、たまにくる血盟宛の依頼だ」
「……なんですか、そのホワイトな感じの血盟」
「ホワイト……というのはよく分からんがな。いいイメージがないってのは、アサルトリアに血盟の試用期間みたいなので入ったからじゃないのか?」
「まぁ、そうです。あと、フーシェンとかろくでもないし」
「フーシェンはクソなのは同意だが、アサルトリアのことを思ってるなら、あそことウチとは全く違うぞ。あそこは年中パーティーしてるような奴らの集まりだからな。うちは小さな血盟だ。各々、やることやってくれたら後は自由時間としてる」
僕の話に的確に答えながら、ぼくが望んでいるような話を語る。
待って、リリーさんってもしかして……。
「わたしが血盟主として血盟員達に言っているのは、任務の失敗だけはするな、ということだけ。それだけを意識してもらったらいい。逆に考えるとソレだけしてくれてるだけで、準上位血盟としての肩書を得られるし、装備品やら日用品やらの割引が効く。この世界ではなっかなか手に入らない『信用』があるからな。家を建てるのも、武器を一括で支払うこともない」
……これ、ぼくを本気で加入させようとしてる?
すごい耳障りが良いことばかり言ってくるし。
顔も面倒くさそうなかおをしてるけど、チラチラこちらの顔を伺ってきてるし。
「どうだ? 今なら加入金として金も出る。私に依頼を出したから金が無くなったんだろう? 血盟員加入に関しては私の所は勧誘形式を取ってるから、変な奴はいない。癖のある奴らではあるがな。クラディスくんが良いというなら、パーティーごと引っこ抜こうと思ってるんだが」
「……ということは、アンも」
「あぁ。ぶっちゃけ言うと、君たちの知名度が欲しい。悪いようにはしないよ」
「ぐぬぅぅぅぅっっっ〜…………」
「わぁ、お兄ちゃん……すごい顔してる。ぶさいくだよ、おにいちゃん」
これは……悩む。
即決なんてできない。隣で佳奈が失礼なことを言ってるが、それどころじゃない。
「でもっ、ぼくは、アサルトリアの人たちと一緒に……」
そうなのだ。ぼくは約束をしてしまっている。ムロさん達と一緒に旅をしたりっていう約束を。
それをするためには、同じ血盟の方が良い。だから……違う血盟に入るのは。
「その点も心配要らない」
ズイと手を前に出してきた。手相が見えてしまいそうな距離にある小さなお手手。
なんだ、まだなにかいい話が……。
「血盟には提携を結ぶ所があり、その多くは加盟のような形を取っている。言ってしまえば、上下関係という奴だ。フーシェンがソレに当たる。あそこは、息のかかった奴に血盟を建てさせて、多くの下部組織を作っている。血盟には色々な補助金が出るからな。そこら辺の制度を上手く使ってる訳だが」
なんだか前の世界でもそれっぽいことを聞いた気がするが、まぁ良しとしよう。
何事もルールというのは穴があるため、賢いやつはその穴を使って得をする。フーシェンって思ったより厄介なところなんだなぁ、と。
「ティータとアサルトリアは、組合への貢献度から『姉妹血盟』として認められている。お互いに血盟員が少ないことから、大規模な依頼などが発生した時に両血盟から人員を募集して共同で行っても良しというモノだ。完全に同じ血盟としては活動はできないが、ある程度のことならいい。小さな依頼でも一緒に受けることができる」
「ぐっ……」
「完璧だろう。クラディス少年」
「…………いいことばかり、並べられて、大変困っています」
話を聞く限り、悪い点なんてない。
苦味が全くない最高級の料理みたいなもんだ。それに、加入に差し当たって『罪悪感』なんてものもない。
入ったら最高の富と名声を! っていう話でもないのだ、これは。
組織に属するだけ、ただそれだけ。
ハインストの時に感じた「ぼくなんかが」っていう感情はない。別にティータが零細血盟だからという話ではなく、ケトスがいたし、リリーさんとは仲良くさせてもらっているからというのが大きいのだろう。
「……あのぉ……加入にさしあたり、ネガティブな面はありますでしょうか」
「もちろんある。まずは毎年、血盟員としての会費を収める必要がある」
「………………」
「…………」
「……え、それだけですか?」
「うん」
なんということだ。
金さえ払えば、様々な恩恵を受けることができて、なおかつ解析士のリリーさんの後ろ盾も手に入れることができると。
アサルトリアの皆さんとも一緒に行動をすることが認められ、なおかつあの毎日パーティーなどはなし。
最高の話だ。ぼくにとってマイナスなことなんてないように思える。だが、後々、何か話が出てくるかもしれない、から。
「…………前向きに」
「加入だな。分かった。なら、申請をしておくな」
「ちょっ……リリーさん!?」
「なんだ? まさか、これだけ色々なことをしてやったのに……これっぽっちのことを受けてくれないというのか……?」
うるうるとした目を向けられ、指先をへにゃと曲げた。
うぐっ、なんだその顔……。そんあ顔もできるんですか? 恐るべし。
「アンにも話を通さないと、いけない、ので」
ばっと顔を背けると、口をひん曲げていた。さっきの顔は男を落とすための手法の一つみたいだ。効かなかったことを残念がってる様子
「……ふん、まぁ、そう言うと思って、先に許可は得ているさ。王国で取り調べなどをさせて貰ってる時に、さらっとな。あるじが良しとしたら、なにも言わない、と言っていた」
んへ、としてやったりの顔を浮かべられ、加入の紙をぺちぺちと顔に当ててくる。
「ほれほれ。どうだ、わかったか。これが手回しという奴だ。ふはははははは」
このぉ……性格悪い小学生の女子みたいな態度で詰め寄ってきやがって……。
こんな態度だが、彼女の年齢は三桁を越している──とケトスに聞いた。
そんな年齢の人がぼくみたいなガキに本気出すなんて、大人げないですよ。
「……分かりましたよ、じゃあ、ティータに加入予定ということで」
「お! やりぃ〜」
「でも、まずは金等級にならないといけないので。まだ保留という形で」
「おう、そうだな。頑張れ。んぅ〜! これで弱みを握ってる奴を仲間にできるぞ〜。あ〜、楽しみだ。仕事を任せやすいからなぁ、キミみたいな人は」
「……サイテー」
「優しいお姉さんだと思って近づいてくるからだぞ、坊や」
むふ、と口元に手を当てて笑っていた。
この人は思ったより厄介な人なんだな。その割にはケトスにこき使われていたが。
「あと、言っておくが。アサルトリアはキミが思ってるより、クリーンな血盟じゃあないぞ」
「へ? それって……どういう」
「話は終わり! 忠告もしたし、じゃあ、訓練場に戻ろっか妹ちゃん」
「うぇ、あ、はい……!」
「えっ……あのぉ……」
佳奈と肩を組んで去っていくリリーさん。
「どういうことなんですか、あのぉー……」
アサルトリアがクリーンな血盟じゃないって。
「だったらなんで姉妹提携かなんかしてるんですか」
本当に不思議な人だなぁ。




