423 ハインストへの誘い
イブの話を聞いていたら、彼女が持っていた通信魔導具に連絡が入ったらしくて広場に戻ることになった。
前の迷子の一件で、ハインストが持たしてきたらしい。解決方法としては最適だ。
「そういえば、あれからどこに行ってたの?」
「協会! ふぁざーが仲間を呼びに行くからそれに同伴してた」
「ログリオさんの仲間って本当に強そうだなぁ……」
元、剣闘士協会のトップにいた人だ。実力で言うと王国の元帥クラス。お団子先輩やそれの付き人みたいな……エスタっていう人と同じくらいの実力ということ。想像もつかないなぁ。
「じゃあ、この国に来たのは?」
「待ち合わせ場所がここだった。だから、今はみんなが集まるまで待機中って感じ?」
「へぇ〜。じゃあ、さっきのはみんな集まったから戻ってこいって話か」
「だと思うよ。見送りありがとクラディス」
「いいよ。だって、友達だもん」
後ろに手を組んで笑うイブに、頭の中でエリルが警鐘を鳴らしている。
すぐに逃げましょう、と。
だけど、ここで変な態度を取った場合、色々と勘ぐられる可能性が出てくる。
──称号Ⅰ持ちは、称号Ⅰ持ち同士で惹かれ合う。
こんな話をどこかで聞いた気がする。
おとぎ話に出てくる勇者は賢者とずっと一緒だし、イブやケトスは実際『称号Ⅰ持ち』だ。
転移者という称号Ⅰがあるとは初耳だった。おそらく、公にはなっていないのだろう。だが、公になっていようがいまいが、ステータスに刻まれているのが真実だ。
実際、ぼくがこの世界で初めてできた友人は勇者で、次にできた友人は転移者。
惹かれ合うという話も眉唾ものではない。
(ここで態度を変えたら、イブにとってぼくが『クラディスというたまたま出会った友人』から『運命が引き合せた称号Ⅰ持ち』になってしまう可能性がある)
だから、慎重に行く必要がある。
まだ、ぼくのことを『転生者』や他の称号Ⅰ持ちだと思ってない……今の間は、まだ友達で居られるのだから。
「クラディス? どうしたの? 顔がぶさいくだよ?」
「……なんでもないよ。イブ」
でも、ここらで別れた方がいい。
…………なんで、こんな思いをしないといけないんだ。
……なんで、転生者ってだけで、友達に対して……こんな感情を抱かないといけないんだ。
「……イブはさ。ぼくのこと、好き?」
「なに言わせるつもり〜? 好きじゃない。大好きだ!! 食べちゃうぞ〜がお〜!」
「食べられるのは困るなぁ」
心の底から笑いたいのに、苦笑いになってしまう。
表情を取り繕うのが前よりうまくなったと思ったのになぁ。
「じゃあ……」と行って、イブに近づいていった。
「? くらでぃす──」
肩に手をおいて、頬にキスをした。本当に軽いモノだ。
子どもが悪ふざけでする程度のキス。
「おまじない。……ぼくとイブがずっと仲良しでいられるようにって」
「…………」
「……イブ?」
顔を真赤にして、イブはぼくの顔を真っ直ぐに見ている。
口をパクパクして、キスした所に手を当てて……ちょっと怒ったような顔になった。
「おまじないだぁ!? だったらボクだって──」
顔を近づけてきて、おでこをコツと合わせてきた。ジィと目を合わせる時間がちょっとだけあった。
そして、おそらく、この後にされることもなんとなく予想が着く。
「……いいよ、イブになら。なんのおまじないをくれるの?」
優しく笑うと、おでこが熱を持ったのが伝わってきた。
至近距離で顔を赤くして、目をキッと吊り上げて気丈に振る舞うように。
「ボクとクラディスが……!! ずっと……好きでいられるようにって!」
「あはは。いいおまじないだ」
笑うとイブは恥ずかしそうに口をつぐんだ。この人、さっきはオムライスを口移ししてきたんですよ。本当に同一人物ですか?
まぁ、あの時は色々と思い詰めていたんだろうからコッチが素なんだろう。
勇気を振り絞るような時間が空くと、イブはぼくの腰辺りにまわしていた手の力を強めて。
「────イブ。帰ってきてたんだね」
よこから聞こえてきた声で、二人の顔が離れていく。
「あ、ふぁざー……!」
「キミは……クラディスくん、だったか。久しいね。新聞に名前が載ってなかったかい?」
「お久しぶりです。ログリオさん。まぁ、新聞は……はい……」
「……? 凄い格好だが……舞踊でもしていたのかな?」
「「え」」ぼくとイブは顔を見合わせて、客観視をした。
お互いに腰に手を回し、上半身だけを仰け反らせている姿。
きっと変に見えるだろう格好。
「あはは……えっと……」
「ね。別に、その……あはは」
「仲良いのは伝わってくるよ。でも、そうか……キミだったのか」
「……?」
ログリオさんはハットで表情を少しだけ隠して笑うと、ハットを取って小さく頭を下げてきた。
「クラディスくん。下位ダンジョンの最速記録更新おめでとう。あの時から随分と強くなったみたいだね」
「あの時は……まぁ、はい……でもまだまだです」
「ふふ。そんなことないさ。金等級になるのも近いかな。じゃあ、あの時の話をまたしても良さそうだ」
というと、ハットを被り直してぼくの方に手を差し伸べてきた。
「ハインストは近々、大きく変わろうと思っていてね。仲間を募集中なんだ」
……おそらく、イブを見送る時にこうなるだろうとは思っていた。
「クラディスくん。キミは、私達と仲間になるのに相応しい人材だ」
ニコリと微笑む顔。作った笑顔などではない。
優しく、物腰柔らかそうに。
だからこそ怖いと感じた。
「改めて問おう。ハインストに来る気はないかい?」
この人にとって『クラディス』という存在の価値が、ぼくには分からないのだ。




