420 イブの告白
え、何が起こった?
なにが、どうなった? オムライスは、自分がいつも作ってる味だった……けど、ちょっと甘くも感じた。
その前に、なんで、あれっ、ぼく……えっ。
「イブの今のって…………」
腰が抜けて床にぺたんと座り込んだまま、口元を抑えて感触を確かめる。
アレは……でも、そんな……。
「…………」
「もしかして、告白する……練習?」
「へっ?」
「だってそうだよね。イブの好きな人……カッコいいって言ってたし、可愛い所があったり、優しい所があるって。ぼくはそんなんじゃないし」
「……」
「もう、実験台にするのはやめてよ〜、びっくりしたじゃん! なぁんだ。そうだよね、うん、そうだ。うん……」
イブの好きな人はぼくじゃない。ぼくなハズがない。
だって、ぼくたちは友達だし……。
「イブ。ぼくらは……ともだち……」
──「お兄ちゃんにとって友達でも、その子はキスをしたんでしょ? だったら、そいつはお兄ちゃんに気がある。それは友達ではないッ!!」
「…………なのか、な」
ぼくのファーストキスの相手は、イブらしい。
でも、寝ぼけてた可能性だってある。
「……クラディスはさ」
「……?」
「ボクのこと、嫌い?」
「嫌いじゃない! 好きだよ……嫌いならご飯も作らないし。ぼくら友達でしょ?」
伏せるように聞かれたから反射的に答えた。
それが満足の行く答えだったのかは分からないが、
「……そうだよね。やっぱり……うん、そっか。分かったよ、驚かせてごめんね」
というイブは優しく笑っていた。
心のなかにある不安の種が消えていく気がした。
やっぱり、そうだよね。友達だから、なんか、その気の迷いとかそういうので。
佳奈やアンが変なことを言うから、ぼくも変に意識しちゃってた。強めのスキンシップとかそういうので。
──と釣られて笑っていると、抱きしめられた。
「なんて言うと思う?」
「……っ!?」
腰から背中に手を回され、逃げれないように拘束。
ぼくよりも上背のある体が密着し、ぼくの体はイブに埋もれた。
「欲しい物があったら、実力で奪え。それが冒険者だ」
「あのっ、イブ……?」
グッと力が込められ、呼吸が上手くできない。
股に足を入れ込まれて足を動かそうにも動けない。
「クラディス。本当はボクの気持ちに気付いてるんでしょ? で、友達として好きだけど、恋人としては見ることができない。それはボクもそうであってほしいと思って。友達っていう関係が居心地が良いから、このままでいて欲しい」
「その……力、強い……から」
「ボクはクラディスが好きだよ。大好きさ。ひと目見たときからね」
何を言っても力が弱まることはない。
蛇のように抱きしめられ、足を絡ませ、まるでぼくを捕食をしようとしているみたいだ。
「正直、クラディスをめちゃくちゃにしたい。こんな場所にいるクラディスを連れ去って、手枷でも嵌めて、ボクの手と繋いで、ずっと一緒に暮らしたい。それくらい好きなんだよ」
「…………」
強い言葉を向けられて、ぼくはイブの背中に手を回した。
「……!」
イブを受け入れようとすると、ゆっくりと彼女は瞳を閉じた。
ぎゅぅと力を込めると、あわせるように抱きしめられた。
しばらく互いの全身が密着して温度を感じるような時間があった後に、ぼくは肩に顔を乗せたまま。
「…………イブ」
「なあに?」
「なにかあった?」
と感じていた違和感を口にした。
「……なんで?」
「いや、えっと……そういう感情を向けられたことがなくて。ちょっとびっくりしてて」
言葉がまとまらない。でも、ちゃんと喋ろうと息を一度整えた。
「……イブがぼくのことを好きになってくれて嬉しいよ。でも、イブがそんなに……強い言葉を使うのって見たこと無かったから、何か、怖いこととか、不安定になってるんじゃないかって思った」
これが僕の感じたことだ。
素直に好きと言われるのは嬉しい。イブは美人だ。キャリアウーマンというか、皆が羨むようなエリート街道を突っ走ってるような人。
それなのに話しやすくて、ぼくのことを心配をしてくれて、アンを助けるための手助けもしてくれた。
だからこそ、彼女の様子がおかしいと思ったのだ。
「めちゃくちゃにされるのは困るけど、イブが抱えてる悩みがあるなら話してほしい。僕の勘違いだったらごめん」
少しの間しか一緒にいなかった。だけど、こういうのは前から敏感な方だった。
佳奈が昔クラスの男子にイジメられていたことがあって、その時に異変に気付いたのはぼくだった。
いつもと様子が違う。急にイイコトをし始めたり、独占しようとしたり、ご飯の時の会話が少なかったり、と。些細な変化がある。
普段通りを装おうとして、返って空回りをしたり、感情に歯止めが効かなくなったりする。
今のイブはそれに近しい何かを感じたのだ。




