419 イブの好きな人
「おぉ、青春してるんだ。いいなぁ〜。どんな人? かっこいい?」
「かっこいいよ。すごく。かっこよくて、でもちょっと弱くて、可愛い所もあって」
かっこよくて可愛い所がある……? ふむ。
「ということは小動物系? 意外だ。もっと、こうー……ログリオさんみたいな大人な男性のことを好きになるかと思ってたのに」
「ううん。ひと目見た時から好きになったの。料理も美味しくて、優しくて、がんばりやさん」
「ふぅーん、家庭的なんだ」
なんだその完璧な人。格好良く、可愛く、料理ができて、優しくて、頑張りやさん。え……すごいな……尊敬できる。
イブが好きになる理由も分かる。欠点が無い人っているもんだなぁ……。
「完璧だね、その人」
「うん。あと、いい匂いがしてね。落ち着くニオイがするんだ。声も耳の中にすっと入ってくる。汗の匂いなんて全然気にならないんだ。で、困った時に少し首を傾けて話す時の素振りとかも可愛くて、爪がキレイ」
いよいよおとぎ話にでてくる王子様的な存在になってきたな。話を聞く限り欠点がなさそう。いや、恋は盲目というヤツか?
「大好きなんだ、その人のこと」
「うん。大好き。食べちゃいたいくらい」
「あー、その気持ちはあるかも。犬とか猫とかさ、可愛いからなんか、こう、ハグを貫通して……みたいな」
「分かってくれるんだ。クラディスって優しいね」
「いや、こればっかりはペットを飼ったことがある人ならなんとなくわかる気がするから。ぼくは飼ったことないけド……」
会話の下で、じゅうじゅうとフライパンの上でご飯が具材と混ざっていい色になっていく。
会話に集中もしているが、久々にイブにうまい飯を食わせてやりたいのである。
それにしても……イブがそこまで熱愛をしているとは思ってみなかった。それも大好きときた。
「って、そんなに好きな人がいるなら……ぼく、大丈夫?」
「……? なにが?」
「だって……男の家に上がったって……」
おずおずと聞いてみると、イブは目を丸くしていた。
「あははははははははは! 大丈夫だよ。だって、その人はボクがこれだけ好きなのに……分かってないみたいだからさ」
「え〜、そうなの? それは辛いなぁ。でも、イブは可愛いからさ。あと何より強いし! 最強じゃん。だから、大丈夫だよ」
「そうかなぁ」
「そうさ。イブなら大丈夫だって」
イブもその男の人に負けないくらい完璧な存在だ。ちょっとだらしない所があるくらいで、それ以外は立派な冒険者で、立派な女性だ。なにより、イブほどの美人さんはそうそういない。
「その人に気付いてもらうためには……どうしたら良いと思う?」
「どうしたらって……うーん、ぼくも恋愛経験が豊富って訳じゃないけどさ……女の子から告白は嬉しいもんだよ」
「そうなの?」
「うん。あと、イブが好きになった人なら素敵な人なのは間違いないと思うからアタックしちゃうのは? その人は別に彼女いないんだよね?」
「いないって言ってた」
お、既に事前情報を得てるのか。用意周到だ。
「なら、先手を打つのがいいかも。そんな立派な男性がいるなら他の人もほっとかないだろうし……。って中身のないアドバイスばっかりでごめんね」
「……クラディスは女の子からの告白は嬉しいんだよね?」
「そりゃあ嬉しいよ。だって、ぼくみたいな人を好きになってくれる人なんて滅多にいないだろうし」
「そんなことないよ」
「そんなことあるよ。ぼくはさ……弱いし、泣いてばかりだし……本当に、自分が嫌いなんだ。皆に迷惑かけてさ。ちょっと強くなったと思っても、中々距離が縮まらない」
「料理できるじゃん。美味しい料理をさ」
「誰でもできるよ、こんなの。ぼくもイブみたいに強くなりたいなぁって思うよ……監査庁にも堂々と強気に出れるくらいにさ」
「クラディスは強くなるよ。お姉ちゃんが約束しよう」
「そうかなぁ……だといいけど」
と話している間に、オムライスの出来上がり。手慣れたものだ。というか、おかずとかなにもないけど大丈夫かな。
「はい、お待ち〜。オムライスです、どうぞ」
「ありがと。……クラディスの分は?」
「実は、昨日も食べたばっかりなので。気にせず食べてよ」
イブの前にオムライスを持っていき、隣で待機。久々のクラディス特製オムライスのお味を聞きたいのである。
スプーンが卵と少しだけのご飯を乗せ、口の中に運んでいく。
もぐもぐ、とイブが静かに咀嚼をして喉を通っていったのが見えた。
「どう? どう? 美味しい? どうよ」
「……う〜ん」
「え、美味しくない?」
「いや、そんなことはないよ。味の感想かぁ……」
悩む様子のイブは再びスプーンをオムライスに差し込んでいた。二口目である。
「そんなに表現しにくい……? ふつーに美味しいとか、不味いとかで──」
と言いかけていると、イブがぼくの胸ぐらをグイと引っ張り……強引に唇を重ねた。
「!?」
何が起きたのか分からずに混乱していると、何回か咀嚼されたオムライスが口移しされ、口内に一気に卵とトマトソースの味が広がった。
噛む必要がないソレをそのままゴクンと飲み込むと、イブは口をゆっくりと離して。
「こんな味」
子どものような笑顔を浮かべて、ぼくの口元についたソースを拭う。
指先についたそれをペロと舐め取ると、
「どう? 美味しかった? ボクの好きな人」
「……ふぇ」
ぼくの腰は抜けていった。




