418 クラディスの好きな人
とりあえず広場から離れたのだが、どこに行くのかという話になった。イブが行きたい場所を聞くと、僕の家と言われて家に招くことに。
家が近くなると、イブは「まだ窓から入れるの?」と聞いてきたので、戸締まりはちゃんとしてますと言っておいた。
あと、イブがいた頃とは場所が変わってるし。二階から一階になったんです。まぁ、ケトスみたいに出入りしようと思ったらできるけどさ。
「どうぞ上がってくださいな」
と言いながらドアを開けると、イブが着いて入ってこなかった。
「へっへーん。違うでしょ? クラディス」
「?」
入り口に止まったイブはにへへと笑い、
「おかえり、でしょう!」
「……。おかえり……なのか?」
「おかえりです!」
「じゃあー……おかえり。イブ」
「ただいま、クラディス」
スキップをするように入り口に入ると、扉を締めて戸締まりをしてくれた。関心関心。
「なんか料理作ろうか? ちょうど食材を買ってたところだし」
「わぁ……クラディスのご飯食べたかったところなんだ。じゃあ、オーダーはねぇ」
「「オムライスで」」
やはりそうだったか。イブは声があってちょっと驚いた顔になったが、すぐに笑っていた。
気に入ってたもんな、オムライス。卵は高いけど購入済みだ。任せろ。
「じゃあゆっくりしといて。旅行の話とか色々聞きたいし……久々にあったから、ちょっとテンション上がっててさ」
それに助けてくれたし。ハインストの影響力恐るべし。そんな所に誘ってもらったのって、僕の人生史上、割と上位の方の自慢話になる気がする。
「ボクも久々のクラディスで栄養補給ができて満足である」
「なんだそれ」
「ずっと会いたかったんだからね〜? クラディスはどうなのさ。会いたくなかったの?」
「そりゃあ会いたかったよ。同年代の子で仲良く話せるのケトスとイブくらいなんだから」
「ふぅ〜ん?」
「なんだよお、にやにやしてさ。友達少ないってばかにしてんだろ」
「なにも言ってないじゃん! 被害妄想おやめ」
なんだか懐かしい感じ。久々に会ったのにこんな感じで話しできるのっていいなぁ。
友達っていいな。エヴァーチェの人らは友達って関係じゃないし、雪山のみんなも友達とはちょっと違う。アンも友人というより、従者だと自分で言ってるし、ナグモさんやティナ先生達も友達とは違う。
同年代で、肘で小突きあうことができる関係。それはぼくにとってケトスやイブだ。
「友達がいないなら彼女はどう? 好きな子とか」
「彼女かあ〜……いないかなぁ」
「! そうなんだぁ。へぇ〜、ふぅ〜ん? ふふふっ」
アンとぼくの関係は彼氏彼女っていう関係ではない気がする。
あくまで従者と主人という関係の延長線上。どんな表現が相応しいのかというのは難しい所だ。
「それなら良いんだよ。いやね? ボク、ちょっとクラディスのことがさ──」
「あ、でも、好きな人はいるかも……」
「………………え?」
「あ、いや、待って。好きな人……か?」
好きな人という括りでいいのか?
アンってぼくにとってどういう立ち位置なんだ?
従者であって、でもずっと一緒にいて欲しい。でも、彼女ではない。許嫁……でもないし。
好きだ。恋愛的な感情もない訳じゃない。
でも、ぼくにとって『彼女』という言葉の認識にアンが当てはまらない。そんな単一の単語で収まらないというかなんというか。
「好きな人というか……なんだろう。背中を預けれて……頼もしい存在というか」
ふさわしい言葉が見つからない。とりあえず、彼女とは違うか。
かといって、彼女って枠が空いているのかと言われるとそうではない。
彼女の役目も半ば果たしている従者で、友人で、背中を安心して預けることができる……
「良き、パートナー……か。相棒? そんな感じか」
「……………………」
なんだか自分で言っていて恥ずかしくなってきた。でも、これが言葉としては相応しい気がする。
いなくなったら困る存在。背中を預けられる相棒。うむ。これでよし。しっくりきた。頭の中のアンもVサインをしてる。
「……もしかして、その人と、今、暮らしてる?」
「あ、そうなの。イブと別れた後に色々あって……あれから大変だったんだから」
イブと別れたのはアンの闘技場に行く前くらいだった。
アレからフーシェンなり、上位魔族なり、なんなりと……色々なやつと戦った。
「今は僕を含めて三人で暮らしててね。なんだかんだワイワイとしてるんだ。あ、ケトスはちょっと前に協会に行っちゃったよ」
「…………へぇ、そうなんだ」
「また三人で集まって……一緒に寝たりしたかったなぁ。あの時、すごく楽しかった。たまにあの時の夢見るし」
あの時のことを思い返す。
「またみんなでクエストを受けて遊び倒したいな」
「……」
「休日に誰かの家に集まるとかそういうノリでクエストにいってさ、お金稼いで、二人に料理を振る舞って……。でも、イブはハインストの方が忙しいだろうし、ケトスは協会に行っちゃったし」
でもさ、と言って笑った。
「ケトスは僕を間違えて殺そうとしてからだし、イブなんかは窓から入ってきた不法侵入でさ。……そんな出会いで、友達になって、こうやってまた話せてさ。ぼくは嬉しいなぁ……」
この世界にやってきて、バタバタと忙しくなってきたのはイブ達と別れた後からだ。
それまでは、ムロさん達と旅をして、ナグモさんと訓練して、ケトスに出会って、イブに出会って。……でも、誰かに命を狙われることなんてなかった。
転生者だと罵られず、殺意を向けられず、何も考えずに外に遊びに行って、ただの少年のように毎日を送れていた。
それが……今は、こうだ。
「……」
ってか、イブもなんか無言になっちゃったし。
あれ、なんか変なこと言っちゃったかな。
「逆にイブはどう? 好きな人とか、彼氏とか」
と聞いてみることにした。
なんの気ない質問を返しただけ。
「……いるよ。好きで好きでたまらない人」
というイブはどこか落ち込んでいるような表情だった。




