417 友人の介入
突然の友人の登場に頭が混乱していた。
一気に色々なことが起こりすぎて、なにがどうなっているのかが分からない。
「なんで、ここに……イブが」
「ん? なんでって言われてもなぁ〜……旅行帰り?」
確か、イブと最後に会ったのは……ログリオさんと会った時だ。
ファザー(ログリオさん)を見つけたからって言う理由で、さよならしたんだった。
どこに行くのかっていうのは聞いていなかった。といっても、旅行帰りって。
「貴様ッ! 監査庁の邪魔をすることとは何事だ!」
男が抜き身の武器を持って近づいてきていた。
そうだ、今は監査庁がこの場にいるんだ。それに、イブは監査庁を強引に退かした。
イブまで変な疑いがかかってしまう……。
「…………あ”?」
ぞくり。
耳に入ってきた声に、背筋に冷たいものが走った。
誰の声だ? 今の声って、イブが出した声……か?
同時、ぼくの手を握っていた力が強まるのを感じる。ゆっくりとイブの方を振り返ると、見たことがないほどイブの顔は歪んでいた。
「監査庁が何の用? なに、邪魔しないでって言ったよね」
「貴様こそなんの道理で邪魔をする。監査庁の邪魔をすることは」
「邪魔なもんに邪魔って言っただけじゃん。なに? クラディスのことを転生者だと思ってるの? 何も知らないくせに」
イブはぼくを抱き寄せて、男を見下すように顎を上げた。
監査庁の男の武器の先端に触れ、剣先を降ろすように力を加えて。
「転生者ってのは最初から強い人のことを言うんでしょ? クラディスがどれだけ訓練してたか知らないでしょ」
「カモフラージュの可能性だってある!」
「だから何を知ってるのオマエが? 失礼な奴だな、ホントに。アレだけ努力をしてた人を捕まえてさぁ! なんでそんな顔ができんのさ……キモイよ」
イブは飽き飽きした様子で僕に回していた手で、胸元にあった血盟の認識票を取り出してみせた。
「それに、クラディスはボクの友人だ。分かったら消えろ。下っ端」
「貴方はっ……ハインストの!?」男はそれを見て瞠目し、後退り。「大変申し訳ございませんッ! そうとは知らず」
武器をしまい、汗を顔に浮かべて頭を下げた。
「……他のものにも退却を命令させます。だから、この件は……どうか」
「いいよ。今は別に機嫌が悪いわけじゃない。でも、早くどっか行ってほしいなぁ」
「! 承知いたしました」
というと、周りに控えていた監査庁を引き上げさせ、男は建物のほうに向かっていった。
「ったく……ほんと、ヤになっちゃうな」
「……」
イブの血盟の認識票を見て態度が一変した。
監査庁の人間は……ハインストに頭が上がらないのか……?
まぁ、血盟順位が2位の大血盟だし……権力には勝てないってことか。
「イブ……ありがとう」
「ん? 怖い思いしたね、クラディス。可哀想に〜、おーよしよし」
「……」
ガシガシと髪の毛を撫でられ、されるがままに。
イブってこんなテンション高かったっけ。いや、高かったか。
「首取れる、首取れる」
「ちょっと背、高くなった!? 前はちっこかったのに!」
ズイと体を寄せて、手のひらで背丈を比べ始めた。
「イテテ」
チョップが顔面に当たる。わざとやってるでしょ。
「ま、まぁ……成長期というか」
「眼帯じゃなくなってるし! でも、包帯の方が雰囲気が良いよ。うん、かっこいい」
「ありがと……」
ベタベタと触られ、あははと苦笑い。
とりあえず……ピンチは逃れたって見ていいのかな。
「あ、そうだ。ねぇ、そこらでクラディスのことを悪く言ってた奴ら。そう、君たち」
と、イブはぼくの頭越しに後ろで盛り上がっていた外野に向かって。
「何も関係ない外野が勝手に盛り上がらないでほしいなぁ〜。安全な場所で味わえる刺激を求めるのは結構だけど、他所でやってくれ。正直、不快だから」
「そこまでしなくてもいいよ、大丈夫だから」
「ボクの気持ちが晴れないの! 知らない癖にっ! ふんっ!」
イブとはしばらく一緒に過ごしてたし、その期間はティナ先生との魔素を使わずに訓練をしていた頃だ。
ぼくが言いにくい所まで周りに言ってくれて、正直、スカッとしたのもある。
「てめぇ……ハインストの」
「? あぁ、キミか。クラディスにつっかかってた子」
ぼくからは見えない──ほとんどイブに抱きしめられてるから、鎖骨あたりしか見えない──けど、スケアが戻ってきたようだ。
スケアは知っているような口ぶりだけど、イブは知らなさそう。
「なんの用だよ! 邪魔をしやがって……もう少しでソイツの化けの皮を剥がせれたってぇのによォ!」
「外から見てたけど、ひっどいなぁキミ。僻み妬み……みみっちい」
「あぁ!?」
「下位ダンジョン如きで盛り上がってるの、正直、みっともないよ?」
「何も知らねぇ癖に……オレがどれだけソレに懸けてきたか」
「知らないよ。でも、実際そうでしょ?」とイブは言うと、何か思い出したかのような顔になって。「あー、待って。キミのこと知ってる。フーシェンに入ったばかりの子でしょ!」
スケアのことを知っていたらしいイブは、少し声色を弾ませた。
「超新星って言われてたから見てたんだけど……。たしか……仲間が死んだんだっけ? 中位ダンジョンで。あはは、その程度だったってことじゃないの?」
「…………」
「大方。周りがちやほやして、持ち上げられて、ダンジョンで失敗して、現実に打ちひしがれてるって感じ? 超新星じゃなくて隕石みたいな感じだ」
「…………やめろ」
「そっか! クラディスが頑張って力をつけたのを『転生者』って一言で片付けようとするのは、自分の才能がないのが『凡人』だからって思ってるからか! なぁんだ、分かった分かった」
「…………だまれっ……!」
「そうやって何かに言い訳をして逃げないと辛いんだ。かつてはすごかった自分、それに自信を持てなくなったから。仲間が死んで、再起不能状態。直視するのは難しいよねぇ。前みたいに我が物顔で道を歩けなくなったんでしょ。で、今はクラディスにつっかかって気分を晴らそうとした!」
ぱちんと手を打ったイブは、笑みを浮かべて。
「だから、その程度なんだよ。所詮、小物だ」
「何も知らねぇ奴がオレらのことを馬鹿にするな──ッ!」
「お前がやったことだよ、コレが」
襲いかかろうとしたスケアの眉間に指を立てて勢いを殺した。
近寄ったら殺す。そんな雰囲気を漂わせて、イブは言葉を続ける。
「何も知らない奴に人生を語られるのって本当にうざったいでしょ? これ、キミがさっきクラディスにしたことをそのまま仕返しただけだよ? どう?」
「どうもこうもっ……ソイツが──そいつが……」
イブの眼圧に、スケアはゆっくりと顔を落とす。
「そんな弱いガキが……できる訳がねぇんだ。俺たちが……どれだけ頑張ってきたと思って……」
「それしか言わないんだ。じゃあいいや。よかったね、クラディスに構ってもらえて」
いこ、クラディスと手を引かれてぼくはその場に踏みとどまった。
「クラディス……?」
ここでこのまま立ち去ったら、この子はどうなるんだろう。
大嫌いだ。一番嫌いだ。コイツのせいで、ぼくはさっき死にかけたんだから。
でも、そこまでぼくを毛嫌いするのには理由があるはずだ。
「スケア」
名前を呼ぶ。が、スケアの顔は上がらない。
「ぼくは、ごめんとは言わない。悪いことをしたつもりはないから。でも、英雄になるんだろ。だったら──」
なんて言葉をかけたらいいのかは分からない。
だから、ここはシンプルに思ったことを口に出そう。
「頑張れ」
完全に余計なお世話ってことは分かってる。
でも、一応、生きた年月でいうと僕の方が年齢は上だ。
本当に大嫌いだし、正直ぶん殴りたいけど、憎んでいる訳ではない。
「同年代をコケ落とすんじゃなく、同年代から憧れるような存在になれ。人の足を引っ張るほど、お前は弱くないんだから」
実際に手合わせをして感じた。確かに準上位血盟のユットロールさんやケトスと比べたら、この子は強くない。
だが、年齢には見合わないほどの力がある。そして、目立とうとして他種族の人をかき集め、それをまとめ上げる能力もある。
決して、才能がない訳がないのだ。
「ぼくなんかに負けるな。強くなって、また肩で風を切って歩けばいい。だから、折れるなよ」
「…………」
おそらく、僕の言葉は彼の心には響かない。僕の自己満足で終わっただろう言葉。
プライドが高い人というのは折れたら立ち直るまでに時間がかかる。しかも、仲間が死んで、今は再編成の時期。
不安定で、足をつけてなにかできるような状態ではない。
「クラディス。もう良いよ、アイツ、どうせ頭の中で言い訳してるから」
イブの言葉が正しいと思う。
言葉を受け入れるほど、彼は余裕があるわけではない。
「……うん。でも、これだけ憎んでる奴に言われた言葉は、すぐに思い出せるだろうから」
それが吉とでるか凶とでるかは分からないけど。
「……」
手を引かれ、ぼくとイブは中央広場から去った。




