415 スケアの目的
「馬鹿、オマエっ──街中だぞッ!?」
武器を捨て獣と化した鉤爪で喉元を狙ってきた。
(ぐっ、なんて速度だ!)
咄嗟に出した小刀で軌道をズラしたが、頬に傷が入った。
殴った動作のままスケアは露天商の中に突っ込み、上に跳ね上がり、壁に掴んで吠えた。
「知るかよッ! 転生者退治だ!! 全力で相手しねぇとだろう!?」
「イカれてるよ、オマエ……!」
「オレよりも年下のガキが、ダンジョンを攻略なんてできる訳がねぇ……! 転生者が! オマエなんか死ねばいいんだ!」
速すぎる動きで服を切り、包帯で隠れている左目に回り続ける。
厄介な戦い方をする──それに、周りの人たちは何故、避難をしないんだ!?
「誰かッ! 手を貸してくれ! ここに転生者がいるぞっ! 監査庁を呼んできてくれ!」
「なにを……」
「コイツのパーティーメンバーは転生者だと疑われてた奴だ! ソイツが転生者じゃねぇならコイツが転生者に決まってる! 見間違えたんだ! こっちが本物の転生者だったんだ! 誰か!」
「おまえ……なに──いい加減にしろよ……!!」
何を言っているんだコイツは!
イカれてる!
何を根拠にそんなことを言ってるんだ!?
二次転職のデータを見たと言っていた。が、何も変なことはしていない。
アレを見て分かるのは、普通の銀等級の冒険者ができないだろうレベルの依頼を熟した、ってくらいだ。
「何を根拠に言ってるんだよ!」
それにこんなデタラメな話を誰が信じるっていうんだ!?
「オイ……あそこにいるのって……フーシェンのスケアじゃないか?」
「なんでアイツがこんな町中で暴れてるんだよ」
「転生者と戦ってるって言ってるぞ」
「はぁ!? それであんなに暴れることって」
「普通ならそうだろうが、本気で戦ってるってことは……本当なんじゃないか!?」
「だったら、俺たちも加勢した方が」
なんで、そうなる……!?
普通に考えたらそうはならない!
急に暴れ出した奴が正義で、それに襲われてるのが悪者扱いされるって?
(──いや、違う。これは……)
直近にあった転生者の処刑執行で、皆の深層心理に『転生者』の存在が表に出てきたばかり。
大血盟のルーキーが考えなしでそんなことをするわけ無いという根拠のない信頼。
そして、それらを増長させるように、大衆の中にいる奴の裏工作。上手く隠してるが”仕込み”が紛れてる。
「誰か、早く監査庁を呼んでこい!」
「フーシェンのルーキーが暴れてる! 相手は誰だ!?」
「馬鹿、スケアは戦ってるのは転生者だって話だ」
くっそ……大衆心理を動かすために、スケア側の意見を言う奴がいる。
ただの三文芝居だ。でも、十分な効果を発揮する。
(くそ……どうする!? なにが正解だ!? 逃げた方が良いのか!?)
攻撃を受け、受け身を取ろうとして──加勢をしようとしていた冒険者が見え、速度を上げた。
窓の縁に乗ると、優雅にコーヒーを飲んでいる人が見えた。
「マズッ……人が!」
「なに止まってんだァ!? インチキ野郎!」
「……ッゥ!」
スゥッと息を吸い込み、連撃を防ぎきった。
「!?」
「くっ!」
だが、スケアの爪に硬度で負けていたぼくの手持ちの小刀が割れた。
次に伸ばされた手を掴み、一本背負いして空に向かって投げ飛ばすと、後ろから放たれた火球に対処ができずに背中に受けた。
「ぐっあ……!」
「当たった! スケア。今の間に──」
落下しながらも《力ある言葉》で鎮火を試みる。
「《沈まれ》《火よ》」
チリチリと服を燃やしながら地面に落下しているぼくを追撃しようとスケアが真上から降り注ぐのがみえる。
──アイツ、かぶりをしているけど……鉱人か。
スケアを無視し、火を放った『魔法使い』にギラと目を向け、空を蹴った。
「え──」
顔面を鷲掴みにして、地面に叩きつけた。
意図していなかった動きに対応できずに鉱人を無力化。その後ろから切り裂こうとしてきたスケアの腕を止めた。
「グッ!? てめぇ……!」
「素早さを殺したら、狼人は何もできないだろ」
グググと押し合いが始まる。だが、膂力での勝負なら負ける気がしない。
スケアという狼人はスピードタイプの戦士だ。ぼくもそっち側ではあるが、何かと力でゴリ押す機会が多かった。
なので、力はそれなりにある方。
「……っ、あぁ、何もできねぇなぁー……」
だが、スケアはむしろ口元を釣り上げてぼくを見下ろしている。
なんだ。なんで笑っていられる? この硬直状態で何か策でもあるのか……?
「まぁ、何もできなくてもいいんだよ。──目的は果たしたんだからなァ」
「目的? なにが……」
──ジッ。
「!?」
広範囲に広げていた魔素感知に一際大きな魔素が映り込んだ。
──と、理解した瞬間には、背後に影が迫っていた。




