414 説明がつかない
「ずっと探してたんだぜ? どこにいたんだよ、記録保持者」
「色々とね。忙しいのさ」
一番嫌いな理由はコイツの性格がぼくととことん合わないから。
平気で人を殺そうとする。最初会った時も難癖付けられた。まぁ、アレはぼくのせいもあるんだけど。
英雄になるために手段を選ばず、若い冒険者を殺そうとした犯人。
だが、バックには大血盟のフーシェンがいて下手に手出しができない。
「じゃあ、オマエはもう帰れ。用済みだ」
スケアが手を上げると、マスコミの彼女は帰っていった。
「……?」
「? あぁ。オマエを見つけるために、アイツらを王国中に配置してたのさ。さっきまでの話は時間稼ぎ。記事なんかにはしねぇから安心しろよ」
「そこまでして……なんでぼくと」
「そんなの決まってんだろ? なぁ……どんな手を使った?」
薄ら笑いを浮かべながら近寄ってきながら、肩に手を置いてきた。
「オマエみたいなカスがあんなに早い時間でダンジョン攻略ができるワケもねぇ」
「もう一人が優秀なんでね。ぼくは何も──」
「嘘を付けよ。なぁ、オマエ、えらい優秀な冒険者サマみたいじゃん?」
耳の横でそう呟いてきた。
「聞いたぞ。オレぁ……下位ダンジョンのデータ、全部見せてもらったからなぁ〜……。そんで、二次転職の件も」
「……情報がはやいこと」
「組合に知り合いがいてな? そういうのはすぐに教えてもらえるんだよ」
……ナクソンか。くそが。捕まえるまで泳がせすぎた。
アンは監査庁に捕まえてもらい、ぼくの方は村人達に殺させるつもりだった。だが、ぼくが生きていると彼は知った。
その次の手でコイツに何か依頼でもしたのか?
「まぁ、お仲間自慢はどうでも良いが、触るのをやめてくれるか。昨日の今日で疲れてるんだ」
肩におかれた手を退かすと、顔面に向かって拳を伸ばしてきた。
「──……なんのつもり?」
弾くようにして軌道をズラシたが、微量の殺気が混じったもの。
弾かねば顔面に突き刺さっていただろう。
「うるせぇよ。質問したのはコッチだぞ? どんな手を使った、腐れ野郎が」
「……」
「ダンジョンを攻略したことで気が大きくなってんのか知らねぇけど、巷で噂になってるぜ? オマエが不正したんじゃないかってな。あの日、オレが凄んだだけでビビり散らかしてた奴が……なぁ、教えろよ」
グイッと胸ぐらを掴んできたので、それを上から押さえつけた。
眉間の皺がより深く刻まれたのが見えた。
「答えは分かってる。不正登録をしたんじゃねぇのかってな。実力を隠してたんだろ? そうでなきゃおかしいもんなぁ?」
……コイツは何を言っている?
さっき、ビビり散らかしてたって言っていたのに『実力を隠している』だって?
自己矛盾をしていることに気付いていないのか。
「不正登録者ってのはよくある話だ。元々、他ンとこで強かった奴が冒険者組合に登録して、知名度欲しさに迷宮に潜るって行為だ。階級は低くても実力が上。昔に横行したカスみてぇな行為だ。テメェはそれなんだろ?」
「何を言い出すかと思ったら……そんなことする訳ないでしょう」
「だったら! なにをしたっていうんだよ!」
「普通に攻略しただけ──」
「そんなワケねぇだろ!! てめぇみたいな能天気で、何の苦労もしてねぇような奴がっ……!! 俺たちの記録を更新できるワケがねぇだろうが!!」
能天気、か。まぁ、そう見えるんだろう。
実際、ぼくは相変わらず威厳なんてものはない。
鏡で見る自分はいつ見ても中性的な顔で、苦労なんてしてないように見える。
でも、ちょっと癪に障る言い方だ。
「組合の知り合いに3日くらい観測でも待ってもらったか? 組合員と仲良しだもんなぁ! そうなんだろ!? そうじゃねぇと……」
「いい加減、落ち着いてください。運もあったと思いますし、あなたにとってそんなに重要なことなんですか? なんでそんなにつっかかってくるんですか。たかが下位ダンジョンで」
「……てめぇ、いま、なんつった……?」
なんだ? なにか変なことでも言ったか?
「重要なことなんですか……だぁ? 何も知らねぇんだな、重要に決まってんだろ……?」
ふつふつと湧き上がっていた感情に火が着いたようにスケアは話す。
「オレらがどれだけ頑張ってダンジョン攻略をしたか知らねぇ癖に! オレらがどれだけソレに懸けてきたか!! それをっ……たかが、下位ダンジョンだって!? 馬鹿にするのもいい加減にしろよ! 簡単だったって言いたいのかァ!?」
「別にそういう意味で言った訳じゃない……」
「だったらなんだって言うんだよ!」
「おまえは英雄になるって言ってたろ」
ピシャリと言い切ると、スケアは目を大きくしていた。
過去の栄光をいつまでも引きずり、それを更新した奴に苛立ちをぶつける。
なにがそんなに彼を駆り立てるのかがぼくには分からない。
「英雄になるなら、次の目標をクリアしたらいいじゃないか」
胸ぐらを掴んだ手がゆっくりと離れていくのを感じた。
開いていた目は下に向き、暴言を吐き散らしていた口は下唇を噛むようにして閉ざされた。
「フーシェンに所属をしてるなら、そこで地位を上げたらいい。次のダンジョンを攻略したら良い。ぼくを探して毒を吐く暇なんてないはず──」
グッと握られた拳にぼくは気づかず──その拳はぼくの頬にねじ込まれた。
「……!?」
反応ができなかった。
体勢が崩れるまではいかなかったが、口の中が切れたらしく、じんわりと鉄の味が広がっていく。
血を吐き出し、口元を腕で拭った。
「……てめぇは、本当に、気分を逆撫でしやがるっ……!」
次に振りかぶられた拳は受け流し、全部の拳を叩き落した。
最後の拳を受け流すと、スケアは顔を歪ませたまま。
「何も知らねぇ奴が、正義面して語ってんじゃあねぇ!!」
そう言い、握りこぶしを解いた。
もう攻撃が当たらないと思ったのだろう、両腕をだらんと下げた。
「──やっぱり、てめぇは転生者だ」
「は……っ?」
「オマエみたいな奴がッ……! 俺たちの記録を超えれるワケがねェんだ!!」
そういうと、スケアは姿を変え始めた。
「……!」
聞いたことがあった。
獣人は制限をかせられた種族だと言われているという話。
冬季には動きが鈍くなるし、ステータスにもばらつきがある。只人ほど器用になにかできるわけでもなく、弱点も多い。
だからこそ、一定水準に達した獣人には『あるスキル』が顕現する、と。
「形態変化……」
──わかりやすく言うと、完全獣化。
「転生者だ! テメェは! でないと説明がつかねェんだよ!」
スケアは獣人の切り札を使い、襲いかかってきた。
顔は獣へと代わり、白銀の体毛に覆われた彼は今や雪原に巣食う狼男のような見た目へと変わっている。
今の彼は、人型の獰猛な獣だ。
クラディス君がめっちゃ空気が読めない風になってるので、彼の評価を下げないために作者のわたしがフォローを少し。
「下位ダンジョンの記録というのは英雄になるための登竜門だ」
と一応は聞いている彼は字面では分かっているつもりなんですけど、クラディス君にとって「下位ダンジョン」はあくまで通過点に過ぎません。
でも、このフーシェンの彼にとっては「下位ダンジョン」に全部をかけていたわけですね。
まず、その違いがあります。
それに「下位ダンジョン」はスタートダッシュの準備を重ねてめちゃめちゃ努力をしたら「最速記録」を更新できるわけです。
理由としてはいままでの転生者さん達は「最初から強い」わけなんで、すぐにランクがあがりますし、下位ダンジョンなんか別にクリアしなくてもいいので行くこともないですし。
勇者やら賢者やらもわざわざ下位ダンジョンに挑むこともなかった(ケトスは攻略してますが、それをわざわざ伝えるのも億劫だし、当時の彼は実績作りなんて考えてなかったので)
なのでこの「最速記録」というのは「狙い目」な実績だった訳です。
そういうのを全く知らないクラディス君は、まわりから「やってみなよ」という流れだけで攻略をしてしまいました。
そりゃあ腹立つ存在になる訳ですよね。
これが怒るポイントになります。
あと、クラディス君の感覚が徐々にバグり始めてます。
周りは勇者だ転生者の子どもだ、上位血盟のエース達だ〜に囲まれてたらやっぱり「転生者っぽい」感じになっていきます。
前の章では転生者と戦ったり、危険度の高いモンスターとも戦ってるので本当に「今更下位ダンジョンかぁ〜」って具合です。
ナクソン達の「ランクを上げない方が血盟に引き抜かれて面倒事になりにくい」というフーシェンやらロバートの目論見が、完全に「スケア」君に返ってきた訳ですね。
いやぁ、大人のすること皺寄せを喰らうのはいつも子どもですね。
可哀想に。
ということで、クラディス君は本当に「煽る気」なんてさらさらなくて、それも英雄になりたいんだったらアレくらい攻略しないといけないんじゃないの……? なんで「あの程度」を攻略しただけで騒いでるんだよ……という気持ちです。
よっ、転生者!




