413 一番嫌いな冒険者
「下位ダンジョンの最速記録保持者のクラディスさんですよね!」
「あ、う、あ……そうですが」
「ちょっとお話聞かせて頂いてもよろしいですか!?」
うわ……変な人に捕まった。
せっかくだから、いつも行かない露天商で買い物をしようと思ってたら新聞屋に見つかった。
顔つきの写真が新聞に乗ったんだもんなぁ。そりゃあ、分かる人には分かるか……でもタイミング悪いなぁ。
「えぇっと……今、買い物中で」
「すぐ終わりますので!」
引かないか。ケトスに付きまとってたのを見てたけど、熱意が凄いんだよな。
にっこりと笑顔を浮かべているが、それが作り笑いだとすぐに分かった。こちらを警戒させないような笑顔を浮かべている。
「はあ……買い物をしながらで良いなら答えますが」
「ではそれで」というと、彼女は横に来て「強さの秘訣を教えてください」
「……」
次に買うものはお肉系か。とりあえずは二人分を買っておけばいいだろう。
日本のように丁寧にパック詰めをされているワケではない。グラム数で注文をして、適当に収納袋に詰め込んでいく。保存方法が確立されていることは肉が日持ちをするってことだ。さすが異世界。
「あの、質問に……」
「買い物がメインですので、申し訳ない」
自分がナクソンの情報をタレコミした新聞社ではない。まぁ、どこを贔屓にしているとかではないが。
というか、あまりこういうインタビュー系は答えたくないというのが本音。新聞社の情報が証拠に成りうる世界で、下手な答えをすると面倒なことになりやすい。
こういう態度を取るのも本来はNGなのだろうが、向こうさんが良いと言ったのだから付き合ってもらおう。
「強さの秘訣を」
「秘訣……っていうほどアレではないんですが、組合の制度を利用して強くしてもらいました。私は孤児ですので」
「ほお! それは初めて聞きました」
「昔にあった制度らしいんですが、試験的に動かしてみたらしいです。結果はどうなったかは分かりませんが」
あ、アレ美味しそう。
「すみません、その魚ください。二匹」
「あいよ〜」
「となると、最近の冒険者の死者数の件も組合側は危険視しているということですかね」
「んーっと……え?」
なんて踏み込んだ質問に答えてしまうと「アレ、このガキやたらめったら答えるな?」となる。
年齢相応に答えるというのを忘れてはならない。ぼくはこの世界ではまだまだガキなのだ。
「ちょっと、そこらへんは……すみません。わからないです」
これくらいでいいだろう。
大規模クエストの子どもたちよりは少し年上だけど、ケトスやイブよりは年下の微妙な年齢。
ちょうど調子に乗り出しそうな年齢で、中には変に達観をしているヤツもいるというお年頃。
……まぁ、ビシビシと冒険者組合で指導をされたので丸くなったっていうのでいいだろう。調子に乗れって言われて、調子に乗れるほどぼくは強くないしな。
「……そうですか。ふむ。組合の制度を利用したと。では、次に踏み込んだ質問なのですが」
ズイと近づいてきたのを避けながら買い物を続けていると、
「ケトスさんの彼女という説は本当なのですか?」
「……は? なんて言いました……? いま」
思わず聞き返した。
「ケトスさんの情報を探している時に、クラディスさんがケトスさんの彼女であるという話をいただきまして」
リリーさんのところの二人組か?
はぁ、へんな情報が回っていきそうだ。
「それが本当なら中位ダンジョンの最速記録保持者と下位ダンジョンの最速記録保持者のカップルということに──」
「ぼく、男ですよ」
「え」
「変なことを言わないでください」
ジロジロと下から上までを見られて、首を傾げられた。失礼だな、ホント。
「申し訳ありません。お気を悪くして」
「それよりも、他に質問はないですか? 野菜を買いに行きたいんですが……そこまで着いてくるつもりです?」
「なら、すぐに終わらせましょう! 正直なところ、相方が転生者という話を受けてどう感じていますか?」
「……」
それが本当に聞きたかったことか。
マスコミ的にはアンという少女が転生者だと大きく報道をしていたのだ。まだまだそのネタを擦り続けたいのだろう。
(この人の新聞社は……あぁ、首から下げてる許可証。確か、出資先はフーシェンか)
新聞社を探してる時に色々とクリーンな所を探そうとしてた時に見つけた。コイツらは真っ先にアンのことを報道してたくそったれ。今回の計画にも携わっていたと見ていい。
そんなところに色々と言ってやる義理もない。
「ぼくは……彼女が転生者じゃないと信じていました」
どう思っていたなんか教えてやるものか。
「あと、彼女はもっともっと有名になるべきです。彼女のおかげで記録を更新できたようなものですから」
優しくほほえんで適当な回答を返す。
「なるほど! では最後に──クラディス様とお話をしたいという方がいらっしゃるので、ぜひ、お話をしていただきたいのですが」
「ぼくと……?」
なんだ? アンの話がしたかったワケじゃないのか?
「えぇ。場所は予め伝えていますので、そろそろ来られるかと……あ、きたきた」
マスコミの女性が向いた先に視線をやると──バチッ。
目があった。
「……!」
その視線の先にいたのは、ぼくの前の下位ダンジョンの最速記録保持者の彼。
「紹介する必要はないと思いますが、フーシェンの超新星のスケアさんです!」
「よぉ、クソザコ。久しぶりだなァ」
ぼくがこの世界で一番嫌いな冒険者だ。




