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412 ムロさんオタク

  


「そういえば、アサルトリアの血盟拠点ってどこだっけ」


 王国の中部は入り組んでいて良くわからないので、中央広場に出てみる。

 最初来た時はファザー探しの時だっけ。


(あの時よりもちょっと小さく感じるのは、この前のせいかな)

 

 少し前、ここでこの広場を覆い尽くすほど集まった人に向かって話をしたなんて嘘みたいだ。


 あの建物から死ぬほど緊張をしながら歩いて、内心ドッキドキで演説みたいなのを初めて。

 リリーさんを呼んでからある程度は落ち着きを取り戻したけど、本当にヤバかった。泣きそうな声を出してた時、普通に泣きそうだったし。仮面はもっと早く外す予定だったけど、がっちがちの顔を見られるのが恥ずかしかったから結構後半に外したんだよな。


 今日の広場はあまり人がいない。

 まぁ、雪がちらついてることもあるんだろう。冬ももう終わりだというのに、まだ雪が降るなんて。

 

 広場からアサルトリアの血盟拠点までの距離はそこまで遠くなかったハズ。

 




「レヴィさーん。あれ、いないのかな」


 外から見た時、拠点内に明かりはついていなかった。

 結構どんちゃん騒ぎしているイメージがあったから、もしや、と思ったけど。


「まだ帰ってきてなかったかぁ〜……はぁ」


 なんだか今日はこういうのが多い気がする。

 暇な時に限って、他の人と予定が合わないのはどこの世界でも一緒か。

 大人しく帰るか、と扉を閉めようとして。


「お。お客さんかな。他の人は依頼に行ってるよ?」


 ぼくの声が聞こえたのか、誰かが奥から顔を覗かせてきた。

 紫色の髪で、目の下に泣きホクロがある青年。


「冬が終われば下半期の順位が決まるからね。最後の追い込みに行ってるみたい。今年一年を通しての総合評価もあるし」


「えーと……」


「ぼくはお留守番」


「あ、そう……なんですね」


 別に聞いてはないけど…………こんな人いたっけ?

 紫色の髪なんて滅多にいないから分かると思ってたんだけど……。

 一応、アサルトリアの人たちの顔はそれとなく把握しているつもりなのだが。

 

「キミはアレだよね。血盟お試し期間……だっけ? その時に見た気がする」


「……っと、えーと」


「ぼくは新人だよ。この前、加入したばかり。上位ダンジョンも一緒に連れて行かれたし」


「あー、そうなんですね」


 相槌のバリエーションってこんなに少なかったっけ。

 何か会話を広げた方がいいか?


「そうだ。ぼく、これを返しに来ていたんです」


「ン。魔導書? なんで? 目、黒いよね」


(あ。しまった)


 やばい。最近、色々なことが起こりすぎて、基本中の基本を忘れてた。

 目の色で特性が決められている世界。黒い瞳は剣闘士の適性がある。そんな奴が魔導書の……それも中級魔導書を返しに来たって。


「えーと、魔法、使ってみたいなーって思って」


「? 魔法かっこいいもんね。分かる。ぼくもさ、昔は無茶したもんだよ」


「ですです!」


 あー、良かった。子どもで助かった。

 

「レヴィさんから借りてたの? って、キミはアレか。ムロ先輩が拾ったっていう子ども!」


「そんな認識なんですね……でも、まぁ、はい。その通りです」


「なんだぁ、それならそうと早く言ってよ〜。よろしくね。ぼくの名前はツコルって言うからさ」


「ツコル……さん。はい、よろしくおねがいします」


 手を持ってぶんぶんと振られ、されるがままに体を揺さぶられた。

 テンションたっか……。後輩によくいるタイプの人だ。七三分けで高身長。見た目はクール系なのに……ギャップですね。

 

「いやぁー……ムロさん達って強いよねぇ」


「やっぱり強いです? あんまし戦ってるとこ見たこと無くて」


「強い強い! だって上位血盟のエースだよ? ムロさんはずっと前から協会から声がかかってるみたいだし」


「へぇ……! そうなんだ……やっぱり、強いんだ……」


「強さの秘訣はなんと言っても統率力というか場面を理解しているというかそういうのが秀でてるね。リーダーって感じがする。的確な指示が絶対に飛んでくる。目が後ろにあるんじゃないかと思うね、アレは。で、なおかつ腕っぷしが強い! 上位ダンジョンの階層主とタイマン張っても勝てるってやばいよ」


「わっ、わぁ……そんなに……普段の様子からじゃ考えられない……」


「そこがいいんだよ。そこが」


「それはそうですね。たしかに」


 なんか楽しくなってきた。この人、ムロさんオタクか。

 話が合うじゃないか。共通の趣味があれば盛り上がるというが、互いに好きな人が一緒なら話も合うというもの。


「でもあの年齢であれだけ強いとなると……称号Ⅰ持ち(インファンテ)な気がするんだよなぁ」


「? そうなんです?」


「じゃないかって睨んでるね。賢者じゃないとして、勇者かどうか……」


「んー……」


 そんな感じの思考回路になるのか。

 あの年齢であれほど強いんだ。だったら称号Ⅰ持ち(インファンテ)──って、この世界ならではだな。

 なんでもかんでもステータスボードが教えてくれる世界だからこそ、か。でも、ぼくには分かる。


「ムロさんは称号Ⅰ持ち(インファンテ)じゃないと思いますよ。それこそ勇者っぽくないです。もっと、勇者ならこう〜なんか、イメージとして」


 ぼくの知ってる勇者でケトスってのがいるけど、アレは例外だと思う。 

 いや、待て。もう一人勇者を知ってるな。あの王国元帥の……名前が忘れた。金髪男性の方。エスタさんだっけ。

 賢者もあのお団子先輩だし。称号Ⅰ持ち(インファンテ)に勝手なイメージを着せるのはダメか。

 

「そうか勇者じゃないとしたら……まさか、転生者とか!」


「あはは……転生者って」


「いや、あり得なくないんだよ。この前、転生者って疑われてる少女がいたでしょ? ぼく的にはまだこの世界に転生者は隠れてると思ってるんだ」


 指を立てて解説口調になったツコルさんに苦笑い。

 こんなテンションで転生者って疑われるムロさん。まぁ、それだけ強いってことなんだろうけど。

 ツコルさん、あなたの前にいるのも転生者ですけど、よわっちぃですよ。伝わることはないけどさ。


「あまり幻想を抱くのはアレですけど、この前なんか、ムロさん……闘技場でボコボコにされてましたよ」


「……へぇ〜。そうなんだ」


「まぁ、あの人、毎朝ランニングとかしてますし、努力の人ですよアレは」


「ふぅーん……なら違うのかぁ。残念だ」


「でもそれくらいつよいってことですもんねぇ〜……見てみたいなぁ、ムロさんの全力」


 というと、興味深そうにこちらを見ていた。なんだその目は。


「あ、そういえば、結局魔法は使えるようになったの?」


「いえ、全然。やっぱりできそうにないです……ははは」


「そうかぁ……残念。コレ、レヴィさんに返しておけば?」


「はい。お願いします」


 結局、話が終わる雰囲気になって、アサルトリアの拠点を離れることになった。

 不思議な人だったなぁ……ムロさんのファンがいるとは思わなかった。


(しかも男っていう。ムロさんのお兄さん気質が好かれるんだろうなぁ)


 女性受けはレヴィさんの方がありそう。まぁ、ぼくに女装を強要してくるような変態さんなんだけど。

 

「とりあえず、一つクリア。後は残り時間で買い物でもするか」

 

 もっとお話したかったけど、また会えるだろう。

 

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