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402 処刑執行日



 良く晴れたその日。

 冬季も春季に移行していることもあり、日当たりはよいが風がまだまだ肌寒く感じる時頃。

 デュアラル王国の中部に位置する大広場では、大勢の人で賑わっていた。

 突如として監査庁からもたらされた情報により、平日の昼間から『あるもの』を見に来ている人々だ。


 転生者の生き残りを捕らえることに成功をした。

 

 このような話を聞いて足を運ばぬ者はいない。

 何年ぶりかの発見報告に心が踊った。だが、彼らの表情は喜びや楽しみというものではない。


 憎しみ一色。

 誰もが今にも人を殺し始めそうなほど、歪んだ感情を宿している。


 広間にできた簡易的な処刑台は、今まで多くの転生者を葬ってきたステージだ。

 斬首台が用意をされていないのは、転生者の首を刎ねる役を監査庁が負っていたから。だが、今回の処刑の執行人は監査庁ではない。


 今回の執行人は王国に認められた賢者様が直接手を下すのだという。


 彼女の名前はアイリス。『白銀賢者』と巷で密かに話題となっている麗しき女性だ。

 仮面を外さない理由は明確にはなっておらず「傷があるから」「仮面がないと恥ずかしいから」「どこかの貴族出身で身分を隠しているのでは」という様々な憶測が飛び交っている。

 

 なぜ、彼女が話題となっているのかは簡単だ。

 記憶に新しい王都襲撃。

 その魔族を撃退した傭兵出身の女性がアイリスで、それに加え新設部隊──【紫蘭之団《オーキッド》】の隊長に任命された。

 また、彼女の戦いぶりを見ていたという人も多く、小さな武器と魔法攻撃で魔族を蹂躙する姿は『武闘賢者』という異名に相応しい動きだったという話だ。


 今回はその賢者様のお披露目会も兼ねているのだ。

 

 皆の注目する先には監査庁の建物があった。そこから処刑台までは真っ直ぐの道で繋がれており、人が立ち入れないように警備員が立っている。

 あそこから転生者と賢者が出てくるのだ。皆は今か今かとその二人の登場に心を踊らせていた。


 そして、扉が開いた。

 

「わっ! 出てきたぞ!!」


 口々に現場の様子を話し始める者たち。その様子が見えない後列の者にも言葉とその熱が伝わり、人が前へ前へと波立つ。

 最前列は互いに押し合い、潰れそうになりながらも、一番最初に出てきた人物を目に収め──爆発した感情を向けた。


「転生者だ!! 転生者が出てきたぞッ!!」


 今にも石でも投げつけそうな声色に変化し、その広間に集まった千人は優に越えるであろう者たちから一斉に殺意を向けられる。

 友を殺され、家族を殺され、婚約者を殺された者たちの怒りはいくら年日が流れても収まる訳がない。

 人の波が一層激しく波打つようになり、警備員達がグッと踏ん張った。警備員の間から手を伸ばせど届く距離ではない。が、届くものもある。

 

「あんた達のせいで、私の旦那は死んだッ!!」


「のうのうと生きてきて、ざまあないねっ!!」


「あんたは今日、死ぬんだ!」


 言葉の矢が直線を歩くアンに向けられ、放たれ始めた。

 耳を塞ぎたくなるような言葉を投げつけられながらも、転生者の少女は下を向いたまま動かない。

 そんな態度が気に食わなかったのか、何者かが投げた石が彼女の頭に当たって、彼女はよろめいた。

 

「よしっ、当たったッ!」


 男はガッツポーズを決め、誇らしげに歯茎をむき出しにした。

 一矢報いてやったんだぞ。オレは、転生者に。そんな感情を羨ましく思ったのか、皆は投げれるものをその転生者の少女に向かって投げ始めた。

 靴、空の水薬、壊れた矢の鏃、新聞紙を丸めて投げている者もいた。

 警備員が止めたとしてもそれらは止まらず、舞台の熱は高まっていって。

 


「────」



 ふわ、と香ってきたニオイとその存在感に動きを鎮められた。

 転生者がある程度の距離まで進むと、建物から出てきたのは女性と思われる人物。

 それが誰かはすぐに分かった。


「賢者様だ……」


 腰辺りまである銀色が混ざったような白髪を揺らし、投げ物が落ちている道を歩く。

 仮面を被っていることで表情は見えないが、その雰囲気や肢体は外で眺めていた者たちの視線を奪い取った。

 神聖さ。

 純潔さ。

 決して、自分たちが触れてはならないような存在。

 

 仮面をつけているから感じるのか。いや、仮面を付けているからこの程度で収まっているのだ。

 男が欲情をしそうな体の曲線を持ちながらも、それが決してイヤらしく見えず、美しく見える。

 今まで騒々しかった男たちは生唾を飲み込み、女たちは嫉妬の目すら向けることできずにただただ見つめている。

 

 あれほどまで高まっていた熱を一瞬にして鎮めた存在感に、周りにいた警備員や監査庁の関係者も目を見張った。


「…………」

 

 腕を拘束された転生者の少女がいる処刑台にまで登った賢者は辺りを見回して、後ろについてきていた監査庁の職員に武器を渡されて受け取る。

 長く、切れ味の良さそうな剣だ。鞘から抜くと、白銀色をしていた。

 まるで賢者様のために作られたような武器だ、と感じた。




「──────私の両親は領土戦争で死にました」

 



 武器を転生者の少女の首に近づけて、落ちるように呟いた。

 賢者の演説が始まった。

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