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399 監査庁に乗り込み




 ルル先輩にもらった招待状を手に持ち、王国内の監査庁に向かった。

 どこにあるのかは知っている。ここの王国の中には監査庁は一つだけ。

 王国の中部の大広場。ぼくとイブがファザー(ログリオさん)探しをしていた時に通っていた場所だ。

 映像記録媒体がここ最近普及してきたのか、広場にはできたばっかりのモニターが並んでいる。ファンタジーの世界観には合っていない所に構えられている大きな施設。


(まさか、ここに入ることになるとは)


 周りの西欧風な建築物の中でも一風違う建築方法で建てられたであろう建物。というか、豆腐建築というか、なんというかだ。

 博物館と言われた方が納得ができる見た目をしている。こんな地価が高そうな場所にこんなでかい建物を建てるか。

 外には目をギラつかせている人たちがいる。門兵よりも警戒心が高めだし、遠目で見るだけでも強いことが分かる。

 服装も神の執行人だと言いたいのか、白色を基調とした服。マントというのか、ロングコートとは違う気がする。

 

「失礼します。アイリスと申します。招待状を受けたのですが、ご確認をお願いします」

 

「お待ちしておりました。アイリス様。中の者を呼び出しますので、今しばらくお待ち下さい」


 セキュリティとしてもこの世界準拠のセキュリティだ。そこまで高度なものではない。

 だが、気を抜くわけにはいかない。ぼくの想像通りなら、おそらく……やはり居た。

 待たされていた間、案内人の他にもう一人を呼んでいたらしい。

 通路に座っている人物──鑑定士だ。


(ここを通過する奴は鑑定士がチェックする、という仕組みか)


 鑑定されるとしても称号Ⅰになにかがあると分かる程度。

 それはリリーさんの証言から「賢者」であるとされているため、クリア。


「アイリス様。ここより先に入るためには持ち物検査が必要なので」


「えぇ。もちろんです。ご自由に」


 身体チェックを受けるのは想定済み。

 収納袋なんてものは持ってきていない。武器としては小刀を佩いているだけ。

 というか、平気で胸とか触るんだな。仮面もはぐられた。おい、返せ。


「どうされました?」


「すみません……仮面……ないと、人と話すのが恥ずかしくて……」


「! それは申し訳ない。失礼いたしました」


 こんなでもいけるのか。もしかして、案内人さんの好みの外見だったか。

 仮面を返してもらうと向かった先は地下の牢屋のような場所。ここには転生者疑いだと思われている人たちが収監されている。

 今はそこまで賑わっている訳ではないようだ。

 そこからさらに奥に進んだ最奥の所に、彼女《アン》はいた。


「この方が?」


「はい」


 鎖で結ばれ、瞳に光はない。

 最後に話をした時からは考えられないほど憔悴しきっている。

 

「既に鑑定はしたんですか?」


「えぇ。鑑定をしています。その結果、アイリス様へ招待状を送らせて頂いた次第になります」


「ということは」


「私が申し上げても良いのですが……今、ここで鑑定士に鑑定をさせましょうか」


 後ろに手を組んでいた男が、看守に鑑定士を呼ぶように命令を飛ばす。

 すぐに顔を隠した鑑定士がやってきて、アンの元に立った。


「…………」


 アンはぼくのことを見て、何かすぐに察したようだが空気を合わせてくれている。

 アイリスって名前は一緒につけた名前だからな。

 仮面をしているし、性別が違うから確信はないのだろうけど。


「鑑定をしてみてください」


 こくりと頷いた鑑定士は鑑定を始める。


 ぼくとアンの間にはレベル差が存在している。

 アンの方が高いため、鑑定をしたとしても詳しい情報は出てこない。

 そして──この鑑定士のレベルも見てみると……レベルは到底アンに及ばない。


 個体名:シエル

 職業:鑑定士

 レベル:78


 鑑定士はレベルを上げるのは難しい。『鑑定』のレベルを上げたとしてもレベル差があれば見ることは叶わない。

 つまり、この人はアンを鑑定したとしても見えない情報が多い。


「……鑑定が済みました」


「どうですか?」


 アン・アルジェント

 称号Ⅰ:なし

 

 ぼくが見えた情報はこの通り。

 だが、


「この人は転生者です」


「…………」


 一瞬、殺気が漏れ出て、腕に力が入った。

 今すぐにコイツの首を掴み、壁に投げ飛ばしてやろうかと思った。

 だが、周りに人がいる以上、そんなことはしてはならない。

 それをしたとしたら、他の罪で罰せられる可能性がある。

 堪えろ。我慢しろ。

 

「……そうですか。転生者、と」


 なるほど。

 これは──冤罪だ。


「十分です。鑑定をしていただき、ありがとうございました」


 仮面をしていてよかったと心底安心した。

 ぺこ、と頭を下げて帰っていく鑑定士から視線を切る。これ以上、見つめていると不思議に思われる。

 

 冤罪をふっかけて、アンを殺そうとしている。

 ティナ先生が言っていたのはコレか。


 この冤罪を晴らし、アンを殺したい奴を返り討ちにする。


 どれだけ冒険者を向かわせても殺せなかったから、鑑定士に金でも積んででっち上げる。

 フーシェンとロバートだ。金は腐る程あるんだろう。

 救いようのない、下衆共。


「キミ、転生者なのか」


 スッと鉄格子に手を当てる。


「危ないですよ、アイリス様」


「大丈夫ですよ。鎖に繋がれているんだ」


 仮面を外してアンと目を合わせた。

 紫と黒色の瞳で、ぼくだと確信を得ただろう。


「…………」


 監査庁の人を背中で遮り、ふわ、と表情を和らげた。

 なにかメッセージをしたいが、下手にして勘ぐられるのも不味い。アンとは主従契約を結んでいないから念話もできない。

 今はまだぼくが彼らに疑われていない以上、その状況を利用しない訳にはいかない。


「処刑の執行は」


「二週間後を予定しています」


「ならば、予定を開けておかねばなりませんね」仮面を付けて、来た道を帰るように歩く「あぁ、楽しみだ」


 声色を笑わせながら、腹の底ではどす黒い感情が蠢く。


 二次転職の依頼でこれをするつもりだったのか。

 それとも、下位ダンジョンのことが新聞が出てからなのか。

 ロバート辺りから早急に殺せ、と命令が下されたと見るのがいいか。

 二次転職じゃなくても、アンを個別に依頼を向けてそこにフーシェンを向かわせても同じことができるはずだ。

 だけど、それをしていない。ということは計画の日が浅い可能性が高い。

 杜撰な所が目立つのはそういうことなのだろう。

 

「ふふ……」


「アイリス様。それほどまでに、楽しみですか?」


「えぇ。楽しみで仕方がありません」

 

 これで王手のつもりか? 

 

 あと二週間もあるのだぞ?

 

 色々と作戦を立ててたみたいだが……まだ、やりようはある。

 冤罪でアンを転生者として殺す。そんなのさせるものか。


「余裕そうな表情を歪むのが楽しみです」


 ──ひっくり返してやる。


 どんな手を使ってでも。絶対に。

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