390 気の毒です
「──!?」
今日は月が雲に隠れてる。部屋の明かりなんてものもついていないから真っ暗闇だ。
でも、ぼくは夜目を持ってる。暗くても相手の顔が見える。
「どうしたんですか? 寝込みを襲うなんて……」
そこにいたのは村長の横にずっと立っていた男性だった。
その男が片方の手を振りかざした所、握っていた手に力を込めて男の体を壁にぶつけた。
「言い訳なんてできないですよ?」
ベッドで姿勢を直していると、男は笑った。
「はははは……ほんの戯れだよ。大丈夫さ。ごめんなぁ、怖かったよなぁ。冒険者さんだから、ちょっと試してみたかっただけなんだ」
「その割には武装をした人をこの宿の周りに立たせてますよね」
「……なにを言ってるんですか。冗談を……」
「ぼくを殺せば、報酬金を払わなくても良い。山賊の討伐の証明も換金ができる。男たちに山賊の巣に向かわせたら更にお金を得ることができる」
「────」
「やっぱり」
図星か。
というか、ぼくがこの世界の住人なら考えそうなことだ。
ダンジョン帰りの冒険者や、それこそ御大層な武器や防具を持っていて倒しやすそうな奴をいい気分にさせて寝泊まりさせ、夜中の間に殺して、金品を剥ぎ取る。
大人なら酒を飲ませていたりしたんだろうが、この体は子どもだからな。さすがに無理がある。
飯は断っておいたからな。おそらく、なにか混ぜられるとは思っていたし。
「最初っから、この村には違和感があったんですよ。まさか、殺されそうになるとは思ってもみませんでしたが」
「違和感って……」
「金の出処はどこです? もしかして、この手の略奪で資金繰りをしてる訳じゃあないですよね?」
「……あはは……なにを言って、そんなことする訳」
「依頼を発行した割には情報の提供も少なかった。そして、この家に泊まるって言った時には既に貴方から殺気が見えた。……まだ、逃げれると思ってます?」
ジリッと床についていた手を丸める男。
攻撃の意思あり。まだ、戦おうとしている。
いや、言い逃れができず、後に引けないと判断したのか。
「お前ら──!!」
男の叫び声を号令として家に突入してくる男たち。
となると、外に控えている魔素の少ないのは女性か。……そうか。あの人達も、犯行に加担をするんだ。
「さすがにこの人数なら、殺れるだろ……!」
「……はぁ」
ベッドに座ったまま、足を組み替えて、手を動かした。
「なにが──ぐっ!?」
クイと指を動かして、男たちの首に這わせている魔素を締め付けていく。
この宿に入ってきた時点で、既に全員に魔素を這わせている。
彼ら側からしてみれば、得体のしれない何かに首を締め付けられているような状況なのだろう。
麻央さんとの戦闘でぼくの魔素も黒系統の色に近づいた。魔素の回路も広がったことで、結合数を高めても体に害はない。
「ガキが……何をしたっ……!」
「何をしたって言われてもなぁ……」
魔素で縛っていますなんて言われて、そうなんだ、となる訳もない。
「……先手を打てるとでも思ってました? ガキだから、甘く見てさ」
いや、子ども一人にこれだけの人数を用意する時点で甘くは見てない。
この村の最大戦力ということなのだろう。
「ん。警備の人間がいないのは、わざわざ王国からの警備の人の交代期間を作り出してるのか」
「……!」
「やっぱり、慣れてますね。これで金稼ぎをしてる訳だ。何人殺しました?」
「ぐっ……ぅ」
「答えてください」
グググと出力を強めると、男は顔を真赤にして吠えた。
「俺たちを殺せば、オマエが人殺しとして疑われるんだぞ!」
「……えぇ。だから、そう言われないために」
空いている両手にとあるものを取り出した。
これは通信魔導具。返し忘れていたモノだ。魔素を注ぐと部屋中を照らすほど明るくなった。
「あ、もしもし。聞こえます?」
『んにゃっ、えッ、クラディスくん? どうしたの?』
「──!? 助けてくれっ! 助けてくれっ! ソイツに襲われてるんだ!」
ここぞとばかりに声を張り上げた男に感心した。
すごく厚い皮を顔に被せているみたいだ。
「急に暴れ出した少年に対抗したが拘束されてるんだ! 場所はタイラ村! 助けてくれ!」
「何言ってるんです?」
「女も人質に取られてっ、どうすることもできないんだッ!」
『…………なるほどね』
男がほくそ笑んだのが見えた。
勝ったと思っているのだろう。こちらに顎を上げて、楽しそうな顔をしている。
「だそうです。これ、見えてますか? 暗いです?」
『いいや、見えてるよ……はっきりとね。はぁ、なんでこんなことをするのかなぁ……』
「みえ……て、えっ?」
「これ、映像を向こう側に伝える道具。皆さんの状況も伝わっている訳です。宿に寝泊まりさせた人の所に武器を持って襲撃。そして──」
身動きができない男たちの横を抜けて、外に顔を出したらあのまとわりついてきた女性達の顔。
「包囲して、武器を持っている女性の姿」
それらを確認して、ぴしゃりと扉を締めた。
「しっかりと映像を記録させてもらってます。返すのを忘れてたら……まさか、こんなことに使えるなんて……いやぁ、非常に助かった」
男たちの顔が青ざめていくのが見える。
彼らはぼくがこの村に来るまでに何をしていたのかを知っている。
そして、ある程度、腕が立つならダンジョンの記録の取り方なども聞いているかもしれない。
「じゃあ、よろしくお願いします。夜中なのにすみません」
『いやいや。何事もなくてよかったよ。組合の職員をそっちに向かわせるね。拘束とかはできそう?』
「手持ちがないのでなんとも……。なるべく早く来てくれたら助かります」
『ん。分かった。終業間近のヘトヘト職員だからあんまし期待しないでね?』
「ありがたいです。では──」
ぼくの通話先が誰だか分かった様子で、言葉を失っている男性の皆様。
慣れたやり方だったから色々と裁かれる中で罪が出てくることだろう……
「謝る! 謝る!! だから、どうか。全員捕まっちまったら……この村は──」
「……」
「頼むッ! 子どもがいるんだ。な? 分かってくれるだろう……? 金がいるんだよ。金が……だって、そうしないと俺たちは食っていけないんだ……」
打つ手がなくなったら情に訴えかける。
(こんな気分なのかな。転生者を手に掛けるひとの気分って)
圧倒的な悪人が急に命乞いを始めた。こっちはまったく同情心なんて抱くことはない。
向こうが殴ってきたんだから、こっちだって殴ってもいいだろうという精神。
人間っていうのは愚かだよなぁ。殴ってきたんだったらもう片方の頬も差し出せなんて無理だ。
「あのっ……なにか」
「あ? あー……ごめんなさい。考え事してて」
エヴァーチェのユットロールさんが正義面であーだこーだ言ってた気持ちがちょっとわかった。
まぁ、アレに関してはぼくは殴ってもなかったけど。転生者ってだけでこんな感じになるんだもんなぁ。転生者って本当に最低な奴らだよ。
「子どもがいるからお金が必要……分かります」
最初に入ってきた男性の目の前に座って、肩に手をおいた。
「気の毒です」
その一言だけを送った。




