388 大蛇さんとお喋り
大蛇さんの登場でピリッと空気に一瞬の緊張感が走った。
ダンカンやモンドが睨むようにして。
「知り合いですかい?」
「ご主人さま。あの者は」
「大丈夫だから、落ち着いて」
二人を静かに宥め、出てきた大蛇さんを紹介しようとバスガイドのような手振りで。
「あの大蛇さんは、ここの森の長のー……えーと」
「なんとでも呼べばいい」
「仲良しさんです。ぼくと皆みたいな関係ってこと」
おぉ、と納得をしてくれた。
麻央さんのことは先に伝えているから、イメージが付きやすかったみたいだ。ダンカンとモンドから警戒心が消えたのがわかった。
「騒がしくし過ぎだ。森の民が怯えてるだろう」
「あはは……麻央さんが引っ越し完了するまで、ちょっとゆっくりしようってなって」
森を荒らす蛮族が出てきたと思うと、先程まで森の主と仲良く話してた奴がいてびっくり……って感じか。大蛇さんも大変だなぁ。
「まぁまぁ、お近づきの印に、料理を振る舞いますので」
「…………」
「なんだ。旦那の飯が食えねぇってのか」
「ちょいちょい。喧嘩腰はお止め。デイジーの友達でもあるんだもんね」
「そうだぞっ。にょろにょろさんは面白いんだ」
「にょろにょろ……」
微妙な顔をしたまま近づいてきて、火の近くで止まった。
サイズ感が皆でかすぎてアレだけど、大蛇さんも結構デカい。背丈はダンカンよりも低いけど、長さが尋常じゃない。全長というか体積的なアレでいうと一番でかい。
一番小さいのは当然ぼくだ。偉そうな顔できないです。
「コレ。この前、ご飯屋で美味いって思った奴を作ったの」
ナスと豚肉をいい感じに合わせた料理です。ソースは再現ができなかったけど、頑張ってみた。
「どうでしょう」
「美味い……」
「でしょー」
好評を頂けたようで嬉しいですよぼくは。
大蛇さんは長生きしてそうなので、味が濃いものよりも薄味系が良いと思ったんです。まぁ、みんなが残したらその処理って形になってるけど。
そのあともパチパチと焚き火をみんなで囲んで、アレコレと話をした。麻央さんの話や、冬山組の話。大蛇さんはこっちの話を興味深そうに聞いていた。他の山の事情なんて知る機会ないもんなぁ
「そういえばさ、麻央さんがいなくなるんだから、キミがここの山の主になるんでしょ?」
「……その予定ではある」
「頑張ってね」
「大丈夫だ。他にも仲間はいるからな」
「そう。なら安心かな」と言って、大蛇の鱗を触った。「ここは王国から近いから気をつけてね」
というと大蛇さんはぼくを──ダンカンの上着を羽織り、モンドの尻尾とデイジーの羽に包まれてるぼくを──チラとみて、なにか言いたげな表情になった。
「なぁに?」
「同じ人間でも……随分と違うのだなと思ってな」
「そりゃあそうよ。ぼくはみんなと友達だから」
「──旦那は旦那だ」「ご主人さまです」「ママだよ」
「……えーと、まぁ、友達みたいなもんだと思ってるから。それに麻央さんから色々と話は聞いてるでしょ? 転生者って人の世じゃあ生きにくいんだ」
「…………」
モンスターの皆には理解をされない話だと思うが、彼らにも彼らで群れや縄張りなどがある以上、そういう似たようなしがらみは存在をしている。
特にアルビノの大蛇なんてのは珍しい。彼も色々と苦労をしてきたのだと思う。
「私が人に心配されるのは……お前で二人目だ」
「……?」
「転生者というのは只人から嫌われてるのだろう? だが……わたしにこうして優しく接してくれる奴はいなかった」
ズルズルと這いながら近くによってきて、頭を下げてきた。
「キミがやるといっていたことを聞いていたよ。頑張ってね。クロのためにも」
「わかった……けど、頭を下げてるのは?」
「人はお願いをする時に、頭を下げるのだろう?」
「あってるけど、こういう時は違う」
頭を上げた大蛇に手を出した。
「ぼくらは主人でも従者でもない対等な存在だ。それに、ぼくは元々しようとしていたこと。だから、こういう時は拳を合わせるくらいでいい」
「私には拳なんぞないぞ」
「なら、それっぽい所でいいよ」
悩む様子の大蛇は考えついたのか、ズルズルと尻尾を持ってきた。
「ならばコレで」
「うしっ!」
コツと拳と尻尾を合わせて笑った。あとちょっと触らせてもらった。蛇の皮とかって触る機会なんてないもんなぁ。財布のときくらい……あ、ごめんなさい。変なこと想像しちゃった申し訳ない。
話すことを終えた大蛇さんは森の中に帰っていった。
最後には「暴れるとしてももう少し静かにしてくれ」と言われた。アパートの隣人みたいなこと言ってる。
「ぼくもぼくの方で……ちょっと身構えておかないとなぁ」
大蛇さんの帰っていた所を見ながら、頬杖を突いた。
「身構える? 何があるんです?」
モンドの尻尾を捕まえて膝の上に置いて、枕みたいに抱きかかえた。
「ぼくがこの森にやってきた理由さ。未来のことばかり話してても、直近の問題をどうにかしないとだから」
依頼に書かれていた『人型のなにか』という情報。それが黒薔薇の守護者という指名手配犯だった。
あの人に襲われていた場合、目撃の証言としては──人型のなにかという表現に落ち着くわけがない。
「なんか……この依頼は、気持ちが悪かったんだ」




