384 第二期転生者の実情
「ほんとそうよねっ! 監査庁はダメな組織よっ! 全く!」
「この前なんか! 監査庁の鑑定士に鑑定されて死んだかと思ったんですよ!」
「うわっ、もう嫌になっちゃうわ」
思いの外、打ち解けてしまった。
波長が合うのかわからないけど、すごく話に熱が入った。
距離の詰め方が、女友達の母親って感じでアレだった。
保育士をしていたみたいだから、コミュニケーション能力が高めなのか。
というか、ぼくの見た目が子どもっぽいから会話し易い?
「でも平和な時代もあったのよ? あの若い子達が変なことをする前までは、私は冒険者でブイブイ言わせてたんですからっ!」
いつの間にか酒を開けて飲み始め──山賊から奪い取ったらしい──鎧は着たまま、ほろ酔いになってる。
「本当ですかぁ?」
「本当よ! とっても強かったんだから! ナンバーツーよ! ナンバーツー!」
「あはは……何のですか」
彼女の名前は、モーティア・オブス・シュヴァルツベート。元の世界の名前は麻央。
第二期転生者で、元冒険者だったのだと。
そして、ここが重要。
彼女は領土戦争に参加をしていない。
だが、指名手配をされ山奥でひっそりと暮らしている。
その理由は、身の回りの人たちに「転生者」ということを話していたかららしい。
転生者のことを報告するとお金がもらえる。彼女は友人たちに売られたということだ。
モンスターと意思疎通ができるようになったのはここ最近。
寂しさを解消するために話しかけてたら、会話はできないけど、雰囲気で言ってることが何となく分かるようになったのだという。
「……それも……懐かしいなぁ……でも、今はただの山籠りの指名手配犯。旦那が監査庁に殺されたって話を聞いた時は……後を追って死のうかと思ったわ。でも……わたしが死んだら、あの人の死は無駄だってことになる。……それに、まだ、私には子どもが残されてる」
「そのお子さんは……?」
「定期的に連絡が来るわ。……施設に預けられてるんですって」スッと取り出したのは通信魔導具。「コレは場所までは分からないからなにかあった時用に持ってるんだけど……。前に所属してた血盟だけしか登録してないからアレだけど……わたしの子どもの話ばっかり。……もういいって言ってるのにね」
「会おうとは思わないんですか?」
「…………会って、幸せになるのは、わたしだけよ」
モーティアさんは悲しそうに笑った。
転生者の子どもだなんて世の中に知られたら可哀想な目になる。
だったら、会わないのも愛情……ということなのかな。
その判断に行き着くまでには色々な葛藤があったのだろう。今は諦めたように話しているが、彼女に残された時間というのは長い。
こんな場所で一人で暮らし、人と会話することもほとんどない。
(そんな人に……僕は武器を振るったのか)
罪悪感が胸の中に湧いて出てきた。
「…………モーティアさん……その」
「ん?」
「……すみませんでした。攻撃して。悪い転生者だって決めつけて……」
そうだ。全部ぼくがされてきたことじゃないか。
それをぼくは……このひとにやってしまった。
「なに言ってるの。私のせいでしょ?」
「え……?」
「明人君は対話をしてくれようとしてたじゃない。でも、私が突っぱねた。……もう諦めてたの。何もしてないんですって言っても攻撃されちゃうから」
彼女の笑顔に胸が締め付けられた。
モーティアさんはぼくが今通ってきた道を既に渡りきっているのだ。疑われ、殺されそうになり、それらを経験して今ここにいる。
ぼくが想像できないほどの時間を暮らして。
心が引き裂かれそうになりながらも、必死に一人で生きて。
「って、しんみりしちゃったわね」
「あ、いや……そんな……」
「明人くんは私達の同期の転生者のことを知りたいって言ってたわよね。……いいよ、といっても詳しくはわたしも知らないの」
雰囲気を変えようと手を打って話し始めた。
「それこそ、領土戦争に行く前の集会か何かで急に転生者って呼ばれてる少年たちが出てきたわ。……今のキミよりも少し年上くらいの子たちがね」
「それが……元凶ですか」
「えぇ、でもね。皆が転生者を救世主だと信じて疑ってなかった。魔王を倒せれるんだって。土地が増えたらできることも増えるじゃない? だから、みんな転生者を喜んで受け入れてたわ。でも、異様な雰囲気だった」
「……? というと」
「展開が出来すぎてる、と思った。まるで何か物語に沿って話が進んでいるような気がしたの」
モーティアさんはお茶を啜りながら、ぼくにも飲むようにすすめてきた。
警戒心を解いていないことに気づくと、ぼくのお茶を少しだけ飲んでニコと笑った。
毒なんか入ってないよ、ってことなんだろうけど……。ちょっと飲み口を変えて飲もう。
「その、モーティアさん……は」
「麻央って呼んで。……明人君。麻央って、ね」
「麻央さんは、どうしてそう思ったんですか?」
「だって、偶然に偶然が重なったとしても『出来すぎてる』と思った。転生者がヘマをしたのは実力不足だとは思うけど……なんていうんだろう、仕組まれたんじゃないかって思うところもあって」
「仕組まれた……。でも、出来事順に並べたとしても……」
転生者が部隊に編成された。
魔王の領土に攻め入った。
包囲殲滅された。
生き残った人たちが帰国。
情報を漏洩をしたのが転生者だと気づく。
「これのどこに仕組まれた要素が」
「明人君は、これが全部偶然のことだと思う?」
「違うんですか……? 自分の力を過信した転生者達が突っ込んでいって」
「転生者は弱くない。でも、自分の力を過信し続けれるほど甘い世界じゃないのは……明人くんも知ってるでしょう?」
「ぼくは最弱の転生者なので……なんとも言えませんが」
「私とここまでやりあえる人が最弱な訳がないじゃない? 話を聞いてる限り、明人君の訓練の量は常軌を逸している。なのに、まだ、上には上がいる。わたしだって勝てない相手がいる。転生者っていうのは勇者や賢者と一緒なのに」
ということは、麻央さんが言いたいのは……。
「……なのに彼らは過信をした。過信ができないハズのこの世界で。そして魔族に捕まって情報を吐いた以上……そこまで高い実力を持っていなかった可能性もある」
「そう。それも、そう勘違いしたのが十人もいた」
「待ってください。その話だと……転生者は何か、腕試しのようなモノや審査を得て徴兵された訳じゃないんですか?」
「……そこまでは分からないの。でも、考えてみてほしいのは……わたしと同期ということ。わたしが転生して、少なくとも私が冒険者としてある程度の階級に行くまでの期間。彼らは過信をして生きてきた。……何年もの間よ」
これは、どう解釈すればいい話なんだ?
別に疑っているわけではない。この話を鵜呑みにして良いのかというものだ。
解釈の仕方が違うのかもしれない。
「…………その転生者達は戦わなくても良い生活を送っていた、というのはどうです?」
「……それだったら、過信をするってこと?」
「はい。ぼくは……その最初は狼に襲われて死にそうになってたくらい弱いんですが、麻央さんはそうではないですよね?」
「転生した時から、オークは殺せたわ」
なんだそれ、ずっる。いや、いかんいかん。僻みが出た。
「……じゃあ、実力の壁にぶつかったのは冒険者組合や協会に属した時ですか?」
「それくらいだったかしら……でも、冒険者と触れ合ってたら分かるわよ。強い人達がたくさんいるんですもの」
「いうことは、これは環境が関係している話だと思います」
「環境……?」
「はい。例えば、冒険者と触れ合う機会がなかったら。王国の軍人たちと触れ合う機会がなければ。戦う機会がなければ。……最初のオークの倒す力というのだけで、既に銀等級や金等級の力はあります。それでも元々、地球に住んでた僕らは凄いと感じるんです」
「……たしかに、いわれれてみれば」
「火が出る。剣を振り回せれる。豚の化け物を殺せるって。それ以降、実力の壁なんかにぶつかる機会がなければ……どうです?」
「…………でも、そんなの可能なの? この世界は」
そう。そこが肝だ。
「普通に生活をしていたら無理だと思います」
だが、麻央さんのいう「仕組まれていた」という話に乗っかるとすると……。
「おそらく、推測ですが──転生者達は、戦わなくても良い状況下に、麻央さんが強くなる何年間もの間、隔離されていたという可能性があります」




