381 吐き出し
念願の第二期転生者との会合に、ぼくは心の底から喜んでいた。
ぶん殴りたい。
助走をつけてぶん殴りたい。
この世界を生きづらくし、恩人にすらあんな顔をさせた。
何度も殺されそうになった。何度も、何度もだ。──コイツらのせいで。
「なんでっ……オマエ達は敵に情報を流したんだ……!」
武器を弾き、噛みつくように問いを飛ばす。
「それを聞いてどうするつもりなの?」
「はっきりしたいだけだよ。良いから、答えろ!」
ガンッと武器が跳ね上がり、吐息の当たる距離にまで近づくと空いた手で掴まれそうになり、真下から魔素を使って跳ね上げると、外套を翻すように回し蹴りを食らわしながら後退をした。
「ッ、動く、動く。俊敏だな」
黒薔薇は首を手で強引に叩き、ゴキッという音を立てると底冷えをするような声色で。
「坊やはその時代に生まれてはいないでしょう?」
「生まれて無くとも、ぼくには知る必要がある……!」
「復讐に駆られた子か。さぞ、英才教育を施されたんでしょうね」
「あぁ。英才教育だなぁ。本当に、そうさ! いい先生達を持ったよ!!」
ぼくに殺意を向けてきた人間たちの顔を思い出す。とんだ英才教育の実地訓練だ。
おかげさまで、転生者なんて生きてる価値がねぇんだと、体にしっかりと刻まれてるよ。
槍での突きを皮一枚で躱し、懐に佩いていた刀を奪い取った。
「わたしの武器を──ぐっ!?」
抜きざまに鎧を蹴り飛ばすと宙に浮かせた体を魔素で固定させ、簡易的な地面へと成らせる。
跳躍しろ。叩き込め。連撃を。相手に思考を回す時間を与えるな。
「ぼくがお前らのせいで──」
グッと魔素を蹴り、黒薔薇に向かって切りかかった。
「どんな目にあってきたか分からねぇだろ!?」
このまま振り下ろせば、兜を叩き割れる。
力を込めろ。今までの恨みを、思いを乗せて──。
「──【戻れ】」
鎧に刺さろうとしていた黒刀は本来あった持ち主の元へ帰って行き、ぼくの振りは盛大に空振ることになった。
「なっ!?」
そして、黒刀が収まるのを知っていた彼女は──何も持っていない状態から振りかぶる動作を開始していた。
ギラッとぼくが宿していた殺意が、一瞬にして彼女の殺意へと変わる。
「────」
マズっ、コレ、死──
ギラッと光る剣は、柔肌を貫き。
血が溢れた。
「っぅ──ッ!」
なんとか上部に構えていた腕に刺された瞬間、横にズラシ、顔面の直撃だけは避けた。
「はっ……はっ……!」
が、眼帯のしている方の目に触れ、眼帯がスパンッと切れて落ちていく。
ボドボドと地面に落ちる鮮血。
腕の骨まで差し込まれ、辛うじて止まった剣は強引に抜かれ、よろめきながら後退した。
「ぐっ……あ、く……ッ!!」
「ママ!」
「心配いらないよ、デイジー……! ただのかすり傷さ!」
デイジーをコイツと戦わせる訳にはいかない。
コイツは……強い。デイジーが殺されるような真似は、避けておきたい。
──だから、そんな悲しそうな顔をしないでおくれ。
「ママをイジメる奴は、許さないッ」
「デイジー! 集中しろ。これは【狩り】じゃない……! 戦いなんだ。それに」強引に治癒魔法で止血した腕をだらんと下げて、強く口角を引き上げた。「オレと一騎打ちをさせろ」
「でもっ……ママっ……」
「いい子だから。……お願いだ」
第二期転生者に対しての憎しみは、この世界の住人と等しく持っている。
殺しても良いなら、殺してしまいたい。
強引に頭を地面に擦り付けて、謝らせたい。
そうでもしないと──オレの気が収まらない。
「そこまでして、私を殺したいのか……? 少年」
「殺したいさ。殺したいとも……オマエのせいで、オレは……ッ、恩人に殺されかけたんだ」
感覚麻痺。痛覚鈍化。
腕は動くか。動く。なら、動かせ。
魔素で強引に動かし、脳味噌が焼けるほど痛いのも、無視しろ。
こんな機会なんて滅多にない。
「ぼくの気持ちが分かるか……?」
ぼくは相手を潰せるほどの武器を召喚した。
下位ダンジョンのボスが落としたドロップ品──大剣を両手で握った。
だらんと引きずるように低く構えたまま、足を前に出す。
「こんな理不尽なことなんて、今までなかったんだ。お前らさえいなかったら、こんな思いをすることもなかった……っ」
涙が溢れ、体全体が熱を帯びるのを感じた。
「吐き出す先がなかったから飲み込んでた感情を。堪えてきた思いを」
右手が熱くなっていく。
「アンタにぶつけたい──」
黒い魔素が体を覆い、心臓を激しく叩く。
視界の色が──少し、変わった気がした。熱を帯びたからか、少し、ぼやける。
高熱の時に見える景色のように、明るく、眩しく感じる。
「これは、ワガママだ。ぼくが──この世界にやってきて──受けた思いを──ぶつけて──理解して──共感して──謝罪をして──黙って、オレに殴られろ」
黒い魔素が人格まで侵食をしていくのを感じる。
魔素回路を広げる練習をしていたからこそ、前ほどの痛みは感じない。
体が張り裂けそうのは変わらないが、そんなことよりも、今は、
「オレの受けた痛みを……ガキみたいに吐き出すから。オマエはただ、受け止めろ」
この力をぶつけてやりたい。




