379 この依頼の違和感
戦いながら思った。
この人、どこかで会ったことがあるんじゃないかと。
……飯屋で話しかけてきた……デンって人とちょっと似てるかも。
鎧の形状は触ればケガをしそうなほど、防具と言うよりも刃を着込んでいるように鋭い。
兜には蜷局を巻いた二つの角が生え、突進攻撃を喰らおうものなら肋骨をえぐってきそう。
武器の槍も先端にソフトクリームでも乗っかってるのかってくらいでかいし。よく振り回すよなぁ、アレ。
それに、あの鎧。なんというか……嫌な感じがする。
ありえないんだけど……生きているというか、生命が感じられるのだ。
「っ、なんでこの森の中にいるんです?」
武器を重ねながら、様子見も重ねていく。
相手の力量はどの程度だ。
黒い魔素を放つということは魔族だろうが、魔族ならば会話から探ることができる。
「会話をするつもりはない」
「会話をするつもりで入ってきたんですけど。……アナタを退治して欲しいという依頼が出てるんです」
槍を捌きながら汗が散る。
デイジーの方も熱が入ってきたみたいだ。あの大蛇、毒を上手く使って空中のデイジーにも対応してる。……強いな。
その時、首から下げている認識票と星の首飾りが跳ねた。
「……冒険者か。階級は」
会話はしないと言いながら気になるのか。
ノアと同じように戦力調査を兼ねている……?
というか、当然のように冒険者のことを知っているんだな……。
「銀等級。で、この依頼は、いわゆる二次転職という奴らしいです」
「最近の冒険者のレベルは落ちたかと思っていたが……銀等級でコレならば」
と言いかけて、魔素が揺らめいた。
なにかくる。そう思うと、黒鎧が溜めを作るのが見えた。
「将来が明るいな」
上から下へ。腕を振るうようにして持っていた槍を、投げた。
手から放たれた槍は爆発的な加速を宿し、空間を抉りながら中央の大木へ突き刺さった。
「──っ!?」
頬横を掠めて行った──いや、本来ならもっと離れていたソレは回転の力で見た目よりも範囲が大きくなっている。
周辺の空気を巻き込み、熱に変換し、まるで弩弓のような。
「やっば……」
だが武器を手放した今なら、と思ったが。
少し気の抜けた動作で、懐から武器を取り出していた。
あまりにも面倒くさそうに。これを使うつもりはなかったんだが、という様子で。
その態度から、槍で殺すつもりだったのが伺える。
「……刀も持ってると」
「使うつもりなぞなかったがな」
黒い刀。黒い魔素のような刀だが、アレは普通の刀だ。
だが、禍々しすぎる。血液が凝固したような刀……。できれば触れたくはない。
「いいから、来い」
「……」
「怯えていてはなにもできないよ。坊や」
剣で地面をコツコツと叩くのが見えると、背後から殺気がした。
ゾワッと、首筋が粟立った。
「!?」
咄嗟に姿勢を低くすると、真上を何かが通過。
見上げると、槍が黒薔薇の手に戻っていた。
「初見で見破られるとは思わなかった。戦闘経験はあるようだな」
「っ……殺す気満々か。会話をしたいって言ってんだけどなぁ!」
「するつもりはないと言っているだろう──」
姿勢が崩れた僕に急接近をして、顎を蹴り上げるように足を引いていた。
このまま喰らうと顎の骨が砕ける。……が、その一撃をわざと受けた。
「〜っ……!」
「!? なぜ、避けなかった!」
もちろん蹴られる方向に体を浮かして、勢いは殺した。
だが、それでも意識が一瞬持っていかれた。
辛うじて体勢を立て直しながら、目は前を見据える。
「ふっ……ふっ……言ったでしょ。ぼくは、お話をしにきたんだって。ぼくが欲しいのは情報だ。アナタが敵なら倒す。敵じゃないならこの依頼は断るつもりだ」
「……気味が悪い」
「気味が悪くて結構。元より、この依頼は少し違和感があるんだ」
「……?」
「小さな村がぼくに個人宛の依頼をするほど、資金力があるとは思えない」
「ほお」
個人宛への依頼をするためには、通常の依頼よりも何倍もの値段へと跳ね上がる。
それも職員の仕事を手伝っている時に聞いた話なのだが、成功率が高い冒険者への依頼となるとそれに応じて高くなるのだと。
ぼくの依頼の成功率はほぼ100%。今回は白金等級程度の依頼だから、そこまで法外な値段ではないとは思うが、それでも白金等級の冒険者に依頼をするよりも高くなっているのは確実。
というか、そもそもこういう依頼というのは冒険者組合が直々に発行することが多い。モルの大森林とは国の東にあるのだ。こんな小さな村が率先して討伐依頼を出すことも普通に考えるとおかしな話。この村だけに実害が出ている訳でもあるまいし。
「そして、人型のナニカというざっくりとした情報。魔族である可能性があるというのに、それを二次転職の依頼とするのが気に食わない」
「要するに、キミは何か仕組まれたモノなんじゃないかって言いたいんだろう?」
「です。実は、あなたは私の先生の知り合いで、村と結託して弄んでる、とか」
その考えはすぐに浮かんだ。
まず、ティナ先生がこの依頼を持ってきた時点で、何かがおかしいと思った。
二次転職の依頼というのを受けたことがないからなんとも言えないが、普通なら組合で手続きや相談などをしてから決められることだと思う。
そして、先程も言った村が個人宛の依頼をするとは思えない。僕が大規模クエストで救った子どもがいる村だとしても、じゃあ、あの人に頼もう、とはならないはずだ。
極めつけはこの人……黒い魔素を放っているが、どうも人間臭い。
「どうなんです? 今ならドッキリって言われても苦笑いをするだけで済みますけど」
森の中からティナ先生やナグモさんがプラカードを持って登場するなら今だ。
「……」
「…………」
だが、デイジーと大蛇の戦いが白熱している音しか聞こえず、前の鎧は頭の後ろを掻いていた。
「残念だな。坊や……勘ぐるのは分かるが、私はここ十数年、人よりもモンスターと一緒にいた時間が長いのでな」
「……じゃあ、あなたは本当にこの山の長で、あの村はぼくに個人宛の依頼をしてきたと?」
「さぁな。私を倒した後に、村で聞いてみるといいんじゃないか?」
「……そうします。ってか、そうするしかないな」
この人が先生と全く無関係な人物だった場合。
魔族である可能性が高い。そうなるとドッキリではなく、本当の殺し合いになる。
ならば、悠長に攻撃を受けている暇なんてない。
くっそ……なんだよ。要らないダメージじゃないか。
ペッと口の中にあった血を吐き出して、口元を拭った。
「行くぞ。少年」
「あぁ。……もう、話し合いの域は過ぎた」




