378 クロ
「とにとるす!」
雷鳴が森を上下左右に揺さぶった。
天地がひっくり返ったかと思うほどの轟音と衝撃に、森に住んでいた住人たちは裸足で逃げ惑う。
それに追撃するように天から降り注ぐ雷の矢をぼくは呆然と見つめて。
「でいじー……つよく、なりすぎかも」
「すごいでしょ! へっへーん!」
山の長を倒しに行くと行って訪れたのは、モルの大森林の下位ダンジョンの上。
この前自分たちが来た所なのだが、そこに巣食うっていたゴブリン達を一瞬にして黒焦げにしていた。
まだ若いっていうのに……こんな魔法を使えるだなんて。
「さすが……我が子……」
親ばかになる人の気持ちが分かる。
なにをしても、すごいすごい! って褒めたくなる。
特にこの屈託のない笑顔。最高に輝いている。
「これで長になれたかな? どう思うママ」
「う〜ん、どうだろ」
ここは言っても下位ダンジョンだ。
モルの大森林には上位ダンジョンがある。そっちの方が強いモンスター達がたくさんいるだろう。
というか、この依頼は山の長になるではなく、人型のなにかしらを倒すということ。
「まぁ、とりあえずはもう少し暴れてみよう」
「うしっ」
意気揚々とデイジーが羽を広げた所で、ズルズルと何かが地面を這うようにしてやってきた。
歩く音ではなく、這う音だ。本来ならそこまで大きな音がなるわけもない移動音。
だが、それはあまりにも大きかった。
「そこまでにしてくれないか」
音の主は木々の間を這いながら移動をしてきた白い大蛇。
わぁ、初めてみた。蛇っていつもちょっと薄暗い色をしてるのしか見たことなかったから新鮮だ。アルビノっていうのかな、こういうのって。
「なんでー?」と聞くのは無邪気なデイジー。
「森の者たちが驚いている。それ以上、無駄な殺生をするな」
「ということは、キミがこの山の主?」
「違う。この山の主はクロだ」
「クロ……」
ちわわの黒毛とか、柴犬の黒毛につける名前みたいだな。
「勝手に縄張りで暴れるなってことを言いたい訳か」
「そうだ。ここはいわば、我らの家。暴れるなら他所でやれ」
ぼくが言葉を交わしても不思議に思わないか。なるほど。
「やだね」
「なっ……」
「だって、ぼくたちそのクロって奴に用事があるんだ」
「クロは貴様らとは会いたくはないそうだ」
「じゃあ会いに行くから教えてよ。どこにいるの?」
「戯けが」
「冗談で言ってる訳じゃないよ。それとも……まだ暴れようか」
「出ていけと言っても出ていかぬのだな」
「用事があるって言ってるじゃないですか。なにも悪いことをする訳でもない。案内してくれないなら、考えはあるけど──」
話をしている時にぼくに影がかかった。
大蛇が移動をして、グアと大口を開けて迫ってきたのだ。
「──やめた方がいいよ。痛いのはいやでしょ?」
咬合しようとした上顎と下顎に魔素を這わした。
絡みつくような違和感に白蛇の咬合が途中で静止。
「──……」
ある程度なら黒い魔素に近い魔素を出すことが可能になったから、威嚇程度の攻撃ならコレで対応可能だ。本気で噛みつこうとしていたなら霞みたいなもんだろうけど。
「ね? 別に殺し合いをしようって言ってんじゃないんだ」
「……!」
スッと短剣を取り出して、ニコリと笑う。
狂気じみていると思われるだろうが、ここまでしないとぼくの後ろにいるデイジーがこの大蛇まで殺しかねない。
情報を持っているモンスターは希少だ。あと、会話ができる個体も。
「話し合いをしよう。攻撃をするまでは友だちでいようよ」
「…………きさまは……恐ろしいやつだ」
「恐ろしくなんかないさ。クロって奴の情報を教えてほしい。ただそれだけ」
「……ならん。それは」
「なんで?」
「この山の主だからだ。それに付き従う我々が主の意向なしに勝手な行動をするのは慎まなければならぬ」
「おお」
なんだか、ちょっと感動した。
こういうことをいうモンスターが他にもいるなんて。
忠誠心がブレて無くて真っ直ぐ。しっかりと主従関係を意識して行動。
──より、クロって人に会いたくなってきた。
「分かった。じゃあ、直接会いにいく」
「!? 貴様は話を聞いて──」
「じゃあ、キミに手をかけようか。そのクロって人も従者が傷つくのはいやだと思うけど」
「くっ……」
モンスターというのは殺気に敏感だ。特にこの手の主従関係という縦の関係を知っている者においては、殺気や威圧というのは効果的。
あと、申し訳ないが、ぼくも一応は最西の山の長になったばかり。下手にでる訳にはいかないよ。
あと、デイジーがいる前だから、ちょっとカッコつけさせて……
──その時、ズンッと空気が重たくなった気がした。
「……!!」
これは、殺気だ。
デイジーも目を大きく見開き、殺気を返している。あれほど明るいデイジーが一瞬にして戦闘体勢に入った。
「…………騒々しいと思っていたら」
「! クロ!」
大蛇が向いた方向を見ると、山の暗闇よりも暗い鎧を身に纏っている人影が現れた。
「……探す手間が省けた」
武器を構えたのだが、その姿に目を見張った。
(この人……)
あまりにも黒い。
光を飲み込むように黒い。
それは鎧だけではないことに気づく。
「…………もしかして、魔族?」
真っ黒い鎧。
真っ黒い槍。
そして、真っ黒い魔素。
「だったら、どうした」
殺気立つ言葉に相応しい動きで、大きな槍を構えた。
いや、アレは槍……というより穿孔機に近い。
「ママ戦う?」
「戦うよ。デイジーはあの大蛇の方を任せていいかな」
「分かった」
大蛇も様子見だったからこそ穏便な態度だった。
だが、クロという人物が現れてからは殺気を放つようになった。
主人が隣にいれば安心をするか。なるほど。仲は良いらしい。
「いやぁ……まさか、本当に、魔族だとは思わなかったです」
横にいるデイジーと一緒に戦闘態勢に入る。
親子共闘だなんて照れるな……今朝、精通したばかりなんだけど。
「そんなあなたと……ちょっとお話がしたいんですけど」
「とてもそういう風には見えないがな。来るなら来るといい」
空間を締め上げるほどの黒い魔素が空間を覆った。




