377 人型モンスター
一瞬、夜になったのかと思うくらい視界がデイジーに覆われた。
ぼくと最後に会ったのが……えーと、1ヶ月……くらい前だっけ。
で、こんなに……大きくなった……?
「デイジー……だよね?」
「そうだよ?」
「わあ……大きくなって……」
子どもの成長早すぎ。もう成体じゃないか。
体感、ママ渡黒鴉と同じほどのデカさ。ところどころ幼さというか発達途中のところはあるけど、それでも……あの山の長に相応しいほどの威厳と圧が感じられる。
「ママ聞いて! あれから飛ぶ練習とかめちゃめちゃやって」
「うんうん」
「すごく飛べるようになって。おばさんが言ってた、えーと……悪いやつらも倒せるようになった!」
「おーーー」
やっば、かわいいんだけど。
うちの子最高か? 欠点なんてないじゃん。どうしたらいいの。
これが母性ですか? なんか本当に産んだ気がしてきた……。
山の長とか言ったけど、関係ないよ。かわいいもん。山の看板息子です。
頭とか嘴とか顎とかいっぱい撫でさせてもらった。かわいい……ほんとかわいい。
「そういえばおばさんは?」
「ちょっと前にいなくなっちゃった」
「そっか。まぁ、また会えるよ。おばさんもデイジーのこと大好きだから」
「でもおばさん、ママのことママじゃないっていうから嫌い」
「わーお」
なんで嫌われてるんだよ、渡黒鴉。ぼくがいない間に、わたしがママだということを教えこんでやるとか言ってた癖に。
空回りしてさ。もーー、気の毒に。
「まぁ、嫌いにならないであげてね」
「うん! ママのこと悪く言わなかったら!」
「まぁ、うちの子はほんとお母さん思いだなぁこのこの〜」
逆になんでぼくがここまで好かれてるんだか。
まっ、いいか! 悪い気はしないし! かわいいし!
「よぉし、今日、デイジーに来てもらった理由はママのお手伝いをしてもらいたいからなんだ」
「お手伝い?」
「そう! この山に何やら強いのがいるらしくてね。それを見つけてもらいたいんだ」
「殺す?」
「ぼ、暴力はまだ考えなくてもいいかな」
ママ渡黒鴉め。言葉遣いが荒くなってるじゃないか。悪影響だぞ、全く。
いや、周りの皆の影響も有りそうだな。……純粋だったデイジーが「殺す」だなんて言うなんて。
「でも、最終手段はソレで。とりあえず来てもらった理由はこんな感じ! それが終わったら自由時間にしよう!」
「わーい! じゃあ、すぐに終わらせないとだ!」
「そうだぞー。早く終わったら終わっただけ、いっぱい遊べるから。ぼくも頑張るよ」
こういう時じゃないと呼べないのが辛いけど、国の中でデイジーを呼んだらそれこそぼくがとっちめられる可能性がある。
だから、呼べる時に呼ばせてもらおう。他の皆にも会いたいし。
「じゃあ、さっそくっ──」とデイジーが言うと、僕の後ろ襟を咥えて、器用に背中に乗らせた。「掴まっててママ!」
「わっと──ドッドアアアアアアッ!」
『空高く飛翔』──字面はこうだが、遠慮のない飛翔は耐性のない僕にとって押し潰されるのとほとんど同じだ。
ママ渡黒鴉が僕を上空へ連れて行ってくれたときは、ある程度の手加減を感じられた。ぼくが気を失わないように、呼吸ができるように、と。
だが、デイジーは若いから手加減を知らない。
(あの時より……っ、強くなってる……)
ぼくの目の前でデイジーは一度だけ高く飛翔したことがあった。
その時よりも早く、力強い。それだけ成長をしたってことだ。
嬉しいと思う反面。これ僕以外の人だったら最悪死んでたなという冷や汗もたらり。
「ここの山の長を殺しにいくよ〜! れっつごー!」
「えっ、ちょっと、まじっ──デイジー!!!!!」
さらに加速したデイジーの背中で、意識を保つのに必死だった。
◇◇◇
モルの大森林は、ここARCUS第四地区の中でも広大な面積を持つ森林地帯だ。
デュアラル王国の東部から南のロバート公の領土、その下の海岸沿いにかけて森が続き、魔王の【再生之王】の領土にまで伸びている森林地帯だ。下位ダンジョンと上位ダンジョンを有し、かつてアサルトリアが討伐した魔女が巣食う砦もある。
そんな大森林の奥。クラディス達が足を踏み入れた場所から十数キロメートルの中に『彼』はいた。
「黒。森に侵入者がきたみたいだけど」
一匹の大蛇がその人物に声をかける。
木陰でここ最近の略奪品を物色していたその人物は、顔をそちらには向けず、武器などを検めながら呟く。
「ダンジョン目的なら、放置をしておけばいい」
良さそうな武器はない。装備も貧弱。食料も少ない。
使えるものはなし、と。収納袋だけを回収して立ったその黒鎧は振り向きざまにこういった。
「危害を加えるようなら殺せ」
端的な命令を飛ばし、黒鎧は場所を移すように移動をしていく。
その姿を大蛇は見送り、踵を返し──蛇に足などないが──森の入口にまで向かっていった。




