367 依頼先の村にいたのは
「わあ、あの時の人だあ〜!」
「あはは……どうも。僕宛に依頼をしてくれてありがとうございます」
依頼先に向かうと、そこは王国からかなり離れた村だった。
道はあるけど、通えれるような距離ではない。馬を借りた方が良かったんだろうけど、馬を借りるのもお金がかかるのだ。
中堅以上の冒険者はそこらへんどうやってるんだろう。毎回、荷馬車みたいなのを借りてるのかな。
で、その村に着いたらこんな感じ。
村長の所に通されて話をしていたら、入り口からどこかで見たことがあるような顔が覗いてきた。
「わっ……」
誰かなと思ってたら、大規模クエストの時の少年と少女だ。
えーと、あそこには少年少女がたくさんいたからアレだけど……なんていえばいいんだろう。奥の方に行ってしまいボコボコにされてた子たちではなく、手前で助けた子たち。
──「私の武器はこれでいいと思いますか?」
──「クラディスさん! 向こうから足音が聞こえました!」
と言っていた子だ。どうも慕われたみたい。
「その二人がクラディスさんに救われたって話をしとってな。依頼を出そうかと思ってた時に丁度、下位ダンジョンをクリアしたという話を聞いて、じゃあ出してみようとなった訳じゃ」
「下位ダンジョンクリアおめでとうございます!」
「あのぅ、わたしの武器のここに……サインを下さいませんか!?」
わぁ、ちやほやされるの初めてだから、なんだか嬉しい。天狗になっちゃうよ。
というかキミはその武器にしたんだね。サインはここでいい? サインだなんて照れるなぁ。
「それで依頼の話なんですが、人型のモンスターで間違いないんですか?」
「じゃ。ここ数ヶ月ものの間、山で狩りをしとるモンからそういう話をよく聞いてな」
人型のモンスターとなると思い浮かぶのは……というか、たくさんいるな。
ゴブリン。ウッグ。シュルペー。オーク。オーガ。二足歩行はここ辺りか?
一番、人間に近いのはシュルペーか。細身で、グロテスクなことを除けば、だが。
「特定はできては……」
「おらん。といっても、東の森は【モルの大森林】でな。魔族じゃないかという話も出ておる」
(魔族……)
その可能性もある……だけど。
「魔族なら、わざわざ姿を見た人を返すことはないと思います。モンスターでしょう」
「……うむ。そうじゃといいんじゃが」
なにか心当たりがありそうな雰囲気だな。村長は隣に立っている男と顔を合わせて、不安そうな顔をしている。
「被害は」
「出ておる。モンスターに襲われたもんがな」
モンスターに襲われた?
「人型のに襲われた訳ではないと?」
「じゃ。……じゃが、ん……おそらくなんじゃが──」
すっごい「じゃが」っていうなぁ、この人。
そっちに意識持っていかれて、全然話が入ってこないんだけど。
「……その人型のナニカが、そのモンスター達を使役しとるとわしらは思うとる」
「それって」
「──ねー、話終わったぁ?」
入り口からまたあの子達が顔を覗かせてきた。
武器に手を伸ばして手をゆっくりと引っ込める。心臓が飛び出るかと思った。
「大事な話をしてるから、また後でね」
「えー……」
「いいや、もう終わった。良いぞ」
「え」
村長さん?
「私らが持ち得ている情報というのは本当に少ないのでな。あとはお任せします」
あー……そういう感じですか。そうですか。
他の冒険者なら色々と突っ込みそうだけど、調査依頼というのがあった時点で、こういうことになると考えた方がいいか。
「……分かりました」
「ヤッタ! クラディスさん! オカンが挨拶したいって」
「はいはい。ちょっと待っててね」
人型の『なにか』がモンスターを使役しているって……なんか雪山での僕みたいな人がいるもんだなぁ。
あの最西の血盟の皆さんの気持ちがなんとなく分かった気がする。
何者か分からない。魔族かもしれない。
(万全の準備をしていったほうがいい──)
「わあ! ちっちゃい! かわいい!!」
「へっ」
顔をあげると若ママ達がたくさんいた。
あっという間に囲まれて、体の至る所を触られた。
「キミがうちの子を助けてくれたって子!? ちっちゃいのにすごーい!」
「あのっ」
「眼帯してるのはどうして? 目を怪我してるの?」
「それはその」
「あら、でも腕とかしっかりしてるわ。ちょっと力こぶつくってみてくれない」
「ちょっ」
やめてください。お願いします。
刺激が強すぎます。ごめんなさい。
「うぇ……っ」
涙目になりながら、肉付きの良いママさん達にもみくちゃにされ、ようやく開放された時にはもう疲れ切っていた。
ぼく、これから……依頼をするんですけど……。
「緊張感……緊張感……うぅ……」
ああいうのを上手く捌いて、余裕のある顔をしていたいのに。
若い体はそうもいかない。
自分が情けないよぉ……。
◇◇◇
気を取り直して行こう。
うん。ほんと、しっかり気を引き締めなければだ。
冒険者は当然ぼくだけ。
この討伐依頼の目的達成条件は人型モンスターの討伐及び、その体の一部の持ち帰り。
その個体名についても判明したらなおのことよし。
って、これで本当に人だった場合、どこを持って帰ったらいいんだろう。
腕とか切れって言われるのかな。ゴブリンは耳とかなんだけど……その個体がなんだったかが分かる場所……。
(首……?)
いや、こわ。まぁその時に思いついた箇所でいいか。
それにしても──村長さんのあの態度は気になる。
思わせぶりだ。何かあるのだろう。もしかして何か分かってるんじゃないのか?
「……まぁいいか」
森の中に入りながら、武器を手に取った。
──久々だなぁ。この感覚は。
依頼をする時は毎回ドキドキする。
森に入る時の緊張感。感知系のスキルをフルで使っての移動は疲れるし。
どれだけ強くなっても、中身はそこまで変わってないか。
知らない土地というのはやはり何かと物珍しいものだ。
それに、一人っていうのも珍しい。
一人でゆっくりと羽を伸ばすとしても、最近は大勢に囲まれることが多かったから何かと寂しい。
エリルを呼んで二人で遊ぶのもなぁ。……割と時間は作ってるし、寝る前とかに普通にのんびり会話することもあるし。
うん。じゃあ、決まりだ。
「呼び出すか」
ぼくは耳に手を当てて、魔法陣を展開した。
いつもは全員に連絡が行っちゃうから、今回はそうだな……。文字を組み換え、特定の人物にしか繋がらないようにして、と。
「あ、あー、これで大丈夫かな。もしもし……?」
『────』
問題なし。ボリュームも丁度良い感じだ。
「うん。そうそう。会えるかなって思って。今、暇なら──」
『────!!』
「分かった。じゃあ、呼び出すね」
転移の魔法陣を展開して、通話先の彼を呼び出すように文字を組み込んで、と。
準備は万端だ。こんな長距離の転移なんてしたことないからアレだけど。
会うのが久々だから、ちょっと楽しみだなぁ。
「出てきていいよ──デイジー」
作っていた魔法陣が光ると、何もなかった空間にノイズが走るように上下にブレた。
……ごっそりと魔素を持っていかれたけど、成功したみたいだ。
「ママ〜!!」
ぎゅもっと眼の前に出てきた黒い彼。
渡黒鴉の子であり、ぼくが名付け親のデイジー……なんだけど。
「……でっか」
こんなにデカかったっけ……。




