375 二次転職の案内
まさか、思春期突入のことを告白するとあんなことになるとは。
イブごめんよー。次に会う時は二人と一緒じゃないときに会うようにしよう。
そんなことを考えながら、布団を干しているんだが。
(まさか……今日がその日だとは)
まぁ、色々なことがあったからそろそろかと思っていたら……タイミングよ。
ぼくは布団のシミを見上げながら、涙目で笑った。
「精通……かぁ」
これで本当に子どもを作れるようになってしまった訳だ。……より一層、気を引き締めなければならない。
この世界は刺激が強すぎるのだ。自制心を持っておかなければ!
「よっ。我が弟子」
「!?」
……心臓止まるかと思った。ティナ先生か。
「どうしたんです? 起きるの早いですけど」
「今日はパンを食べに行くのでな。早起きをしたのだ。朝一からな!」
それにしても洗濯物とは朝から元気だな、と覗き込まれて内心ヒヤヒヤ。
「おねしょ……?」
「いや……っ、えっと……その……飲み物……こぼして」
「布団の上で飲み食いするとは!! 気が合うところもあるんじゃなぁ〜」
よしっ、なんとかやり過ごした。先生がそういう人で助かった。
すると、ちょっと服がはだけてるのが見えた。先生が早起きをするなんて珍しいから、装いを直すほうに頭が動いてないのか。
「肩掛けが落ちてますよ」
「むっ、悪いな」
直しながら、ふ、と思った。
……ティナ先生は大丈夫……か?
(前に顔がすごく近づいた時に、キスされるかと思って焦ったが……あれは驚きだったもんな)
ふむ。先生には、ぼくはそういう感情を抱いていない。
(よし、健全健全。そう思うとなんか落ち着いてきた)
そういう目で見れないのは訓練で扱かれたからってのもあるんだろうな。
キッツイ上司をそういう目で見れないというのと一緒。それに、ティナ先生にはナグモさんがいるしな。
「で、コレをオマエにとナグモから言われたのでな。渡しに来た」
「ナグモさんから?」
手紙を受け取ると、中にはいつもとは違う依頼書が同封されていた。
「お主宛の依頼らしい。初めてじゃないか? 個人宛に依頼が来るのなんて」
「僕宛の依頼……? 下位ダンジョンで目立ったからかな……」
「血盟に所属してないのに来ることは珍しいんだと。まぁ、いつもよりもお金を貰えると思えば良い」
「お金か……」
確かに、お金の問題は常に抱えている。この前なんか手配書を眺めたくらいだし。
最近は訓練ばっかりだったしなぁ。依頼っていう依頼も直近は大規模クエストくらい?
佳奈の稼ぎが0だからその分も頑張って稼がないとだ。
「受けます」
「よし。じゃあ、こっちもやろう」
「コレは?」
こちらも手紙だった。中身を見させてもらうと……ふむ。
「金等級に上がるのだろう? そのために転職をしておく必要があるらしいな」
「で、これですか……?」
「あぁ」
ティナ先生から渡されたのは──『双剣士の認定試験』という見出しで書かれた紙一枚。
『双剣士の認定試験』
達成条件1:同封依頼の人型モンスターの一部部位を持ち帰る。
達成条件2:同封依頼の達成。
達成条件3:双剣術を監督官同席の元、冒険者と手合わせする。
上記の条件を満たし、監督官の判断により合否を決める。
監督官:ナグモ
「だから、依頼が金等級向けの依頼なんですね」
「? よく見てみろ。調査依頼が金等級。討伐となると白金等級じゃ」
ペラッと依頼書を見直してみると、確かにそう書かれている。
「……ということは、銀等級の僕が一人で白金等級の依頼を受けて、その後にナグモさんが選んだ冒険者と手合わせをする……ってことで」
「じゃな。簡単なもんじゃろ」
「いや……白金等級の依頼なんて」
「なーにをグチグチ言うとる。やるんじゃろ。やらんという判断は許さぬぞ」
グイッと手紙を胸元に押し付けてきた。
先生……パワハラですよぉ。
「やりますけど……これ、アンはどうなるんです?」
「クソガキの方にも依頼を出す予定らしい。心配するな」
「一人ひとりに依頼を出す形なんですね」
「当たり前じゃろ。パーティーはあくまで冒険者が勝手に組んどるモノ。一人が強ければお荷物がおっても白金等級くらいすぐに行ける」
「それは、そうですが……」
「何が不満じゃ。言うてみぃ」
「何も不満ではないんですが……うーん……」
自分でもなんでこんなに渋ってるのかが分からない。
これを達成したら目的である金等級に上がれるのだ。じゃあ、突っかかってることは……。
(ちょっと……ゆっくりしたいって……言ったら怒られるだろうなぁ)
最近、色々あったからちょっと家の大掃除とかしたい。
あと、佳奈が訓練しているっていう新しい場所も気になるし。
エヴァーチェのあの男の人が持っていた調味料とかも探しに行きたいし。
色々したいんだけど……うーん……仕方ない。
「久しぶりの一人じゃろう。羽でも伸ばすといい」
そう言われ、手紙に目を落とした。
久しぶりの一人……か。
「たしかに、そうですね」
「じゃろ。いつもあのクソガキや妹がいたものなぁ」
「賑やかだからいいんですがね」
なんだかんだ、一人っていうのは本当に久しぶりか。
王城に連れ去られたのも厳密にいうと一人というか、拉致というかだし。
一人で、ゆっくり、のんびり……依頼か。
ちょっと楽しみになってきた。
「あ、そういえば」
「なんじゃ」
「ユラさんって人に会いました。転移魔法の」
「おお。どうじゃった」
「美しい人でした。優しそうで。ちょっと怖かったですが」
「はっはっは! アイツは人見知りじゃからな。まぁ悪いやつじゃない。腕っこきの魔導士じゃからな!」
「先生の人脈って凄いですよね……さすが、軍事顧問というか」
「ふっふっふ。お主の話をしたら会いたいというヤツがまだおるからな。いつかは会いに来るじゃろう。アヤツらも若いのが大好きじゃからな」
「若いのって……先生も若いじゃないですか」
「見た目だけな! 小人族はほんっとに舐められるからたまらん!」
そういうと先生はパン屋に向かっていった。またあのフランスパンみたいなの食べるんだろうなぁ。
鈍器みたいに堅いアレ。どんな顎してんだって。
「じゃあ、ぼくも……頑張ってみるか」
羽根を伸ばしてみるのには、絶好の天気だしな。




