374 計画が進行していく
男が事前に準備をしていた依頼。
情報部の方にいる知り合いからはこのような依頼を作っているという依頼は持ち込まれてこなかった。
おそらく、彼の息のかかった職員のみにまわして、認可をしたモノになるのだろう。
──部長の印はまだ押されていない、か。
二次転職の際に用いられる依頼には『私達が確認しました』という印が押されている。
その欄は3つほどあり、情報部の職員、その上司にあたる人物、情報部の管理をしている者がそれぞれ認可の印を押す決まりになっている。
普通の依頼書には、情報部の管理者の印だけが押されている。まぁ、どの依頼書にも管理者の私が目を通しましたよ、というのがあるわけだ。
たまにないのがあるが……。その場合は管理者ではなく、その下部の課長やらそこらの印が押されている。
(ふむ……)
「どうだろうか? 丁度良い階級の指定だと思うのだが……この両者2名が持ち込んだモンスターの解体についても、推奨が白金等級のモノが多くあった。金等級だけのモノでは事足りない。が、二つとも討伐をしようとしたら白金等級の依頼。調査だけなら金等級ほどで事足りる。丁度良い依頼だと思うのだが」
「そうですね。これにしましょう」
男の声に真っ先に同意をしたのはナグモだった。
その反応に男は少し眉をひそめたが、すぐに笑みを上書きにした。
「そうか。指南をしていたキミが同意をしてくれたのは心強い」
「もっと難しい依頼でも良いとは思いますが、この程度なら大丈夫でしょう」
強気な発言をするナグモをみる男の顔に、より一層の笑みが浮かんだ。
「そうだろう! もし討伐をするようなことがあれば、次の昇級試験ではすぐに白金等級への案内をするとしようじゃないか」
「彼らも喜ぶと思います」
周りの職員たちはこの流れの違和感を感じていた。
ナグモという職員と、今話している男──情報部の管理者であるナクソンの仲は良くなかったはず。
もしもの時に、ナクソンの声に同意をするように忍ばされていた職員は少し気の抜けたような顔になった。
そして、ペルシェトはしばし事の流れを追って……隣のナグモの横顔を見た。
(……何か良からぬことを考えてる顔してるよなあ〜……)
笑顔も笑顔だが、彼が笑顔の時は誰かにとって何か悪いことが起きる前兆だ。
いや、おきるというか、彼自身が起こす気があるということ。
ナクソンという情報部の管理者の依頼の話を聞いてからこうなったってことは。
(……もしかして)
ナグモにとって、ナクソンの動きが想定通りだったという可能性。
ペルシェトは耳をちょっと怯えるように下げて、肩を小さくまとめた。
(クラディスくんとアンちゃん……何もなかったらいいけどなぁ……大人に振り回されるの可哀想)
会議はその後、何もなく終わった。
最大の議論点がアレだったのだろう。資料を集めるのは相変わらず一番下っ端の副職員長だ。
「ペルシェト」
「あい?」
資料を集めながら、ナグモが誰もいなくなった会議室で声をかけてきた。
なんだなんだと思ってゆるりと顔を向けると、
「しばらく、仕事を二人分こなすことってできますか?」
「……」
やりたくねーーーーという顔を向けたが、ナグモはいたって真剣。
(一緒に悪巧みをしようじゃないのが、ナグモさんらしいけど)
繁忙期は過ぎた。ダンジョンに挑む冒険者もほとんどいなくなった。
この月イチの会議も終わったし、後は……まぁ、日常業務があるけどまだ冬だからそこまで本腰を入れる冒険者はいない……けど、血盟の上半期の順位のアレコレがあるから……面倒なのは変わりない……けど。
「あ〜〜!! わーーーかりましたわかりました。終わったら、美味しいご飯を奢ってくださいね!」
「はい」
「たくさん。一回だけじゃなく! 最低は五回で!」
「分かりました」
「ならいいですよ。頑張ります。だから、そっちも誰も不幸にならないようにしてくださいね」
「えぇ」ニコリと笑ったナグモはペルシェトの頭を撫でた。「こっち側は誰も不幸にならないよう、相手側に全てを押し付けますとも」
「…………なら、いいですよー」
いつもは食事で釣れるペルシェトだったが、さすがに仕事量二倍はきついもきつい。
前みたいにクラディスが職員室をウロウロしてコーヒーや何やらを給仕している訳でもないから癒やしもない。
ただただ机にかじりつくだけの日々がこれから始まると思うと……億劫だ。
会議室から資料を抱えて出て、通路を歩く。
「あ、そういえば……」
「ん?」
「クラディスくんに通信魔導具貸しっぱだった……備品チェックってそろそろでしたよね」
「ふむ……ダンジョンの際に携行させるモノですよね」
「ですです。この前、店に誘った時に回収するの忘れてた」
「…………」
何かを考えるように通路の奥を見つめるナグモは、少し歩いた後。
「それ、まだ貸しておきましょう」
「備品チェックは……」
「クラディス様に貸して、回収し忘れでルースに伝えておきます」
「……もし何かあったら怒られるの私ですよお?」
「一緒に怒られますから」
唇を突き出すペルシェトに、ナグモは上機嫌に鼻歌を歌いながら歩いていった。




