373 昇級会議
デュアラル王国・冒険者組合本部。
そこでは、月に一度の『昇級』についての話し合いが行われていた。
昇級試験と言っても、話される内容については等級間の移動ではなく、位階での移動。
下位のものが中位に、中位のものが上位に上がる。これを認めて良いものなのか、条件は達してるのか。
銅等級から銀等級については職員の間だけで出来るように認められているが、位階が上がる際については慎重に見定めなければならない。
「クラディス・ヘイ・アルジェント。アン・アルジェント。……下位迷宮の最速記録を更新したこの冒険者両名は金等級に上げるべきでは」
若い職員が今月のランクアップ予定のリストにあったクラディスのページを叩きながらそう言った。
参加しているメンバーは情報部、総務部、そして職員長と副職員長。以前の定例会議とほとんど変わらないメンバーだが、外部からやって来ている役員の顔はそこには無い。
ナグモは話の流れを見ながら手元の資料をパラパラと捲っている。
(やはり今回のメインの話はクラディス様とアンさんですか)
他の冒険者も昇級の話があるが、小さくまとめられている。
これはいよいよ、本格的に動き出したということだ。
ナグモはついと視線を向ける。そこにいるのは──タヌキ。
「そうだな。もう十分と実力はわかった。血盟の方からも早く金等級に上げろという話だからな」
でっぷりとした顎肉を揺らし、頬には脂肪の塊がブツブツと浮き上がっている。嬰児のような締まりの無い太指で葉巻を持ち、会議室に白煙を吐き出した。今回のコレには冒険者組合長統括は出席をしていない。あくまで、西部組合内での話し合いで収まるため、いなくても良いという判断なのだろう。
そのせいで、このように我が物顔で幅を利かす者が出てくるのだが。
「既に昇級試験への案内は作っているのか?」
「はい。皆様にお配りしている資料の中に要項だけを記入した物を入れております。そちらをご参考にしていただければ」
なに、難しいものではない。決まった形があるため、少しだけいじればすぐに作れるものだ。
「そうか。ご苦労。……クラディスとアン……、立会人はナグモ、か。キミはこのクラディスという少年の指南役だったものな」
男は紙をひらひらとさせながらナグモの顔を見て、にやりと笑った。ナグモも会釈だけをして、目を通している。
「けっ」
その涼し気な反応が面白くなかったのか、悪態を着いて椅子を軋ませて座り直した。
二次転職は「剣闘士」から「軽装剣士」に上がったり「重装剣士」などに上がることを指す。
そのための昇級試験というのは至って単純で、組合側が指定した依頼を1つ熟してもらい、成りたい職業の先輩冒険者と組合員が立会の元、手合わせをして結果を決める。
組合の職員が決めれるのはそこまで。後は、この手の会議で「どの依頼を任せるか」という話になる。
ナグモは皆が資料を読み終えたのを見計らう。
「この両名の依頼については職員側で事前に候補をピックアップしておきました」
「──その件だが、私の方にも候補がある」
ナグモの声に被せるようにふくよかな男性が資料を出してきた。
「この二つを任せようと思っているのだ」
出してきた依頼書を見て、ナグモは眉間にしわを寄せる。
「1つはクラディスという冒険者宛に発行された依頼だ。個人宛の依頼だから、丁度良いと思ってな」
クラディス宛に発行されている依頼──村がクラディスの個人に討伐を依頼するモノ。
山奥に巣食う人型のナニカが暴れており、それの調査、ないしは討伐という依頼。場所はモルの大森林の南部。
推奨階級は調査で金等級。討伐で白金等級。
「もう1つは、アンという冒険者に対してだ。こちらはここ最近の被害報告を受けて、組合側が作った依頼になる」
アン宛に発行されている依頼──冒険者組合が依頼を失敗した冒険者たちの証言を元に作ったモノ。
山の中にある砦内に人型のナニカが暴れており、調査、もしくは討伐が達成条件となっている。場所はイニシアの森の南西部。
推奨階級はクラディスのモノと同じく、調査が金等級で、討伐が白金等級程度。
「どうだろうか? 二次転職の際に依頼をする内容は『金等級以上』に加え、今までの達成した依頼や持ち込んだモンスターなどよりも可能な限り難しい内容が望まれている」
ナグモはせもたれに体を預け、その資料を目で撫ぜた。
(仕掛けてきたか……)




