372 兄の思春期報告を受けた妹は
そんな突然の連絡を受けたわたしは、正直にいって驚いていました。
いま、平然と会話をしてみせてますが……内心、どっきどきです。
「……っ〜!」
まさか、こんな展開が来るなんて……!!
お兄ちゃんに性欲が……出てくるなんて!!
あの、お兄ちゃんにっ、性欲が!! あんな、真人間というか、真面目なお兄ちゃんに!
──佳奈は知らない。兄が性欲を見せなくなったのは、自分がグイグイ行き過ぎていたせいだと。
──明人は知らない。妹も実は兄のことが兄としても、異性としても好きであるということを。
素晴らしい展開が来たコレ……!
流れで、私もお兄ちゃんとすることができるってことじゃないの……!?
だって、ここ、異世界だよ!?
異世界だし──ちら、と兄の姿を見やった。
こっちの世界じゃ、私達は血が繋がっていない!!
──平野佳奈。16歳。ブラコンである。
──平野明人。20歳。シスコンである。
相思相愛なのは気付いていた。お兄ちゃんが気付いてるのかはわからないけど。というか、シスコンって意識もないんだろうけど。
中学生くらいまで一緒に風呂に入っていたのだから、それくらい分かるものだ。わたしがブラコンだと気付いたのは、それくらいからだ。
最初は「それ、思春期が来たら無くなるよ」と言われた。兄が好き、とかパパが好き、とかそういうのは年齢を重ねると無くなるらしい。
だが、おかしい。なくならなかったのだ。
ということは、これは一時的なアレではないということだ。
高校生になった平野佳奈。15歳。絶賛、思春期である。
兄が自分のために働いてくれてる姿を見て、もうこの人と結婚しようと決めた。
ここまで尽くしてくれる人なんていない。ここまで自分のことを思ってくれる人なんていない。
クラスの男子に告白されてもフった。その時の理由も「お兄ちゃんが好きだから」と。白い目で見られたが、知るもんか。
ぶっちゃけ、お兄ちゃんが好きすぎて、色々なことをやっちゃった。
そこは想像におまかせします。女の子だって性欲があるのだよ諸君。
だが、障壁があった。
それは、私達が血の通った兄妹だということ。
日本じゃあ、そういうのが許されないんです。お堅い国だと思う。
だから、恋愛漫画とかだったら、兄弟間の恋愛だと海外にいって結婚したり、実は血の通ってない兄妹だったりっていう展開だったり、もうめちゃくちゃに法を変えてハッピーエンドとかあった。
そんな恋愛漫画を見て、思った。
(いいなぁ〜)
っと。
平野明人。わたしのお兄ちゃん。そして、私の好きな人。
でも、その思いは叶うことなんてない。諦めるしかない。
それで、諦めていた──というのに!! この異世界め!!
ほんとうにっ! 辛気臭い場所だなって思ってた矢先にこういうことをしてくる!
最高じゃないか! 異世界転生ッ! 最高かな! 兄妹恋愛!
「──佳奈?」
しかも、今の私って魔族っていうんでしょ!?
だったら結婚とか、そういうのって難しいじゃん!?
普通の恋愛すら難しい……。だから、貰い手がいない。
転生者だし、魔族だし……うん。そんな境遇を知ってまで私を愛してくれる人なんていない。
そうっ、このっ! お兄ちゃんを除いてっ!
最初は肉肉しくて嫌だったこの体型もっ、お兄ちゃんにとっては魅力的に見えるらしいじゃないか!
ふっふーん。へへへへへへ、たまんねぇなオイ。
「──あるじ。あいつ、聞いてないですよ」
それに私のほうが年上だ。女は賞味期限というのが早く来ると、30歳くらいの仲良い女教師に聞いた気がする。
ならば、それも出してみたら……優しいお兄ちゃんなら────堕とせる。
「お兄ちゃん!」
「はっ、ふっ……え? びっくりした」
「お兄ちゃんはっ、お嫁さんを二人以上持つつもりとかは!?」
「お嫁さん……は一人じゃないの?」
「法とかいいの。そんなの。勝手に作られたルールなんだから!」
「そーだそーだ」
ペルシェトさんの声援を背中に席を立って、お兄ちゃんの元まで行って手を握った。
「わたしさ。こんな体だから、誰も貰い手が居ないと思うの……だから、お兄ちゃんが良かったらというか」
「オイ。妹。鼻息荒いぞ」
「お姉ちゃんは黙ってて!」
「なんだとッ!?」
「お兄ちゃん。お兄ちゃんも男なら! 妹に手を出してみろってんだ!」
とんでもないことを言っている気がするが、実際問題、わたしは焦っているのである。
ここ異世界で、生きにくいバラエティセットの私の将来は正直に言って真っ暗闇。いつ死ぬか分からない──死なない体だけど──状況でもある。
「人生を豊かにすることの一つに恋愛があるでしょ? だが、わたしはその恋愛ができないのだ。そんな可哀想なわたしを救えるのはお兄ちゃんだけっ!」
「あはは……佳奈はまたそうやって……」
煮えきらない態度のお兄ちゃんをみて、ぷつん、とイッた。
「じゃあ、わたしの賞味期限が切れたら貰ってくれるんだね!?」
「ちょっ……」
「養ってくれるんだね!? 責任持てる!? 待つからね!?」
「勢い……スゴ」
「考えてみてお兄ちゃん。わたしが普通に働けると思う!? 普通に家庭を築ける!? たぶん、どうせ、30くらいには露頭に迷ってそうでしょ! この体食べても死なないし、とか言って、路地裏とか山奥にひっそりいそうでしょ!? いや、いるよ! 絶対いる!」
「たしかに、オマエは誰とも結婚できなさそうだし、そこらへんで死んでそうだな」
「そーーなの!」
アンちゃんの意見が正しい。ちょっと傷つくけど。
「あるじ。正妻は譲りませんが、側室ならいくら作って頂いても問題有りませんよ?」
「ちょっ、アン……? なにを……」
「ほら! いいぞーお姉ちゃん! いいぞ〜! 言ってやれ〜!」
「それに。このクソ寄生虫なら、あるじの気持ちが靡くこともないかと思うので、情け程度にやっちゃってください」
「うお……ま、まぁ、養ってくれるなら……」
寄生虫。寄生虫……まぁ、うん。想像できる姿はまさにそれだ。
働きもせず、家の中でぐーたらして、お兄ちゃんが帰ってきたら出迎えて、御飯作ってもらって、一緒に寝る。
あー、うん。言語化したらすごいなぁ、こりゃ。でも、それが理想とする人生であるのには変わりない。
「ぼくは……」
お兄ちゃんはおずおずとした様子で話し始めた。
「その転生者が生きやすい世界を作ろうと思ってる、から。たぶん、その時になったら佳奈のことを養ってくれる人も出てくると思う……けど」
「誰かじゃなく、お兄ちゃんがいいの」
「…………ちょっと、答えは、今すぐには出せない……かな」
「そんなぁ」
でも、お兄ちゃんらしいと言えばお兄ちゃんらしい、か。
思春期ならコロッとイケるかなと思ったんだけどなぁ。
「でも──佳奈のことは大事にしたいと思ってるよ。旦那さんができなかったら、一緒に暮らそう」
「……!」
その言葉を待ってたんです!
お兄ちゃん! さすが!!
「うんっ! うんっ!! で、気が向いたらそういうことも」
「それは考えてないけど……そこらへんは、ちょっと、問題になりそうだし」
「も〜……でも、まっ、いっか。これで将来の不安が無くなったぞ〜」
目標は達成できなかったけど、お兄ちゃんが私を捨てないことは分かった。
なら良いのだ。後は追々なんとかしてみれば良い話である。
「邪魔だと思ったら放り出すがな」
「なーにー? アンお姉ちゃん。もう、奥さん気取りですか? ヤってもないくせに」
「ヤるとは? わたしはもうあるじの子どもを拵える準備はできているのだ」
お兄ちゃんに目を向けると、頷かれた。
なるほど、アンちゃんは性の知識がないらしい。
「……だったら、私にもまだチャンスはあるか」
「ふふふ。貴様には超えられない壁があるのだよ、ゴミムシ」
キスしたら子どもができるとか思ってるタイプの人なのかなぁ。
うわぁ、純粋すぎて泣きそうになってくる。
「お兄ちゃん、やめといた方がいいよ。アンちゃん性格悪いよ。口悪いし。私にしときな?」
「あるじのファーストキスもわたしが頂いたのだからな」
「ぐっ……手強い……」
「あ、ファーストキス……か。そっか……」
「「?」」
そういうと、お兄ちゃんは口元に手を当てて……頭から煙が出るほど顔を真っ赤にさせていた。
「え。まさか……お兄ちゃん……既に誰かと……」
「あるじ……?」
「……この話はここで終わりにしよう。じゃあ、解散──」
ガシッと肩を押さえつけ、座らせた。
アンちゃんと初めての共同作業である。
「お兄ちゃん……そういう話は、ね? ちゃんとしてくれないと」
「わたしがいながら誰としたんですか? 教えていただけないと困りますよ」
「あのっ、あのっ、えーと……そのっ」
「誰としたの? 誰と?」
「そいつの名前は? 今、どこに」
私とアンちゃんに囲まれたお兄ちゃんは、顔を手で覆いながら。
「イブっていう……女の子と……寝泊まりした時に……した……みたいで」
「あ、イブちゃんね。しばらく一緒に住んでたもんね」
「!? ソイツは、いまどこに」
グイと詰め寄ると、お兄ちゃんは泣きそうな顔をしたまま。
「いま、どこにいるのかは……分からなくて」
「「イブ……ね」」
そこで初めて拘束を解いて、アンちゃんと私は顔を見合わせた。
お互い、考えていることは一緒みたいだ。
「見つけて、ぶっ殺す」
「それで物理的に初めてにするんだね、お姉ちゃん」
頷き、指の骨を鳴らして……はた、と動きを止めた。
「一応、聞くけど……キスだけだよね?」
そう聞くと、お兄ちゃんはビクッと体を震わせてた。
「キスだけ……だと思う……けど。ぼくが寝てる間、だったし……」
「もしかしたら、ヤった可能性もあるってこと?」
「いやっ、さすがに……だって、友達、だったし……」
私はため息を着いて、お兄ちゃんの頭を撫でた。
「お兄ちゃん。お兄ちゃんにとって友達でも、その子はキスをしたんでしょ?」
「うん……」
「だったら、そいつはお兄ちゃんに気がある。それは友達ではないッ!! そうだよね! アンちゃん!!」
「そうだ。ぶっ殺す」
「よしっ、ぶっ殺すぞ!!」
「やっちまえー!」
三人でオー! と手を上げて、一致団結した。
お兄ちゃんはおろおろしてたけど、止まるもんか。
女の恨みというのは恐ろしいのだ。
お兄ちゃんの初めてを奪ったヤツを懲らしめるのだ。
これで、6-4転生者冤枉編上──レコードホルダーが終わりました。
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