371 思春期を妹に打ち明けた
余計なことかもしれないが、大事なことなのである。
というか、この手のことはオープンにしておいた方が、後々の行動がし易い。
ペルシェトさんはさっきまで寝そうな勢いだったのに、耳が言葉を聞くと、すごくニヤニヤして壁にもたれかかった。
「妹にこんなことを打ち明けるのは、随分、心苦しいんだけど……」
そりゃあそうだ。
というか、打ち明けるヤツなんてこの世界が始まって誰もいないだろう。
妹に思春期を報告する兄なんて、時系列がねじ曲がるがってんだから。
「思春期が終わるまでの間は、風呂上がりに全裸で出てくるとか、下ネタを僕の前で話さないで欲しい。刺激を与えないでほしいんだ」
「……へぇ~? お兄ちゃん、思春期なんだぁ〜」
「そうだ。しかも、かなり重度の」
「じゅ、重度の……。具体的に……?」
「ムフッ」とペルシェトさんが吹き出す。ちょっと静かにお願いします。
具体的にと言われても……正直に話すべきか?
……アンならいつか言いそうだし。先に言っておくか。
「アン〜」
こちらもこちらで眠そうだったアンを呼んで、隣に座ってもらった。
「なんですー?」
「ぼくは、彼女と一線を超えそうになった」
「え”」
「ヤってはないが。……もう、そういう次元にいると思う」
アンに知識があった場合、おそらく超えていたであろう一線。
そんな一線なんて、ないもの同然だ。
「あっ、あるじ……そんな……堂々と……コイツは、いっても、あるじのご家族で……」
「だから、紹介じゃないけど。ちゃんとこういうのは言っておいた方がいいと思ったので」
「あ……そう、なんだ……アンちゃん……」
「…………」
沈黙の時間が訪れた。……一人を除いて。
ペルシェトさんは頑張って邪魔をしないように息を潜めてるけど、顔がにやけてる。こういう話が好きなんですかね。
佳奈なんて下を向いて、何か頭の中を整理しているようだった。
しばし、そのような時間が続いて。
「ってことは、アンちゃんは私のお姉ちゃん候補ってことで良いのね?」
「そういうことだ」
目をキランッと光らせる佳奈。ぼくは頷いた。
「えっ、えっ……えっ? あるじ……? えっ?」
突然のことに混乱をしたのはアン。ペルシェトさんも「おっ、流れが」と言った様子で前のめりになって、グラスの底に溜まっていた水を飲み始めた。
「昔からお姉ちゃん欲しかったんだぁ〜。やったー、かわいいお姉ちゃんが増えた〜!」
「おねえちゃん……」佳奈の方に向いていた視線をゆっくりとこっちに向けて「おねえちゃん……?」
「うん。あ、大丈夫だよ。佳奈はそういうの気にしないと思うから」
「ですが……。……アルマ、いいのか。キサマはあるじのこと……好いてたのでは」
「それはお兄ちゃんとして好きって意味! お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃないなら狙ってるだろうけどさ? だって、こんな包容力あって、なんでもしてくれる人なんていないし」
それは佳奈が何もしないから、許容できる範囲を超えたらぼくが手を貸してるだけだ。
佳奈は放っておいたらゴミ屋敷の中でも暮らすし、朝までゲームしてるし、いろんなものをほったらかしにするし。目が悪いのかってレベルでホコリとかニオイとかしてても何もしない。そのせいもあってか、佳奈には彼氏ができたことがない。友達も家に招いたこともない。顔は良いと思うのだが。
「……恋敵、かと思っていたから……そうか」
「で、どんなことしたの」
「ダンジョンの中で口を塞いで、キスを──」
「あるじ──ッ!」
グムッと口を塞がれた。
さすがにデリカシーがなかったか。申し訳ない。
だが、さすがにもう片方の口は塞ぐことができなかった。
「キミのお兄ちゃんは……最速記録の裏側で、アンちゃんを押し倒して強引に唇を」
「ペルシェトォ!!!」
「奪ったんだよねぇ! ハッハッハ! 男の子男の子!!」
佳奈の肩に手をおいてニコリと笑うペルシェトさん。アンはため息を着いていた。そう、これをペルシェトさんに言ったのはアンなのだ。
「お、おにいちゃんが……強引に?」
頷くのも恥ずかしいけど、事実だから仕方がない。
「まぁ、そんなこんなで思春期なんだ。ちょっと色々と気を利かせてくれると助かる」
「思春期ってそんなもんだっけ……?」
「前の世界のと同じ度合いならまだ堪えることができるだろうけど……たぶん、亜人であることも影響してる。それで……たぶんエグいことになってる。……正直、我慢できてるのと褒めてほしい」
「生活できるのそれ……」
「できそうにない。だから、佳奈に打ち明けてるんだ」
「? なんで?」
「ぼくからしたら佳奈も刺激が強い。妹だって頭で言い聞かせても、しんどい時がある。特にスキンシップを遠慮してほしい」
「えぇ〜? なにそれぇ……おにいちゃんに甘えれないってこと!?」
「そうだ。極力、距離を取ってほしい。あとこれはアンにも言えることで──」
恥ずかしそうにしていたアンの肩を叩いた。
「あまり、魅力的なことをしないでほしいです」
「えっ……あのっ、そんなつもりは……」
「たしかにアンちゃんは、お兄ちゃんにべったべたし過ぎだとは思ってました。好き好きオーラがにじみ出てるというか。重たいというか」
「うっ、うるさいぞ! 妹ッ!」
「アンちゃんの立ち回りで手を出さないのは男がすたるってもんよな!」
はっはっはと笑う佳奈にぼくも苦笑いをした。




