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369 指名手配って金稼ぎにどうなの



 下位ダンジョンの最速記録がどうのこうのっていう新聞が出てから、ちょっと経った。


 色々とほとぼりが冷めてきたかなー……とは思うけど、元の世界ほど世間が情報に溢れかえっていないからトレンドの移り変わりは激しくない。


 有名人が不倫をしていたり、クスリをやっていたり、という報道が出てくることもなく、まだまだぼくやアンの功績はホットな話題らしい。


 そんな今日は、冒険者組合に呼ばれた訳だ。


 入り口から入ったら、周りの冒険者からジロジロと視線を飛ばされた。


 昔は「なんだあのひょろっちぃガキ……」って目線だったけど、今度は同業者を見るような目。言ってしまえば商売敵だと認識された訳だ。


 皆さんみたいな強面に睨まれたら怖いですって。


「クラディスさん! 驚かないでくださいね!!」


「はい? はい」


 職員の部屋に通され、簡易的な応接室のような場所で職員さんが目を輝かせてそう言ってきた。

 次の瞬間、ドサァと出されたのは手紙のような束。何十枚とある。田舎の祖母宛の年賀状がこれくらいだった気がする。

 

「えーと……」


「これっ全部、血盟からのラブレターですよ!」


「わぁ!」


 こんなにいっぱい……?

 

「凄いんですね……最速記録保持者《レコードホルダー》って」


「ですよ!」


 一つ一つに目を通して行くが、どこも聞いたことがないような血盟ばかり。

 一回あってご飯を食べたとか装備品を買ってあげようとか。その誘い文句のセンスはなんなんだ。

 

「まだまだこれから増えていくと思いますので、大変ですね。どこに入るかは考えてるんですか?」


「え~と……どこに入るかはまだ」


「でしたら、こちらの血盟とかって──」


「ぼく、まだ金等級じゃないんで。そもそも入れないです」


「…………あれ」目をパチクリさせた職員さんは、資料を確認して「……あ」


 血盟に入れるのは金等級から。

 で、ぼくはまだ銀等級。入れないのだ。


 ラブレターは嬉しいが、まだまだぼくは入れるランクじゃない。


「とりあえず、この手紙は組合の方で預かっておいてもらえると……今もらってもアレなんで」


「あは……はははは……そうですね。そうだったそうだった、これは失礼しました」


 ぼくよりも興奮してた様子の職員さんは席に深く座ると、資料をまとめて立ち上がった。


「とりあえずは、近々金等級への昇格の案内が届くと思いますので……それでは」


「はい。ありがとうございます」


 職員さんが忘れるレベルでぼくの成した功績というのは大きいらしい。


 下位迷宮の最速記録で加味される条件というのは、ある程度のことまで教えられている。


 階層主の個体名・パーティー数・パーティーの最低階級と最高階級と平均階級。本人から申告されたレベル。今までの依頼の成功率や種類によっての冒険者組合内での評価……などなど。


 つまり、最速記録といっても、記録を更新するだけでは最速記録保持者《レコードホルダー》とは名乗れない。


 翠金等級とか蒼銀等級とかの人が全力でダッシュしてクリアして最速記録を出したとしても「いや、あなたのランクは〜……レベルは〜……」となる訳だ。


 おそらく、ぼくとアンのレベルは前回のパーティーの平均よりも高く、冒険者組合内での評価も高い──依頼の成功率が100%で、種類も討伐系ばっかりだし──そのため、若干のディスアドバンテージは負っていた。


 が、前の記録保持者のパーティーよりも少ない人数で、時間も早く終えた。

 これが圧倒的に評価されたのだろう。

 実際、合算して出されたスコアが前回の人たちよりもかなり上の方だったらしい。


(で、あの職員さんの感じだと、もう一つ上の金等級でも記録は更新できてたっぽいな)


 会議か何かで「コイツ、銀等級で良かったな。金等級だったら無理だったぞアブネー」とかは言われなかったのだろう。


(『えっ、まだ銀等級なの! はっはっは』って場合もあるけど)


 まぁ、どうでもいい。


「どっちでもいいから、早く金等級にしてほしいんだけどなぁ……」


 依頼書を見ながら愚痴った。


 いつも倒してるモンスターが依頼書に出されてるのに、金等級以上〜とか、白金等級以上〜とかで手が出ないのはもどかしい。


 本来、進化個体とかの討伐は金等級以上でないと受けられない。銀等級で受けられるのは……まぁ、ホブゴブリンの討伐とかが一番いいのか。


「ゴブリンキング……は、銀等級じゃ無理、と。オークは……オークも金等級からか」


 失敗しそうな奴には出さないっていう意味もあるんだろうけどなぁ。

 冒険者依頼で金を稼ぐのはちょっと厳しいか。……何か解決案はないかな。あまり金がないのだ。


「金稼ぎには指名手配とかを倒すのが一番いいと思うよ」


 職員さんを捕まえて聞くと、そんなことを言われた。 


「ありがとうございます。指名手配か……」


「あ、冗談冗談! さすがにクラディスくんみたいな子に指名手配犯は危険すぎるから」


「そうですか……。じゃあ、地道に頑張るしか無いですよね……」


 教えてくれた職員さんと別れた後、わざとらしく落としていた肩を上げて組合が発行をしている指名手配を見にいった。


 指名手配書が張り出されている場所は飯屋の壁。どんちゃんしている声を背中で聞きながらの物色といこう。

 

(指名手配かぁ。みんなどんな悪行をしてるんだか)


 結構多いし、写真なんてないからなんかなんだろ、すれ違っても分からん気がする。

 そもそも日本の指名手配でも隣にいたとしても分からんっていうのに……。


(カテゴライズ……っていうのが、脅威度か。冒険者の推奨階級みたいなもんだな)


 指名手配によって脅威度《カテゴライズ》が違う。BとかSとかたくさんあるな。

 

【力狂ノ重装騎士:脅威度A──懸賞金、1000万ウォル】

【忿怒ノ吟遊詩人:脅威度A+──懸賞金、1340万ウォル】


 げっ……脅威度Aの人を倒すだけで、大金じゃないか。少なくとも2年くらいは働かずに過ごせるぞ。節制したら5年……下手したら10年くらいまでは持ちそう。

 物価とか、地価とか、諸々があるから円と価値を置き換えて考えるのは難しいけど、概ね一緒だと思っていい。

 

(でも人かぁー……人なぁ。人を倒すのなんて……)

  

 後ろ髪を掻きながら下の方に張られていた所に目を落として。


【黒薔薇ノ騎士:脅威度SS──報酬金、4億ウォル】


「4億……っ」


 思わず声が出た。

 4億って……えっ、宝くじじゃん。

 まじまじと近くで眺める。えーと、くろばらのきしね。見た目は……うんうん、まっくろい鎧と──って、無理だな。


(実物が分からない以上、どうしようもない)


 黒鎧の人なんてそこらへんを良く歩いてるのだ。


 もし、倒して持っていったとしても「コイツが黒薔薇の騎士だって? うーん、本当かなぁ?」ってなったら終わりだ。どうやって一致させるんだよ、ほぼ無理じゃないか。


「はあ〜……地道にするしかないか」


 でも、なんでこの黒薔薇のなんとかって人はこんなに懸賞金がかけられて──


「…………は?」


 見間違いかと思って目を擦っていると──肩掛けカバンから光が漏れてるのに気付いた。


「?」


 取り出してみると通信魔導具。


「あれ……これって」


『やぁやぁ! 少年! 今はどこかな!』


 大きな声でペルシェトさんの声が聞こえて、思わず通信魔導具を抱きしめて場所を移動した。

 いくら飯屋がざわざわとしていても、ペルシェトさんの声は大きすぎた。みんなの視線が痛い痛い。


『おっ、ちらっと見えたけど組合にいるんだな! わかったわかった』


「ちょっと声がでかいですよ!」


 というか、この魔導具返すの忘れてた。

 魔素を注いだから場所が見えたんだな。わかったなら声を抑えてくれたらいいのに。


『今日の夜に全員集合だぞ!』


「何がですか!」


 なんとか組合の外にまで出ていけて、壁を背にしてズルズルと屈んだ。

 周りの人は……まぁ、人通りはあるが、大丈夫そうだな。


『クラディスくんが以前、倒れてた時に話をしただろう! いいご飯屋さんがあるんだって!』


「……? なんか、まぁ、そんな話はしてたと思いますけど」


 あそこらへんはちょっとアルマが佳奈だっていうことが判明して、バタバタしてたからよく覚えてないんだ。


『だから、今日の夜に下位ダンジョンの祝勝会しよう!! 楽しみで楽しみで気がおかしくなりそうなんだ!』


「あー……」


 やけにテンションが高いと思ってたら、そういうこと。


 

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