367 広まる報せ
クラディスの想像している通り、下位迷宮の最速記録の更新という新聞は大陸中に広まっていった。
前回の記録更新が約一年前ほどのこと。そして、中位迷宮の記録更新は数ヶ月前のこと。
短期間でコレほどまでに記録の更新をされたことにより、世間は大盛り上がり。
次に来る冒険者は彼らだ──英雄が産声を上げた──なんて見出しで書きはじめる始末。
気が早いのはどのマスコミもそうなのだが、それでも持ち上げ方が尋常ではなかった。
「おい、みんな! コレ! コレ!」
「んっ?」
そんな声が聞こえるのは、ロベル王国の中心地から少し離れた場所に構えている、とある血盟の拠点から。
引っ越しの準備を進めている様子の建物の前には『エヴァーチェ』とこの世界の言葉で綴られた表札がある。
何を隠そう、彼らはクラディスとアンが雪山に訓練に向かった先にいた準上位血盟だ。今は、王国の間を移動するための引っ越し準備中。荷物をまとめているところだった。
「俺たちの主人がクリアしたって!」
店先で購入した新聞を片手に団長が一人で盛り上がってやってきた。
何名かは一緒に「おぉっ!」と声を上げる者がいたが、絶賛荷物を詰め込んでいる副団長──魔法使いなのだが、今は動きやすい格好になっている──は呆れたように腰に手を当てた。
「ユートォ〜……はしゃぎすぎ。そんなキャラじゃないでしょ?」
「エマ。違うんだ。コレを見てよ……ほら!」
「なにが……そもそも下位ダンジョンをクリアした程度で盛り上がりすぎ──って」
ユットロールからもらった紙に目を通し、思わずクシャッとなるほど手に力が籠もった。
「最速記録更新? 記録保持者に躍り出た無名の冒険者二名現る……って!!」
「凄いでしょ! びっくりした」
「いや、目立たないようにしてたはずなのに、目立ってるじゃないコレ!」
「隠しきれなかったんだろう。俺たちの主だからな」
「はぁ〜……そうね、そうそう。アレだけ強いんだから当たり前か……ンにしても、何かあった時は私達も危ないんだからもっと実力を抑えるってことをしてほしいかなぁ〜……!」
「エマ……?」
髪の毛をくしゃくしゃと掻いて、新聞紙をポイッと捨てて。
「その主の所に行くんだから、さっさと荷物をまとめなさいな。なんでそんなに荷物をまとめるのが遅いのよ……!」
自分がいま荷造りしている他の血盟員の箱を叩いて叱ると、男たちはそそくさと動き出した。
そして同刻、ペネロ王国の方の依頼を受けに行っていた恩人達にもその報せが届いていた。
海に面しているその国の建物は白色と青色を基調として海原と空を彷彿とさせるもので、建物の綺麗さだけならば他の二国とは比べ物にならない。
ただ、規模が小さい。大きな街と呼ぶには大きく、国と呼ぶには少し小さい気もする。
そのような場所で受けた依頼を精算していたら
「オイ! お前らッ! クラディスが下位ダンジョン行ったってよ!」
組合の中に響くような声でムロが叫んだ。
何の気なしに新聞を置いてあるコーナーに立ち寄って、適当にパラパラしてたら見たことがある顔がドーンとあったのだ。思わず吹き出してしまった。
「ほぉ。まぁ、クリアはできただろう」
「なになに〜……クラちゃんがどうしたって?」
手洗いをしていたエルシアが跳ねるように近づいてきて、ムロが読んでいた新聞を覗き込んだ。
「どぅえ!? 最速記録更新!?」
「なにっ!?」レヴィは振り返って、報酬金だけを受け取ってムロの元に早歩きで向かった。「本当か?」
何度見ても紙面の内容が変わる訳もない。
クラディスとアンが下位ダンジョンの最速記録でクリア。そう取るしかない内容に、レヴィは頭を抱えた。
「はぁ〜…………これは、色々と凄いことをしてくれたな」
「さすが俺たちが見込んだだけあるな!」
ケラケラと笑うムロにレヴィはジィと睨むようにして見て、ため息を吐いた。
「まぁ、強いからな。仕方がない」
「クラちゃんとアンちゃんならやれると思ってました」
「ホントかよ。まぁ、これでアイツらも一端の冒険者だな」
「じゃあ、早く帰らないとだ!」
エルシアは立ち上がって二人を急かすようにしたが。
「他の血盟も目をつけるだろうなしな、コレは」
「あ…………」
レヴィの言葉で思わずその場に腰を下ろした。
「いや、クラちゃん達は……アサルトリアに入るしぃ……大丈夫だと思うけど」
「そこよりも好条件を出されたり、弱みを握られたりしたら、アイツならすぐに持っていかれるぞ」
「俺たちが中々会えてない間にいろんな奴らと出会っただろうし」
男二人の言葉を聞きながら、足をバタバタさせて通信魔導具に光をともした。
連絡を飛ばしている先はマーシャル。彼らの血盟の長だ。
『なんだよぉ、出稼ぎ共』
「マーシャルさんっ! あとどれくらい依頼がある!?」
『うるせぇなぁ……えーと、ちょっと待てよ』
魔導具の向こうからゴソゴソと物を掻き分けるような音が聞こえる間も、エルシアは落ち着かずにその場でランニングでもするように足を動かしている。
「あのっ、私達、早く、帰りたくて!」
『あと6つだな』
「終わった」
エルシアは動くのを辞めて、仲間二人の方を見やった。
さっきまであれだけ動いていたのに、残りの依頼数を聞いて絶望してる。
「もう、血盟の順位とかどうでもいいんじゃない……?」
『なーに言ってんだ。頑張れ頑張れ〜。他の奴らにも渡して負担を軽くしてソレなんだ』
「ぐううううううう……ちなみに、あと、どことどこに受けに行けばいいの?」
『その王国で3つ。後は、うちらの王国の下っかわにある街で1つ──』
「じゃあ、残りの3つとかはさ! 残ってる血盟のみんなで」
『みんな出払ってるっつーの』
「マーシャルさんがするっていうのは!?」
『わたしはわたしでバタバタしてんの、血盟主なめんな』
「クラちゃんが取られてもいいのぉ!?」
『クラちゃん? 誰だ、お前の男か?』
「血盟お試しで来てくれた白髪の! 下位ダンジョンを最速でクリアしたの!!」
『おぉ、あのガキんちょか。すげぇな。声掛けとくわ』
「頼むよ!? お願いね!? 絶っっっ対に捕まえてね!?」
『わかったから、はやく次の依頼に行ってくれ。次の血盟報告会の順位の締め切りが近いんだっての』
ブチッと切られた通信魔導具から光が失われていき……エルシアの顔も段々と暗くなっていく。
「……無理そうだな」
「よね! マーシャルさん、人誘うの下手だもんね!」
「だなぁ。まぁ、どっかの血盟に入っても俺たちが先輩風吹かせば拉致るくらいどうってことねぇだろ」
ムロがニヤリと笑うと、エルシアとレヴィもそれもそうかという顔で納得。
上位迷宮をクリアした後だというのに、ムロ達の依頼消化の旅はまだまだ続いていた。




