365 攻略後の外食にて
辛うじて、我慢することに……成功しませんでした。
(ガキが……色気づきやがって……!!)
本当にこの世界の思春期ってやばい。もう色々と限界だ。
アンのことを大事にしたいからこそ、手を出すのをグッと堪えたけど……アンは普通にしてるだけなのにこっちを挑発してるように見えてくるし。
食料はギリギリ保った。危ない危ない。
というか、限られた資源なのに、余計なことすんなって話だ。
むしろ、その制約があったからその後のアレまで我慢できたまである。
若いって素敵だなと思った。
でも、こういうのってなんか不思議な感じだ。
スキルとかステータスが上昇する分には違和感はないんだけど、こっちの世界の自分が、そういう大人の階段を登ってるってことが、なんだか不思議に思えてくる。
こっちで生きてるのは分かってるんだけど……、思春期という体の変化があるとは思ってもみなかった。
(ぼくは、こっちの世界で成長をしてる……)
今までは少し、お邪魔しているという感じがあった。
頭でそう思うことはなかったけど、なんていうんだろう……言葉にするのが難しいけど……改めて、ぼくは転生して、若返ってるんだなと感じた。
体がそのままで転生ではなくて新たな人生を歩んでいるんだなという感覚が正しいかな。
平野明人の延長線上……という訳ではない。ちゃんと、クラディス・ヘイ・アルジェントとして成長をしているという感覚。
それを感じたのが、ダンジョン内での行為というのがなんとも言えないんだが。
ダンジョンから出た後、ペルシェトさんにひとしきり笑われた。
ダンジョンでやることじゃない、と言われて反省。アンは全く反省していなかった。
(これで……一線を超えてたら……本当にどうなってたんだろう)
ペルシェトさんは鼻が効く。で、ダンジョンは風呂がない。……終わってそう〜……。
なんとか堪えたぼく偉いぞ。本当に凄い、よくやった。
こうして僕たちの下位ダンジョン攻略は幕を閉じた。
なんだか変な感じだし、ぼくの中の話題はすっかりアンとのあれこれに持っていかれているから仕方ない。
そして、ぼくたちの功績も新聞が取り上げていた。大幅な記録の更新なので、新聞社も大盛り上がりだったらしい。
にしても情報のリークが速すぎる。
ぼくとアンがダンジョンから出る頃には既に情報が伝わっていた。情報早すぎ。
どんな内容になっているのかはまだ見れてないけど……あんまり盛り上がらないで欲しいなぁ。
王国にペルシェトさん達と一緒に入った後、宿舎の方には帰らずに外でご飯を食べることにした。
外食っていうのも珍しいけど、なんだか色々と疲れたからいっぱい食べたい気分だったのだ。作るのがちょっと面倒だったというのもある。
「で、下位ダンジョンをクリアした訳だけどさ……なにする?」
フードを被ったまま、注文を頼んだ卓で待機中。
飯屋は新聞を広げてる人も見えるので要警戒だ。
「順当に行くならば中位ダンジョンでは」
「だよね」出された食事を卓に置き直して「すぐに挑戦をしてみるのもいいし……」
いただきます、と手をあわせて二人で食べ始めた。
「血盟のことで悩まれてるのですか?」
「そうなんだよねぇ。あとは、冒険者の二次転職というか……今、無職らしいからさ、ちょっとしばらくはそういう細々としたことをしてみようかなと」
「金等級に上がる前には……んむっ、必要って話でしたっけ」
「んー……そ。なんで、ちょっと手間かもだけど、そっちを進めておかないとなぁって」
冒険者というのが既に職業として確立されているのだが、その中でも役職が分かれている。
剣闘士系・魔導士系の二つが主に派生していて、治癒士系は数が少なめ。
今のところ、ぼくが知っている人で言うと──
剣闘士系・騎士──重装騎士と狙撃手のマーシャルさん。
剣闘士系・剣士──重装剣士のムロさん。
剣闘士系・戦士──戦斧士のリリーさん。
剣闘士系・斥候──無形者のエルシアさん。
魔導士系・魔導士──大魔導士のレヴィさん
ここらへんかな。
ケトスは一応、魔導士系・魔導士──魔法剣士の見習い、という立ち位置。そっちに進みたいけど、まだ試験も何もうけてないって言ってた。
ぼくがいま考えているのは付与術士。エンチャンターというものだ。
魔法剣士でもいいかなと思ったけど、味方にステータス上昇効果を付与したりするのはシンプルに後方支援役として活躍できそうだなぁって思ってる。
あと、この前みたステータスにも付与術っていうのがいつの間にか出てきたし。
「エンチャンター……か」
ステータスボードを見てみる。しっかりと『付与術』と書かれている。
何が原因で出てきたんだろう。剣とかに魔素を纏ってたり……あとは、亜人の種族固有スキルが影響してるのか。
ここらへんは検証しないとなぁ……。
「――お、どこかで見た顔だ」
「ふぇっ?!」
横に突然顔が現れ、驚いてしまい、少し机を蹴ってしまった。
「あぁ、悪い悪い。大丈夫か?」
「え? あぁ……はい。大丈夫です」
びっくりした。ステータスボードを見られたかと思った……コレは他の人には見られないんだったな。
ぼくらに声をかけてきたのは、2人組の男性……か?
一人は大きなハットを身に付けていて、それは魔導士がつけているのよりも大きく、先端は重力に負けてだらんと後ろに垂れ、そのブリムは表情を隠してしまうほど広い。ぼくから見て、左目が包帯とベージュ色の髪で隠されている。もう一人は……。
「む、なんだ。なんか付いているか?」
「えぇっと……すごい装備だなって思って」
フルアーマーって初めて見た。
こんな街中で刺々しい全身装備。そんな見た目に依らず、声も女性か男性か分からないときた。
「逆だな。周りの冒険者が軽装すぎるだけだ」
「……返す言葉もありません」
正論すぎてなんとも言えない。ぼくとアンなんて革鎧しか付けていないのだ。
もっと防御力を高めたほうが良い気もする。というか、怪我が多いんだから装備くらいまともにしろって話だ。
武器とか……あ、新調しないといけないんだった。忘れてた。
「それで……見た顔、って言ってましたよね? でも、会うのははじめましてですよね?」
「あ、そうそう。その事なんだけど」
魔導士の方が目の前に新聞紙を開いて、こちらに向けて指さした。
「これこれ、ココ」
指を指しているところをよく見てみると、僕とアンの顔写真と共に【小規模ダンジョンを少人数かつ最年少でクリア!?】という見出しで載せられていた。




