363 意識してしまう年頃
「…………あ」
スキルの説明を読んでいると隣で寝ていたアンがパチッと目を覚ました。
「くらい……?」
「おはよ、アン」
「あるじ……ここって…………」
そこでようやく、何があったのか──いや、何をされたのかを理解したのか。顔が爆発していた。
視線がきょろきょろと動き、ぼくの服で体を隠し、ぼくの顔に向けた視線をゆっくりと下げていた。
「急に、ごめんね」
「いえ……もう、なにがなんだか……わからなくて……あれは……えぇっと……」
あ、そこから知識的になかったのか。なんて言えば良いんだろう。
「大人がするキスって……感じかな」
「! では、こどもが!」
「あ、いや。子どもはできなくて」
「そうですか…………ペルシェトから、子どもをつくれば……男が逃げれなくなると聞いていたので」
(そこまで言っていたなら、その手段のことまで言っておいてほしかった──って何考えてるんだぼくは)
くそ、思春期め……。
(さすが、認定賢者さんは賢者タイムも)
(エリル? 笑えない冗談は辞めて?)
しばらくはエリルにもいじられるだろうなぁ。体を共有しているからこそのこともあるだろうし。
はぁ、まぁ、スキルも手に入れられたから良かった。
「立てる? そろそろ次の階層に行こうと思うんだけど」
「いえっ……その……体がガクガクで……足も」
手を出して立ってもらうと子鹿みたいになってる。
わぁ、罪悪感がすごーい。腰砕けてたもんなぁ……ごめん。
「あのっ」
「ん?」
「さっきのは……その、あるじからの……キス、ということで」
「あーーー……うん。キスだね」
「! でしたら、わたしはあるじから離れなくなったってことですか!」
「まぁーーーーそうだね? そうなのかな?」
「……そうですか、よかった……」
あーーーーーーーーーーーーー、ごめんなさい。ほんとうに。
アンが静かに喜んでいる表情を見て、一気に罪悪感が出てきた。
ぼくって……とんだクソ野郎だ。こんな純粋な子に欲望をぶつけやがって。
男ってほんとサイテー! 反論する気も権利もありませんとも。
(これで……あれをしてたら、もっと罪悪感がすごかったろうなぁ)
そのままアンが歩けるようになるまで栄養を補給して、次の階層に行くことにした。
今まで通り、アンが前衛で、ぼくが後衛だ。
だが、ちょっと問題がある。
「…………」
(アンってこんなに可愛かったっけ…………)
元々可愛いアンが何十倍も可愛く見えてくる。
思春期め……これだから、男は狼だとか、猿だとかって言われるんだぞ。
(中学生の時もたいへんだったもんなぁ……)
ずっと一緒に風呂に入ってこようとする妹。
一緒に寝ようと枕を持って突撃してくる妹。
さすがに妹にそういう感情を抱くのは困るから、自然と距離を離して、雑念を追い払うように勉強と部活動に没頭した。
その結果、まぁ、いい成績になった。女の子にかまけてた友達は成績がみるみる落ちていってた。
思春期恐るべし。
本来ならさぁ、亜人がそういうのって止めてくれないとさ。
だって、男らしいっていってしまえば『オレはオスだ。みっともない真似はしない。借りは返す』みたいなヤツじゃん。完全にイメージだからアレだけど。
こんな女の子の後ろを歩くだけで、頭の中がピンク色になるヤツを鎮めて欲しい。
……たぶん、一緒になって盛り上がってるんだろうなぁ。
オスめ……。お前らには負けないぞ。
アンはぼくにとって大事な人だ。
「あるじ?」
「!!?」
──かっわ……い。
「どうしました? 顔が……真っ赤ですけど」
「ちょっと……ごめんね……なんでもないですので」
振り返られて、ドキッとした自分を殴れるなら殴ってしまいたい。
今なら優しくされただけでコロッと落ちる男の子……よりも単純な気がする。
でも、まだギリギリ我慢できる。
だけど、ここから先、亜人としての成長と体の成長が重なると……とんでもないやつになってしまうんじゃないか?
心なしか、前の世界よりも欲求が強めなのは……この世界ならではなのか?
(戦死する人とか戦争が多いから、種を残すために性欲だけが異常なまでに高い、とか)
それならまぁ納得はできるきもするが。
どのみち、間違いは犯さないようにしないと。
「……不安だなぁ」
そんなことを考えていると、あっという間に十階層の扉の前に立った。
「ボスくらい、いけますよ!」
「うーん……」
そこじゃないんだけど、とりあえずは今は目先のことに集中だ。
自分の欲望を上手くコントロールできないのは、年齢ならではだなぁ。
「ふぅ……大丈夫だ、やろう」
「うし」
(うし? えっ、かわいい──あ)
ぼくのばか……。ほんと、終わってるよおまえ。
健全な男の子すぎるだろ。健全すぎて笑えてくる。
──バチンッ。
「あ、あるじっ!? なぜ……え、殴って」
「ちょっと、浮ついてたから。締めるために」
自分で自分の顔面を殴り、ふんっと鼻通りを良くした。
これからぼくらは来たことのない階層に挑戦するのだ。多くの冒険者が挑戦し、クリアした人もいれど、死んだ人もいる場所。
「開けるよ」
重厚な扉にてをかけ、強めに押すと──視界が一気に広がった。
「え……?」
そこに広がっていたのは、広大な森だった。




