361 一線
何か無理をしているような感じではなく、いやだったという素振りもない。
「あぁ、そう……だね。既成事実……か」
これは、あれか。
アンの性知識に関係がある話だ。
ペルシェトさんは『男を逃さない方法』は教えたけど、具体的にどこまでしたらいいかとかは言っていないのだろう。
だから、たぶん、こんな生殺し的な展開で終わってしまったのだと思うが。
「アン……はさ、子どもってどうやって作ると思う?」
「こども、ですか……?」
うーん、となやんだような素振りを見せた。
「キスをしたら、コウノトリが連れてきてくれると……昔に両親が言ってた気がします」
わぁ……やっぱり。性知識がキスが最上級で止まってるんだ。
こんな世界でこれほどまでに純粋な子がいるなんて。
……の割には、さっきの積極的なアプローチは……意味も分からずに動いていたのか。
(……)
なんだか、一気に恥ずかしくなってきた。
無知な子が腰を押し付けてきて、胸も押し付けて……。
「はああ〜…………」
「あ、あるじ?」
でも、正直、ぼくの気持ちは晴れていない。
きょとんとした顔で覗き込んでくるアンの顔に、お腹の下が熱くなった。
「…………」
でもここで手を出したら問題になるよなぁ。
アンの”最初”をダンジョンで奪うだなんて、ちょっと考えると最悪な野郎だと思うし。
ちゃんと相手のことを考えると、ムードだったり、場所だったりは考えたほうが、いいのは……分かってる。
だが、ごめんなさい。
ぼくも男の子なんです。
「……アンがぼくを離したくないから、キスをしたみたいにさ」
さっきよりも距離が離れても、まだ手が届く範囲にいるアンの手を引いた。
「ぼくもアンには逃げてもらいたくないんだ。だったら、どうしたら良いと思う?」
「どうしたら……女の子を、満足、させる……とかですか? えへ……今、満足はしてますが」
「ならいっか〜」といつもなら言うんだろう。
正直な話をすると、今はアンの好意がぼくの方を向いているけど、明日、明後日……それかいくつかの日を跨ぐと、アンの好意が誰かに向くかもしれない。
ぼくはこの世界において、そこまで魅力的な人間じゃない。
というか、転生者である時点で傷物というか、相手にされない。
そんな中で、悩みを共有できる存在は貴重だ。なおかつ……アンは可愛い。
従者だ、奴隷だ、そういうのは抜きにして、彼女にはずっと横にいてもらいたいと思っている。
とか言いながら、このその気にさせたんだから、発散をさせてほしいというワガママもありつつ。
「だったら、ごめんね。怖いかもしれないけど──」
「あ、あるじ……? なにを」
少し腰の引けたアンの唇を先程の優しいやり方ではなく、強引に奪い、舌をねじ込んだ。
「!!!????」
グイッと首の後ろに手を回し、呼吸を奪っていく。
「っぱ、ぅ、あっ……っ!」
目がチカチカしてるアンの顔を見上げながら、口内を蹂躙していく。
どれくらい繋がっていたかは分からないが、苦しくなって息継ぎをするために顔を離すと、唾液の橋がかかった。
「はぁ……はぁ……っ」
何が起きたのか分からないまま、新たな快感に目を見開いて、口から唾液が滴っていくアンの表情──服もはだけて、褐色肌があらわになっているその姿を見て。
理性なんて、弾けとんだ。
(エリル。起きてたらごめんね──)
一応、断りをいれておく。
起きてたら気まずいだろうなぁ、て。
でも、ごめん。もう、止まらないんだ。
………………
…………
……
「…………つかれた」
事を終えて、後片付け。
若い体ってすごい。……継続時間というか、体力というか。
アンも剣闘士なだけあって、体力がすごいあるし。でも、途中で気絶をしてしまった。
上手くリードはできたとは思う。初めてって、本当に怖いだろうし、異物感はすごいだろうから。
なにはともあれ……うん。
地面で横になっていて、ぼくの服を被せているアンを見て、唇に手を当てた。
「……大人のキスまでで。なんとか踏みとどまれた」
勢いで行ってしまいそうな所をなんとか堪えた。
本当に危なかった。
(さすがにダンジョン内で初めてを奪うだなんて最低だもんな……あぶない……若いって恐るべし)
理性が爆発したが、すぐに立て直した。ここらへんは大人な部分が上手い具合に動いてくれた。
まぁ、やることやったとしても……まだこの体、精通してないだろうし。
「性知識が大人なのに、体は子どもだから変な感じするな……」
アンが寒そうにしていたので服をかけ直そうとして、行為中を思い出して、ササッと直した。
「ダンジョンの最速記録を狙ってるのに……何やってんだって話だ」
「ますた〜?」
「アンッ──じゃなく、エリル……」
にやにやとした顔のエリルが出てきた。
「途中で気づきましたけど、どうしたんですかぁ? 積極的じゃあないですか。あらあら……女の子をこんなめちゃくちゃにしちゃって。優男のますたーがねぇ。狼になって」
「……仕方ないでしょ。止まらなくなったんだ……。ぼくだって、男だし」
「亜人ですからね。仕方ないですけどねー……」
「亜人とか関係ある?」
「一人しかいないんですよ? 王たる器を持つ種族ですから、女の子の一人や二人はいてもらわないと示しが付きませんよ」
「二人って。あとは誰も考えてないよ」
「わたしは置いてけぼりですか?」
「煽らないでって。エリルはぼくのことなんて眼中に無いでしょ? 観測者さんなんだから。神様とかたくさんいるでしょうに」
「ふっふっふ。鈍感ですねぇ〜。まぁ、ますたーらしいといえば、そうか」
「なにさ」
「いーえ? ただ、夢中になって気がついてなかったみたいですが……上のコレ気がついてます?」
「上……?」と言われるがままふいと目を上げると、そこにはボードが浮かんでいた。「えっ」
今度はなんだ、と思ってたぐり寄せてみた。
そこに書いてあったのは……。
『王たる器を持つ者が、己のモノを支配する欲を見せつけました。種族スキルが追加されます』
その下にあったのは、なんとも仰々しい名前のスキル。
「……【支配者領域】」




