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360 既成事実を作っちまえば


「……」


 あーーーーーー……そうか。

 そうでした。

 エリルにも良く言われるヤツだ。

 佳奈にもよく怒られてた。佳奈はまぁ妹だから別にいいけど……。


 最西の街に行った後からは佳奈《アルマ》と一緒に住むようになったし、冬山も二人だったけど……結局、モンスターの皆やエヴァーチェの皆と過ごすようになったし。


 アンのために時間を割いて何かをするっていうのがここ最近はなかった。それもずっと側にいてくれてるのに、だ。

 

 ぼくのせいだ……。

 

(家のこととか仕事とか、そういうのに追われてばっかりで時間を作れてなかったもんなぁ……)


 それで、アンに無理をさせてしまった。


 昔に女の子に無理させるのは駄目な男だっていう話を聞いた気がするなぁ。最近はどうなのかは知らないけど……こんな性格だから、元の世界でも彼女とかと長く続かなかったんだろうなぁ。


(アンは多分、僕のことを好いてくれてる)


 鈍感な僕でもそれくらいなら分かる。


 あまり気持ちを出さなかったアンが、こんなに積極的になってくれたんだ。その気持ちに応えるのが男だろう。


「……そういえば、主従契約とかも結んでなかったよね」


 といいながら、太ももの内側を撫ぜた。


「ひゅっ!……あるじ、なにを」


「でも、アンは結ばなくても良いと思うんだ。対等な存在だと思ってるし、従者だし」


「っぅ……ぁ、う……」


 ね、と言いながら頭の上に顔を乗っけた。

 ふふ、これで逃げられまい。

 しばし、くすぐりながらおにぎりをさっきまで持っていた手を使おうとして──ベタベタしてるので止めた。

 

「ひぐっ……はぁ……はぁ……。あるじぃ〜……?」


「なーにー? アンが先にやってきたんだからね」


 ムスッと見上げてきたアンにいたずらっ子のように笑った。

 するど今度はアンがこっちに体勢を向き直した。


「──あるじは、わたしがペルシェトから色々なことを教わってるのってご存知ですか」


「ご存知、では、ないけど……」


 ぺろ、と舌なめずりして足の上に乗っかって色々と押し付けてくる。  

 胸、股間部、腕を押し付けて頭の後ろに手を回して、グイと引き寄せてきた。

 少しぎこちなさはあるけど、アンの胸に顔が吸い込まれた。


「えーと、いちおう、きくけど、なにを教わってたのかな……?」


「好きな男の子を捕まえるためには、既成事実を作ってしまえば良いと」


 本当に何教えてんだ……ペルシェトさん。

 朝の治癒士勉強会の後、二人が残って何かをしているのは分かってたけどさぁ。

 でも、まぁ……。


「逃げられる前にやれるもんを全部やっちまえば、相手は逃げれなくなると」


 積極的になったアンは非常に可愛らしい。


 耳なんかもう真っ赤になって、ビクビクッと体を震わせながら、口から溢れ出そうな唾液を必死に我慢をしている。


 さっきのでスイッチが入ったのだろう。別にいやらしいことはしていないんだが、仕返しで太ももあたりをなぞっただけ。でも、それで何かが弾けたのだ。


「はぁっ……はぁ……あるじ……」


 なだらかな曲線を描く腰をグイグイと押し付けてくるが、どこかぎこちなさも感じる。

 荒い息遣いが耳に入り、トロンと艷やかな瞳の前に前髪が落ちてきた。

 アンの甘い匂いが鼻に届き、軽やかなリズムで刺激を与えられて。


「あぁ……もう」


 可愛い子にそこまでされたら、我慢ができる訳がない。


「離れるとか、そういうの気にしなくてもいいのに」


 回されていた手を戻して、アンの頬にあてた。


「いいんだね? やるよ──」


「あっ……」

 

 仲間に手を出すなんて最低! とは思った。

 でも、生殺しをされている状態で、手を出さないヤツがいるか。女の子がここまでしてるんだ。そこまでヘタレではない。


「っう……」


 男側がガツガツとしたら、女性陣側は怖いかもしれない。そう思ってあまり男は出さないようにはしてる。


(でも──)


 必死に我慢してたのが馬鹿らしい。

 頭を撫でて、目をあわせた。意識がお互い以外のモノを除外していく。


「はぁ……はぁ」


 手を握って、指を絡めた。

 温かい手だ。スルッと5指で握り込んで、ぼくの上に乗って跨っているアンの胸元に近づける。

 絡ませていた指を徐々に解いていき、腰辺りに手を回すと──


「はぁっ……くらでぃす……さま」


「!」


 名前で呼ばれて、ぼくも頭に酸素が行き届かなくなった。

 その代わりに体の行動を決めるのは、本能的な部分。オスである部分だ。


 アンの柔い唇に、唇を重ねた。


「──っぅ」


 水音のような音を鳴らしながら、目を合わして、呼吸を整えながら。

 密着した体に熱が宿り、抵抗感も弱くなり、アンの匂いがもっと強くなった気がした。

 

「はっ、はぁっ……キス……しちゃいました」


「前もしたじゃん……今は、ダンジョンの中だけどさ」


「へへへ……」


 ダンジョン内でこういうことをする駆け出し冒険者で僕らくらいかなぁ。

 でも、まぁ、隠れてこそこそと営む人は過去にはいそう。

 

 その後も唇を重ねるだけのキスを繰り返して、アンの息が荒くなった所で──


「これでもうキスはしました! あるじは逃げられません!」


 と言われて手を止めた。

 さっきまでの甘えた猫のような声ではなく、いつものアンの声に戻っていたからだ。


「既成事実はもう作りました。やれることは、全部やっちゃいました」


 おっと……これは。

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