359 アンとの最近
「最近このパターンが多いと思うんですよ」
「パターン?」
「です」というとアンはスチャッと赤眼鏡を取り出して。ズイと近づいてきた。「ちゃんと、聞いてくださいね?」
「あ、うん……」
アンがこういう話を切り出してくるとは中々珍しいから、何を話すのだろうかと楽しみだ。
今は、七階と八階の緩やかな傾斜で食事中。モンスターの出入りは多少はあれど、比較的に安全な場所だ。
ダンジョン毎に地形が違うのは想定していたが、階段ではなく傾斜になるとは。それも車が通れそうなほど広い。狭いばかりかと思ったら、たぶん出てくるモンスターに応じて地形が広くなってるんだろうなぁ。
おにぎりを食べながらそんなことを考えていると、頭に手を回されて、アンの顔が近づいてきた。
「最近は、あるじの身になにか起こることが多いと思います」
お、おぅ。ごめん。話すって言ってたもんね……。
「自覚は……あります」
「でしょう。短期間で多すぎるんですよ」
ふんっ、と鼻を鳴らして、おにぎりを片手に熱く語る。その熱量は政治家にだって負けはしない。
「それも、わたしがいない間にっ! それか、わたしが戦闘不能になってたりして……」
「そうかな? そうだっけ」
「まず、わたしとあるじが一緒に戦闘したのを上げていきます。まずは眼鏡に誘われたゴブリンキング二体との戦闘、そしてシルクとの戦闘、大規模クエスト、最西の骸骨騎士と上位魔族になります」
「うん。アンと一緒に戦ったヤツだね」
「今あげたので、大規模クエスト以外は全部、わたしは使い物になってません」
「そんなことないけどなぁ……」
「そんなことがあるんですよ! そして、次にあげさせていただくのは」
お、なんか拍車がかかってきた。いいぞいいぞ。プレゼンを見てる気分だ。
「王都襲撃、そして、エヴァーチェとの戦闘。この二つに関しては、わたしはあるじと共に行動ができていません」
「それは仕方ないんじゃない?」
「わたしはっ! あるじの従者なのでっ! 仕方ないとかじゃないんです!」
もぐもぐとおにぎりとおかずに作ってもらっていた卵焼きと焼き魚を食べながら話を聞く。
「じゃあ、はいっ。発言を」と手を上げてみた。
「どうぞ」
「基本的にぼくよりも先にアンが戦うような型になってるところに理由があると思うんですよ」
「……といいますと」
「昔にアンとぼくで隊列をどう組むかって話をしたと思うんだけど、あの時にアンが前衛でぼくが後衛って話をした。ということは必然的にアンが攻撃を仕掛けることが多くなる。前までは魔素の消費が多かったから疲弊する場面や、強敵と戦う場合はアンが相手の戦い方を明かしてくれるっていう役割をしてくれてた」
記憶をたどりながら話をしてみる。
アンが戦闘不能になる理由は、魔素が無くなった場合と相手が考えもしない方法で反撃などをしてきた場合だ。
「だから、仕方ないというか。アンが活路を見出してくれて、そこでぼくが対応できたって場合が多いと思うんですよ」
「…………でもぉ……」
わ、不服そう。
「アン!」
「ひゃい!」
「大丈夫! アンは強くなりました! 課題は解決したんだし!」
こういう時はゴリ押しだ。昔はアンに慰められることがあったけど、最近のアンはこういう弱いところも普通に見せてくれるようになった。
自分がよく凹んでたから、そういう時の解決法も何となく分かるのである。
「あと、これだけははっきりさせておきます。ぼくの従者さんは優秀なので、心配はしてません!」
「……」
おっと、無反応はちょっと恥ずかしい。
ぼくこういうキャラじゃないんだから、なんか、反応らしい反応を頂けると……。
「んっ」
「?」
袖をクイッと引っ張られた。手を出せ、って言ってるみたいだ。お望み通り腕を伸ばすと、アンは座りながらちょっとずつ移動して、腕の中に収まった。
これは……なんです?
「あの、ごはん、たべにくいんだけど……」
「そのまま食べてください」
「はい……」
頭の上にご飯粒とか落としちゃったら取りにくいんですよ? せっかくキレイに梳かした黒髪に白米がついちゃうと……まぁいいか。本人が良いと言ってるんだし。
「あるじ。最近はあるじの身になにか起こることが多いので、わたしがこうして近くで護ります」
「それは安心できる、けど、信頼してるからこそ別行動も任せると思う……」
「ヤ、です」
「ええ〜? 困ったなぁ……」
「あるじを困らせる従者は……悪い子ですか?」
(悪い子……?)
妙に塩らしい言葉を言われて不思議に思ってると。
――ぎゅむっ。
おにぎりを持っていない方の腕をたぐりよせ、股の間に入れてきた。それも逃げれないように太ももでガッチリと拘束。
「……あのぉ、アンさん?」
えーと、ちょっと、あの。
冷静な顔を頑張って作ってるけど、内心冷や汗ダラダラなんですが。お尻もぼくの鼠径部に当たってますし……。
「あるじは……わたしを心配させるのが得意です」
あ、駄目だ聞いてない。
「ので、心配をしないようにこうしてくっついているのです」
これ指とか動かしたら……というか、急にどうしちゃったんだろう。いつの間にか口調もふにゃふにゃになってるし。
「アンはクラディス様の従者ですので」
「……そうだけど。今日、どうしたの?」
流石に様子が変だと思って聞いてみた。積極的というか、あの日以来こういう雰囲気になったことがなかった。
すると、アンの耳が赤く染まって。
「…………さいきん、ふたりきり、になること……なくて」
恥ずかしそうにそう言った。




