354 禁忌の侵し方
「この国でいちばんえらい……ってことは、王様で……」
「そうそう。それで?」
「王様……が一番偉くて……でも、女性だから」
「うんうん」
「わあーーー……女王さまなんだあー……すっげぇ……」
アルマ。感激である。国王とかそういう人って実在してたんだ〜。すっげぇぇ。
「ほらな。見たか。こいつ、浅いんだよ」
「いやっ! 最大級だって! そんな人と会えるのびっくりしてます。びっくりでした!」
「あははは。面白い子ねぇ」
なんだか知らんがウケた。よかった。
おばあちゃんが笑うのをみると幸せな気分になるんだよな。うんうん。
小さな机の上にある茶菓子を食べてよいとされて――ズイと私の方に寄せてくれた――それを食べた。あっま! うまぁ。
「じゃあ、なんで先生は女王さまと知り合いなの? もしかして……子ども……」
「わたしは生涯独り身さ。あと、わたしからこんなふわふわしたのが産まれる訳がないだろう」
「先生は処女なのよ。選り取り見取りだったらしいのにねぇ」
「魔法を研究するのに男手なんて要らないのさ。で、私がこの嬢ちゃんと知り合いなのは……なんて言えばいいのやら」
「驚かしちゃっていいんじゃない?」
「いや、驚くも何もコイツは常識を知らないのさ」
なんだか本当に昔からの知り合いって感じだなぁ。
先生がこんなにリラックスしてるのも久しぶりに視る気がするし、女王さまも──普段の姿なんて知らないけど──職務なんて忘れて一人の女性として話してる気がする。
同窓会に誘われて参加したみたいだ。仲良しなんだろうなぁ。
「なら、お嬢さんは先生の何を知りたいの?」
私と女王様が椅子に座ってたので、先生はベッドにドカッと座っていた。
先生の知りたいことかぁ。
「うーん。蕎麦先生……何者なのか、あと……あれをなんで勉強してるのかって」
「死霊術ね」
女王さまの前で死霊術って言っていいのか分からなかったので濁したら、先生がスパッと言った。
「相変わらず禁忌魔法が大好きみたいですね」
あ、女王さまは先生が禁忌魔法を使うのを知ってるんですか。それ、世間的に不味い気もするけどいいのかな。
「そりゃあそうさ。私ほど、禁忌魔法を研究をしたヤツもいない」
先生は私が食べようとしていたお菓子を魔法で取り上げると、ベッドの上で食べていた。
「わっ、血糖値上がっちゃうよおばあちゃん」
「うるさいねぇほんとに」
ぺろ、と食べるとこちらまで歩いてきながら壁にあった椅子を魔法で寄せてきて、隣に座った。
「わたしは別に死霊術だけを研究したかった訳じゃない。禁忌魔法を使ってみたかったのさ。でも、定命じゃあ時間が足りないから、先に死霊術を研究したってだけさね」
「つまり一回死んで……」
「そうさ」
禁忌魔法の研究には膨大な時間が必要だから、死霊術で一回死んで、それで時間を作った。
すごーい……そんな発想になるんだ。
「なんでそんなに研究したかったの?」
「しちゃ駄目なことってしたくなるだろう?」
ニヤリと笑った。やはり、この人はヤンキーである。金髪でピアスとか開けてたんだろう。
「あとは魔法使いの性さ。どれだけ優秀な魔法使いでも禁忌魔法は使ったら駄目、研究するのも駄目。だから、魔族じゃない私達は全員が使えない魔法だ。そんなの使ってみたいだろう? 使える実力があるんだったら」
「うへぇ……」私には理解できないなぁ「女王さまはいいの? それ」
「いいのいいの。この人はのびのびとさせてたら。私が生まれる前からこの国に貢献してくれてた人だしね」
「そうだよ〜。ホント、このレナが鼻水と糞尿を撒き散らしてた時から知ってる。その前の王様もね。私がこの国に仕えてたのは、六代前の王様の時さ」
レナ? 女王さまの名前かな。玲奈って名前の知り合いいたなぁ。一軍女子だった覚えがある。
「というか、先生……軍人さんだったの!?」
「軍人というかねぇ〜……そこらへん、あんたのほうが説明が上手いんじゃないのかい?」
「う〜ん。じゃあ、国定魔導士って名前は聞いたことがあるかな?」
こくていまどうし。
「あ。知ってる、それ」
毎日、先生が新聞を持ってきてくれている。それを文字を読む練習と世間を知る練習のために読んでいるんだけど、そこにそんな感じの言葉が書いてあったきがする。
「意味は分からないですが……へへ」
「国が認め、国に仕える魔法使いさんのこと。その制度はソバドアさんを引き入れるために、二つ前の王様が作ったの」
「うぇっ」
ってことは……それって、すごいことなんじゃない?
すごいって言葉でいいの? なんか、もっと、こうー……語彙力よ! 降ってこい!
「パない……」
終わった……現代文とか、もっと勉強しとくんだった。
「王様に気に入られてね。でも軍人なんかにゃなりたくないって言ったら、自由にしていいし地位をやるからということで制度まで作りやがったのさ」
「はあ〜。モテモテなんだ、先生は」
「そりゃあそうさ」
「その話でいうと、最近、久しぶりに国定魔導士さんが誕生したのよ。先生は知ってる?」
「知らん。それどころじゃないんでね。コイツが物覚えが悪いから大変なのさ。あんたみたいに賢かったら楽なんだけどねぇ」
「あははは。教えてる内容が違うからよねぇ? えーと、そういえば名前を聞いてなかった」
「アルマです! アルマ・ハイドレンジ」
「アルマちゃん。よろしくね。先生に教わってるなら、教え子同士仲良くしましょ?」
ウィンクされた。うひぃ、茶目っけがあるおばあちゃんかわいい。待ち受けにしたらお金持ちになれそう。ご利益ありそう〜。
またお菓子をすすめられたのでパクパクと食べた。王様が食べるお菓子って美味しいんだぁ。
「新しい国定魔導士さんは、アイリスって女性よ。賢者さまみたい」
「知らない名前だねぇ。……賢者か。称号Ⅰ持ちなんて珍しいのをどうやって連れてきたんだか」
「監査庁が噛んでてね。この前の戦いで王国を助けてくれた人たちの中にいたみたい」
「先生は賢者じゃないの? 賢者っぽいのに」
お菓子を食べながら聞くと、目を丸くされた。
「あたしがそんなん持っとるわけがないじゃないか。地道な努力さ。称号Ⅰ持ちだったら、ネクロマンスなんか研究せずにさっさと死んじまってるかもしれないね」
「わっ、それは困る……」
「そうよ。先生がいなかったら、わたしはもっと厳しく育てられたに違いないわ」
「アルマはまだしも、あんたはこの国の王だろう。もっとしっかりしな」
「王様が気を張りつづける国よりも、こっちのほうが良いでしょう? 大丈夫よ。やる時はやるんだから」
女王様が笑うと、先生は肩を竦めた。
「で。だよ。最初にも言ったけど、あんたんとこのの兵隊さんに訓練の邪魔をされたんだ。地下を使わせてもらうよ? いいね?」
「地下? どうして?」
「結界が邪魔で自由に魔法を使えないのさ。王城の地下で訓練場なら自由に戦えるからね」
先生の言葉に少しだけ考える素振りを見せる女王さま。
「私は先生がいると安心するからいいけど……みんなが使う訓練場でしょう? 管轄してる人に聞いてもらわないとねぇ」
「なら、呼んでくださいな。お話をしよう」
「呼んだかい?」
声の聞こえた方を見ると、何もなかったハズの壁からヌッと姿が現れた。
その子の見た目はとても幼く、頭の上でお団子を作ってて……すごく耳の長い少女だった。




