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352 ソバドアの年齢



「ほおお、これはこれは。アンタ、アルマの呼び出しに応えたんだね? ああいう子が好みなのかい?」


 蕎麦先生は十夜に詰め寄っていた。無表情ではあるもの、ちょっと困惑気味の元知り合いを煽っている。

 そうか。わたしの呼びかけで出てきてくれたのか。……嬉しい。

 

「十夜さん、ありがとうね」


「……」


「うわ、照れてやがる。なにさ、わたしのことを好きって言ってくれた男はどこに行ったんだろうねぇ〜」


 はあ〜とため息を着いて、先生は曲げていた腰を伸ばした。


「あと、うまく降霊術できてたじゃないか。さっきの……十夜の横に居たのは見たことがないけど」


「白い子? 天穿《アメ》っていうらしいよ」


「あめ……聞いたことがないねぇ。でも、ここらにいる魔族ってことは…………もしかしたら、随分前に死んだ魔族なのか」


「そりゃあそうでしょ。死んだ人しか呼び出せないんだから」


「……はあ〜、まぁいい。あんたは馬鹿だから」──「誰が馬鹿だ!」──「話しても面倒だ。どうせ、理解できないだろうし、そのうち分かるだろうし」


「愛しい教え子にバカバカいう先生嫌だなぁ〜……」


 ほんと、さっきまでかっこよかった先生はどこに行ったんだか。


「っていうか、私が魔族だってことしってたの!?」


「死霊術《ネクロマンス》できる奴が魔族じゃないわけがないだろう」


「えぇ〜? 知ってたなら早く言ってよぉ〜」


「言う機会なんてないだろう。それに……まぁ、少し前に色々知る機会があったのさ」

 

「勝手に人のことを知っただって〜? えっちな蕎麦先生。ピンク色があるのはひやむぎだよ。蕎麦にはないんだから」


「何言ってんのか分かんないねぇ、相変わらず」


 なんて感じで私達がこうやって雑に会話ができているのは、戦闘という戦闘が終了したからだ。

 先生が出していた死霊は消えて、地面には気絶している軍人さん達がのびていらっしゃる。みんなカエルみたいだ。

 

「……じゃあ、コイツらには今日のことを忘れてもらおうかね」


「えっ、そんなことできるの?」


「できるように勉強した」先生はどこからか取り出した杖を取り出して、軍人さんの頭にコツと付けて。「死霊術と同じ、禁忌魔法だがね」


「禁忌魔法にそんなのあったっけ? 教えてもらった中に無い気がするんだけど……」


 禁忌魔法は、えーと、何個かあるって聞いた気がする。

 洗脳操縦《マインドコントロール》と死霊術《ネクロマンス》と死者蘇生《リザレクション》…………と、えーと。

 ……記憶消去《オブリビエ》だっけ。


「あ、記憶消去《オブリビエ》!」


「ほれみたことか。忘れてた。馬鹿め」


「もおー……バカバカいうとカバになるんだから」──「カバ?」──「というか、先生が使うの禁忌魔法ばっかじゃん! 実は悪い人なんじゃないの? 正直に言ってみなさいな」


 受け入れてやるぜ、と手をクイクイしてみると睨まれた。こわいっ。


「良いも悪いも、わたしはただ研究して使えるようになっただけさ。これで人殺しなんてしてないだろう?」


「え〜、あの人、禁忌魔法は駄目なんだって言ってたよ」


 わたしは最後まで頑張って耐えていた白髪の軍人さんを見やった。

 

「何が駄目なんだい? 人を殺してしまうから? 魔族が使うから? それとも命を軽んじてるからかい?」


「知らないよぅ」


「結局は使いようだろう。コイツらが持ってる剣だろうが、魔法だろうが、殺そうと思えば人を殺せる。命を軽んじていると言われてもコッチは契約を結んでいるんだ。悪いことなんて一つもやってないだろう。やりたくないことをやらせている訳ではないんだ」


 グチグチと言いながら、先生の杖の先に明かりが灯る。

 絶賛、記憶の消去中。器用だなぁ。わたしも恥ずかしいエピソードを忘れさせてほしいよ。全校集会で代表一名が前にでるのに、なんか自分だと勘違いして前に出ちゃって死ぬほど恥ずかしかったのを忘れさせて欲しいよぉ。

 

「だからね、禁忌魔法って一概に言われてもこっちも困るんで──」


 って、まだ言ってるし。

 

「先生、色んな人に言われてきたでしょ。今日みたいなこと」


 目が合うと、はあ〜と呆れたような息を吐かれた。なんだよぉ。


「当たり前だろう。何年生きてると思ってんだい」


「えーと300歳って言ってたっけ」


「それ嘘だと思ってるだろう」


「嘘だと思ってるけど……さっき死んだのに、生きてるし、何かカラクリがあるんでしょ。手品ならネタばらしよろしく」


「? まだ分からないのかい? わたしがあんたに教えてるのはなんだい?」


「おしえてるの……常識?」


「まぁ、常識と文字は教えてるが、メインは違うだろう」


「あっ、死霊術《ネクロマンス》のこと?」


「そうさ。わたしは220年前くらいに死んで、自分を死霊術《ネクロマンス》した」


「へえー………………」


 足元にあった小石を蹴っ飛ばす。

 先生、一回死んで……死霊術《ネクロマンス》で。


「そんなことできるの、すっげぇ……わたしの先生ってすげぇヤツじゃん」


「さっきのは自慢だよ。もっと褒めな」 


「いやっ! さっきのが最大限のいいねです。すっげぇです!」


「そうは聞こえなかったがね! まぁいいか」


 ほんとうにすごい人なんだ。この人って。


「……せんせいって、何者なの? あ、ちょっと待って! これだけすごいってことはさ……実は、隠れた実力者で姿を隠して生きてる〜みたいな?」


「死んでるやつが姿を隠さないでどうすんだい。生きてるってことがバレたら、自然と死霊術《ネクロマンス》って分かるだろう?」


「あ、そっか」


 それもそうだ。てへ、うっかり。


「じゃあさ──」


「質問攻めはいいけど、場所を移すよ。ここじゃ雰囲気がない。記憶の消去も済んだし……色々とやっておいたしね」


 最後に白髪の男の頭を杖でパシッと叩いていた。

 殺された仕返しとしては軽い。わたしも叩いておいた。こいつめ、顔覚えたからな。

 

「で、どこにいくの?」


「そうだね。ちと愚痴を言ってやりたいヤツがいるから……ついてからのお楽しみさ」


 


   

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