348 禁忌を侵す者へ断罪を
「っ……っく」
「もう、再生する力もないか」
勝負はあまりにも一方的なもので、幕を閉じた。
男が魔法を弾き、襲われていた味方を支援しようと緑色の兵が支援をしようとして……持っていた錫杖で胸を貫かれていた。
七体の兵は男に手も足も出ず。何度もその形を壊され、それの修復に魔素があてがわれた。
そして、最後に男が武器を振るって七体の兵が立ち上がれなくなると同時──先生も膝をついた。
それを……わたしは、見ることしかできなかった。
かひゅぅ、かひゅぅ、と先生の肺の悲鳴が喉から聞こえてくる。
風の音にかき消されないほど、先生が必死に呼吸を繰り返しているのが分かる。
体がもう限界なのだ。
「……歳を取ると魔素を練ることも難しくなる。よく、ここまで戦ったよ」
「ほめ……られても、うれしかないねぇ」
……先生はそもそも戦うことが難しい体なのだ。
訓練中に死霊術を使ったことは、今まで一回しかない。
最初にボルル君を切り結んだ時以外、使ってないのだ。その理由は聞いた。
魔素を練ることが難しくなってきている。
魔法使いと原理は変わらない。魔法を放つ代わりに死霊を召喚する訳だ。
で、魔素はこの世界において『エネルギー』である。
魔素を練ることができない魔法使いが、どうなるのかはもう分かりきったことだ。
ましてや……先生の一番は、この私を護ってくれている十夜という死霊。
「あぁ……せんせ、い……」
こんなの……馬鹿でも分かる。
わたしがここにいるから、先生はあの男に負けたのだ。
そうだ。そうに違いない。
だって、先生は……強くて。
負ける訳もなくて。
「……!」
先生が横目で私を見ていることに気付いた。
「お願いだ……あの子には、手を出さんで、くれ」
「無理だな」
「頼む」
先生は頭を下げた。
「……何度も言っているだろう。禁忌魔法の研究と行使は」
「未来ある子どもなんだ」
「駄目だ」
男は切り捨てるように言い放ち、武器を構えた。
「お前らを生かしていたら、王国の民が危険に晒される。女だろうが、子どもだろうが、老人だろうが、関係ないんだ。罪を犯したらそいつは罪人。歳や性別なんて関係ない」
振り上げられた男の武器が白銀色に輝いた。
「あ、あああぁああっ!!」
瞳に映るその輝きの意味はダンジョン内で痛いほど知っている。
「だめ……だめっ、ダメ――ッ!」
──だが、アルマは知らなかった。
「先生ッ!……せんせいっ──」
何度も叫んだ。
なんども叫んで、手を伸ばした。
──この世界のこと、そして自分が立っている場所のことを何も知らない。
「退いて、退いてよっ……せんせいが、殺されちゃう」
ボディガードみたいに先生の元への道を遮る十夜は、苦しそうに顔を歪めた。
──この世界は元いた世界よりも厳しく、罪の認識や種類も異なっていて。
「せんせいっ……! どうして、十夜さんっ……お願い……」
──彼女自身も生きようとすればするほど、罪人として成していくことを。
アルマ・ハイドレンジ。
種族:魔族
個体名:理外者
称号Ⅰ:転生者
ユニークスキル:死霊術
彼女はこの歪な世界において、この上なく生きづらい存在なのだ。
「せんせいっ──」
男の武器が振り下ろされる寸前、十夜の拘束が緩んだ。
「っ!」
よろめきながら駆け出し、手を地面に付きながらも先生の元へ真っ直ぐ駆けた。
「先生ッ──!」
いそげ。走れ。
先生が殺されちゃう。
今なら、まだ、間に合って。
「────」
先生と目があった気がした。
「……!!」
なんで、そんな顔をするの……?
どうして、優しく笑えるの……!?
「ぐっ……ッ!」
アルマは駆けた。
だが、彼女は剣闘士でもなければ、熱心に走り込みの練習をしている訳でもない。
日夜、死霊術だけを練習していた彼女の足は細く、透き通るように白く、華奢で。
地面に着く手も肉刺もなければ、小さく、武器の握り方すら知らない。
「ハッ、ハッ──」
故に、その速度はあまりにも遅い。
間に合うわけもなし。
「蕎麦……先生っ……」
重たい体に鞭を打てど、彼女の恩師は──眼の前で男に首を落とされていた。




