341 アルマの気持ち
クラディス君とアンちゃんがペルシェトさんに連れて行かれました。
どうも、こんにちわ。佳奈……じゃなかった。アルマです。
絶賛、不服です。見てください。この頬の袋。すごいでしょ。こんなに膨らむんですよ。ここに何が入ってるかって? そりゃあ、不満ですよ。
「せっかく会えたのに……全然一緒にいられないじゃんっ!!!」
もうまさにコレ。
本当にコレ。
何なんですか?
異世界越しの兄妹の再会とか、何分の何の確率です? 宝くじ当たるよりもすごい確率に決まってますよね? なのにコレです? 高望みしすぎ? うるせぇ! 女子高生パンチ食らわすぞ!!
あーーーー、もう、やだやだ。
「……一人の家は寂しいなぁ……」
がらんと広がる家を眺めてます。お兄ちゃんがいなかったから、アンちゃんが掃除してくれてましたけど、途中からはそれどころじゃなかったから家の中が散らかってます。
帰ってきたら間違いなく怒られるだろうなぁ……なんて思ったりしてますがっ!! それよりも私は!! もっと! お兄ちゃんと遊びたいんです!!
ご存知ですか? 平野家はあんまり兄妹で遊ぶ時間なんてなかったってことを!
あ、知らない方もいらっしゃるかもしれないので説明しますけど。
わたし、アルマ・ハイドレンジはこの世界に転生する前は平野佳奈って名前で女子高生をしてました。イェイ。
で、クラディス・ウェイ・アルジェリア……だっけ? フルネーム覚えてないや。とりあえず、あの白銀っぽい髪色の子どもは私のお兄ちゃん。名前は平野明人。成人済みの20歳。
で、兄妹で遊ぶ時間が無かったっていうのはですね。お兄ちゃんがこれまた部活動や勉強に熱心だった訳ですよ。
剣道やってたり、いい大学に行くために〜って言って。学費が安いのは国公立ですから、そっちに行こうと頑張ってね。
家に帰っても勉強勉強。最後にまともに遊んだ記憶は、お兄ちゃんが中学1年生くらいの時だったと思う。でも、その時からお兄ちゃん勉強勉強って、本当に同じ血が流れてるんですかっ!? って思ったね、アレは。いやほんとに。
で、大学に行ったら遊べると思ったら、なんと父親と母親が離婚してどっか行っちゃった。
もーーーーーー、そこからはお兄ちゃんも心を閉ざしちゃって、私みたいなヤツを大学に行かせようと頑張って働いてくれてさ。
…………ほんと、遊ぶ時間なんてなかった。
「のにっ……!」
もう、限界だ!
恥なんか知るか! 思いっきり泣いてやる!
「うぇええええええっぇえぇぇぇえ……お兄ちゃんと遊びたいよぉ……寂しいよぉ……辛いよぉ……うぇぇぇ……」
異世界で再会したんだから、一緒にスローライフエンジョイしたいぃぃ……。
異世界モノとかってもっとこう、楽しいもんじゃないのぉ?
「……お兄ちゃんがハーレム築いててさ? 私が妹ポジで、ヒロイン枠にはなれない〜とかさ。そういうのでもいいんですよ……殺伐としすぎでしょ……異世界って、もっと、楽しくてワクワクするもんでしょー……。もう、ふざけんな異世界! 馬鹿! あほ! 間抜け〜!」
ぐずっ、鼻水出過ぎ。ティッシュもうないよ……というか、ティッシュ高いよ。この世界。……お兄ちゃんって毎晩どうやって処理してんだろ。
「……そんなことどうでもいいか。お兄ちゃんだし、なんかしてるでしょ。女の子ウケいいしさ。ふんっ……」
そんな愚痴を垂れ流してるけど、そろそろあの人がやってくるのだ。
──ガチャ。
あ、ほら。話をすれば、だ。
「やぁ、今日も勉強会を始めるよ」
この人は蕎麦先生。
若かったら絶対にかっこよくて気が強い女性だったと分かる顔。バイク乗り回してそう。ゴツイバイクだ。原付じゃないよ?
腰がそこまで折れ曲がってないからそこまで年寄りじゃないのかもしれない。けど、発言はおばあちゃんだ。
「ズビッ」
「? なにグズってんだい。乳飲み子じゃあるまいし」
「蕎麦先生にはわからんでしょうなぁ!」
「どうせダンジョンのことをグズってるんだろう? はぁ、なにも理解してないねぇ」
ドサッと荷物を置くと、腰をぐぐぐと反らして死にそうな声を出して。
「むしろ、連れて行ってもらわんで正解じゃないか」
「? なんでさ」
「下位ダンジョンだろう? そんなもの今更挑戦してどうすんだい」
「登竜門だとか、なんとかって言ってたじゃん」
「あんたの弟やあの子はお嬢と訓練をしてるんだろう? 下位ダンジョンに行く間は何も成長ができない。むしろ、その時間をアンタは自分のために使える」
「……」
「良いことじゃないか。あの子らがダンジョンで遊んどる間に越しちまうくらい頑張ったらいいんだよ。で、帰ってきた時に胸を張って迎えたらいいじゃないか」
「そう……かもしれないけどさぁ……」
「なんだい。なにが不満なんだい?」
「……一緒に遊びたいなぁって」
「馬鹿を言うんじゃないよ。出遅れてることを自覚しな」
「ぐっ」
そう。蕎麦先生はスパスパと歯に衣着せぬ発言をするのだ。
異世界の切れるナイフ。その名もソバドア。ソバドアナイフ、新発売。
「わたじっ、出遅れてないもんっ!」
「どこみてモノ言ってんだい! 文字も読めなかった!」
──ぐさっ。
「自分の使える魔法のことも何もわからない!」
──ぐさっ。
「出遅れどころじゃないじゃあない! 出てすらいなかった小娘が!」
──ぐさっぐさぐさぐさーっ!
「ひぐっ、ぐっ!…………ぞごまでっ……いわなぐでも……」
言い返すこともできない乱刀に心は滅多刺し。
「はあ……ほんと、あんたのどこがお姉ちゃんなんだか。あのクラディスっていう弟の方がしっかりしてるじゃないか」
「…………」
そうだ。
その通りなんです。
蕎麦先生のいうとおりです。
「どうしたんだい? 急に黙りこくって」
「いや……なんでも。……ほんとに、その通りだなって……」
ちょっとぎこちない笑顔を浮かべた。
「……クラディスくんは、私にとってお兄ちゃんみたいな存在なので」
この世界に来て、お兄ちゃんと私の関係は変わった。
お兄ちゃんが弟で、妹だった私はお姉ちゃんになった。
前はできの良い兄を持つできの悪い妹だった。けど、今ではできの良い弟を持つできの悪い姉だ。
正直、世間の目は厳しい、と思う。
前は「お兄ちゃん」の背中を追えばよかったから、正解の道があったし、年齢のこともあって出遅れているという意識もそこまではなかった。
が、今は私のほうが年上。わたしは年齢が変わらずに17歳。
同年代の子の友達はこの世界にはいないけど、普通なら働いている年齢らしい。15歳で成人って話だったもんなぁ。
つまり私は今、成人済みで何もしてない、何もわからない世間知らずの愚鈍。
「……」
前の世界では、お兄ちゃんのことを褒めた後に「あんたはどうしてああならなかったんだろうねぇ」と誰かに言われても、自慢の兄なので、へへへ、と言うことができた。
でも、今ではできない。
(…………この世界のことを知れば知るほど、今の私に価値なんてないことが分かる)
実績もなければ、こんな感じだ。
私はお兄ちゃんみたいにはなれない。
サボるし、息抜きしたいし、楽しいことたくさんしたいし、痛いのは嫌だし。
何かしないといけないと分かっていても、目の前の楽しいことをやりたい。
そうしたら気持ちが紛れるから。自分のことを考えなくて済むから。
「わたしって……ほんと、駄目だよなぁ……」
「──なにしみったれた表情してんだか」
「アデッ!」
ふい、と顔を上げると人差し指を私の額に放った蕎麦先生がいた。




