340 下位ダンジョンに向けて
王城から出たらすぐに、姿をクラディスに戻しておいた。クラディスのときの格好は収納袋に入れておいたので安心。
男に戻るとナグモさんへ溢れていた意味のわからない恋愛感情は無くなった。精神は体に引っ張られているのかもしれないな。まぁ、男のときでもこの横顔はカッコイイとは思うからアレだが。
で、そのままダンジョンに直行するという。……ハードスケジュール。
お弁当とか、飲み物とかはぼくが準備できないから完全に任せっきりだ。
「久々〜、みんな〜!」
ギルドに着くと、アンと佳奈、ソバドア先生とティナ先生がいた。勢揃いだ。
「あるじっ! ご無事でしたか!」
「うわあああああ!! クラディズぐん〜! 無事らった〜!?」
駆け寄ってきてくれた二人と抱き合って、ワイワイと盛り上がっている。
事情は既に話をしてくれているようで、ここでなにか聞かれることはなかった。
でもちらと見えたのは、アンや佳奈の目の下にクマがあること。
「ほんっと、この二人だけは落ち着けと言っても落ち着かん」
ソバドアさんがため息をつきながら。
「今日に向けて休めと言ってもなかなか寝ずに……馬鹿な子たちだよ」
そうなのか……心配をかけたな。
ギュッと抱きしめられて、ぼくは目と小さな首の動きだけでソバドア先生に謝っておいた。
「アン。アルマ。寝ないとだよ?」
「あるじがっ! 置き手紙なりなんなりしていけば!」
「よかったんじゃないですかねっ!」
「……言い返す言葉もありません」
としても、王城に行くという手紙を出して帰ってくるのが遅かった場合、アンやアルマが訪れて、色々と『アイリス』という人物像に揺らぎが入りそうだ。
……それでも転生者が急に消えたとなると、捕まえられたと考えるのが普通だ。
ギュッと佳奈に握られると、
「お兄ちゃんだけは……急にいなくなるのは駄目なんだから」
小さく苦しそうに呟いた。
「──……」
顔を上げた佳奈の顔は真剣で、本当に泣き出しそうな顔をしている。
「ごめん。そんなつもりはなかったんだ。今後はないようにするから、ね?」
「……うん」
「よぉし、久々の再会は済んだかな〜?」
奥からペルシェトさんが出てきた。いつもの格好ではなく、外行きの格好でもない。
ちょっと冒険者っぽくもある、動きやすそうな格好だ。
「休みなしになるけど、今日は下位ダンジョンに行く日です。ほら、部外者さん達は散った散った」
ソバドアさんとティナ先生とナグモさんを追いやり、ソバドアさんはアルマの首根っこを掴んで行った。
僕らがいない間、訓練頑張って! という意味のジェスチャー──手をグッとした──は、むりむりむりむりという首を激しく横に振られて断られた。ソバドアさんに殴られてたけど。
「さぁて! 色々とあった! なぁ! 少年少女よ!」
「は、はい」
「そうだな」
テンションよ。
ちょっとまって、いま比較的に副交感神経の方が優位だった。そんなすぐに変えれないって。
「ナグモさんが勝手に登録しやがってたので取り消すこともできず、結局、私が引率することになりました」
「私でもいいと言ったんですけどねぇ」
「駄目です。流れで中位ダンジョンまで行かせそうなのでっ」
「私を何だと思ってるんだか」
後ろで、やいやいというナグモさんをペルシェトさんはキッと睨んだ。
ペルシェトさんはナグモさんと並ぶ副職員長だ。ギルドという組織の中ではこの人も上の方の立場。
この二人の上にいる丸さんってすごいんだなぁ。ギルドの窓口からチラチラとこっちを見てる丸さんと目があった。手を振っておく。
「だからっ!」──ペルシェトさんの顔が間近に迫った。「私が下位ダンジョンの測定員になります。不正なし、やらせなしの測定をしてあげましょう!」
ポーズを決めて、ニマッと笑った。
「だから動きやすそうな格好なんですね」
「そゆこと」
「なんでそんなに元気なんだ?」
アンが質問をすると、よくぞ聞いてくれました、と口元を緩めた。
「だってっ、デスクワークからしばらく開放されるんだもの!」
ペルシェトさんは猫耳をおっ立てて後ろの職員ルームをみやった。皆から羨ましそうな顔をされている。ふ、と口元を猫のようにして、僕らを向き直した。
「本来、測定員なんて面倒くさいんだけど、クラディス君は職員から人気だからね! 時間が間違ってるーとか、なんじゃーかんじゃーグチグチ言ってこないだろうし。あとは二人が君たちの年代の出世頭になれるのか、これで決まるから見たいという人も多い」
「そうですよ。軽んじてる人もいますが、下位ダンジョンは冒険者の登竜門。目立ちたくば結果を残す必要がある」
「中には血盟の人や友人が測定員として参加することもある。冒険者の中では一大イベントなのだ」
ペルシェトさんの説明を受け、おぉ、と関心していると肩をガシッと組まれた。
そして、耳打ち。
「大手の血盟から声がかかることもあるし、加入金は大金を積まれることもあるのだ」
とお金のお話。ぼくがお金が大好きなことをよくご存知で。
「じゃあ、行こっか! 下位ダンジョンに向けてっ!」
ほら、テンション上げて、皆見てるから、と言われた。
「むけて〜……」
「テンション低いぞ! ほら! 下位ダンジョンに向けてっ! レッツゴー!」
「おー……!」
ごめんなさい。イマイチ、テンションが乗らない。
切り替えうまくいきません。ONOFFスイッチみたいにすぐに切り替えれるほど単純なヤツじゃないんです……。
「あるじ、こういうのは楽しまないと、です」
「楽しむったって……」
「それに怪しまれないように。あるじはいま普通の男の子なので」
アンがこそこそと話をして、ペルシェトさんの方を見た。
最近、大人びたことばっかりしてきてたから童心に帰るの難しい、けど。
「頑張るぞ、お、お〜!」
「おー!」
「おーーー!!」
恥ずかしいけど、子どもの体では子どもらしいことをしなければ。
アンの言う通り、今はアイリスではなく、クラディスだ。12歳の子どもなのだ。
(にしても……)
全然、ダンジョンに行く前に休息取れなかったなぁ。バタバタして、結局疲れたまんまだよ。
他に忘れてることって何かあったっけ……。
「……あ、ソバドアさん」
「ん?」
「お体。お気をつけて! 無理しないでくださいね」
ここで話を振られるとは思ってなかったのか、目をパチクリとさせると腕を組んだまま手を振ってきた。
「気にすんな弟。いいから行っといで。面倒は見といてやる」
佳奈がすごく嫌そうな顔になったけど、頼もしい言葉だ。
ソバドアさんは体を無理して佳奈に色々と教えてくれている。
本当に頭が上がらない。
「じゃあ、行ってきます」
そうして、僕たちは皆とギルドの職員たちにも見守られて、王国を出立した。
目的地は東にある【モルの大森林】にある下位ダンジョンだ。
これで6-2 転生者冤枉編上──国定魔導士が終です!
無事に100万文字も達成したので、満足してます。
いやぁ……かれこれ5年くらい書いてる作品なので頑張った感凄いですね。
もしお話に興味を持っていただけたなら、下の★を押していただけたらと思います。
あわよくばレビューや感想もいただけたらと我儘を言わせても頂きます。
ただ一言だけでも大変光栄ですので、もしよろしければお願い致します。




