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339 きゅんっ


「ですので、アイリス様を返していただきたい」


「やだ」


 お茶を淹れて、しばらくしているとナグモさんがやってきた。

 ナグモさん分のお茶も出して側に立っているのだが、ずっとお団子が拒否している。

 理由は一貫してこれ。


「アイリスは、私の助手だぞ」


 うるせぇ。なった覚えはないっての。

 

「アイリス様は私の弟子です」


 なった覚えは……ないなぁ、そっちも。クラディス側はお弟子ですけども。


「君は組合は組合でも、冒険者組合だろう。助手君は傭兵だぞ」


「えぇ。傭兵に入るまでの期間にお手伝いしたんですよ。傭兵でこれほどまでに礼儀のある子がいますか?」


「おらん」


「それに、正当な理由なくしてこの子をこの場に留めさせるのは許しません」


「私は元帥で、アイリスは国定魔導士だ」


「だからなんですか。【紫蘭之団《オーキッド》】は外部から引き抜いた即応部隊。中には恩寵ノ集(ティータ)の団長もいる。が、その彼女は普通に依頼を熟して、招集があれば王城に赴くというモノ。だが、それもすべてに応じれる訳ではない」


「隊長として王城にある程度はいてもらわなければ、実際に動かす時に動きにズレが出る可能性だってある。それに彼女は軍の組織内に入っている」


「その業務の一環にお茶入れがあるんですか? 結局のところ、組織内に入っているだけであって有事の際に動員する戦力の内の一つだ。城の中に常駐する必要はない」


 うわぁ……ナグモさん怖い……。

 

「彼女にも家がある。友人がいる。仲間がいる。都合の良い人材を見つけたと喜ぶのは良いですが、身寄りのない彼女を育てたのは私です。なので、私をまず通していただきたい」


「……随分とご執心な師匠だこと。もしかして、好いとるのか?」


「私は独り身ですので、聞き分けのよくて美人な弟子とあれば……男ならば手を出さない方が失礼でしょう」


 ──きゅんっ。

 

「……」


 えっ、いま、きゅんとした?

 はっ? え、ぼく……男なのに?

 いや、体は女の子だけど……。


「はああ……分かった分かった。キミがそこまで言うなら。だが、たまには来てもらうぞ」


「私の許可を通してからなら」


「敵わんないな……ホントに。組員で燻らせとるのが勿体ない」


「お気持ちだけで十分です」


 ちら、とナグモさんに顔を見上げられて、持っていたお盆で顔を隠した。

 くっそぉ……なんかわからないけど、体が女の子になってるせいか、ナグモさんがイケメンに見える……。

 イケメンなのは前から知ってた……が、よりというか、周りに花が浮かんでる気がする。

 落ち着け、クラディス。前のナグモさんが言ったセリフを思い出せ。


 ──転生者ならもっと強くなれ、雑魚。


 ……うん、ちょっと落ち着いてきた。

 あんな笑顔で罵詈雑言を言うやつなんて、信じられるか。

 

「さ。行こうか、アイリス」


 立ち上がったナグモさんに肩を抱き寄せられ、ひゃ、と声が漏れた。

 厚い胸板に顔が当たり、見上げたらそこに前を向いている小麦肌のイケメンの顔。

 

「…………ふっ、い」

 

 はやく男の体に戻らないと……意味わからないことになりそうだ。

 精神は体に引っ張られるのか!? くそくそくそ……ナグモさんに惚れそうになってるっ。簡単なヤツだと思われたくないー……!


「い、いくぞっ……なぐも、先生っ!」


「? はい」


 顔を見られないように俯くようにして下げた。

 仮面をつけてたらよかった。今から付けるか? いや、でも。


「しばらく、彼女はこちらが預かります。それまでの日常業務は今まで通り、リオクラウン元帥にしてもらってくださいな」


「研究が進まんくなるんだが」


「王国の魔導士にも優秀な人達がたくさんいるでしょう。それでは、また」


 ナグモさんはぼくの肩を抱き寄せたまま、部屋を出ていった。

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