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334 国定魔導士の実力


 先生は驚きのあまり抵抗も弱く、簡単に組み伏せれた。

 こちらを凝視し、何も言葉を発さない。その場では僕の荒い息だけが響いていた。

 ややあって、歓声が上がった。


「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」


 あの軍事顧問に勝った!?

 賢者じゃないのか!? 武器の扱いが俺より上手いぞ!

 いや、魔法も使っていたぞ! 並行詠唱をしていた!

 すげぇ!! すげぇ――ッ!!


「……」


 そんな声を他所に、先生はこちらにスッと手を伸ばしてきた。

 だが、手が届く訳もない。先生は14歳ほどの体躯。こちらは20歳ほどの体躯なのだ。


「なんですか、先生。この状況から勝てる方法なんて――」


 何度も掻くように手を動かしているのをみて、少し、優越感に浸りながらそう言うと。


「お主。……今ほど、ワタシのことを……先生と呼んだか?」


「へ?」


 バキッ。 


「え?」


 なんの音かと思って先生の手元を見てみると、僕の木刀が綺麗に折られていた。

 え?

 は??


「はぁぁぁぁっ!??」


 何が起こったのかと混乱して腰が浮いた瞬間、今度は先生がタックルをしてくるような状態で押し倒された。

 周りが状況の変化に、また大きな歓声を上げている。そんな中、先生はペタペタと僕の頬や首筋を触ってくる。


「あの、なにを……」


 ひとしきり触り終えた所で、その小さな顔を近づけて。僕が何をされるかとギュッと目を瞑っていると。


「…………こんな場所にいたんじゃな、クラディス」


 とても、優しい声でそう言ってきた。


(……あれ、なんでそんな反応を──)


「急におらんくなって、皆が心配しておったぞ。どっかの阿呆に連れ去られたのかと思った……」


「……」


 ふわりと、先生の香りが僕の体を包む。僕が訓練で身動きが立たなくなった時に、よく嗅いだ匂いだ。

 香水なんて取ってつけたようなニオイじゃなく、少女特有のキャラメル菓子のように甘く、ぽかぽかして安心感を与える太陽なようなニオイ。


 ──そうか、なにも言わずに出てきたのか。

 

 吐息が当たるような距離にいる先生に、微笑みを返して。


「心配をかけてすみません。先生」


「ほんとじゃぞ……馬鹿弟子」


 ぽこんと小さな拳で仮面を小突き、お互いに笑った。


「?……これ」


 すると先生は何か異変に気が付いたようにピクリと眉を顰めて、ズイと近づいてきた。


「え……えっ? 先生? ちかっ……!?」


 えっ!? えっ!? なに、この、距離!!

 先生、唇が当たっちゃいますよ!!?

 別に先生のことが苦手って訳じゃないけど! 好きって訳でもないけど! いや、先生としては好きですけど、そうじゃなくて。

 今、僕は女性ですし。こんな色んな人が見てる中で、そんな、えっ。 

 目をグルグルと回していると、先生の手が僕の首後ろまで周り、グイっと支えるようにして軽く持ち上げてきた。


「ひゃっ!」


 ひゃっ、って。はぁ!?

 なんで、そんな可愛い声が僕から出る!? 

 あっ、そっか、ぼく、いま、女の子で――って、どうでもいい!!

 

「あ、あの……優しく……」


「この感じ、混ざっとる」


「……まざ?」


「まざっとる。……気が付かなんだのは、なるほど……上手く分離をしておるのか」


 右手の手袋を上から撫でて、脳内で何かに葛藤するように眉を潜めた。


「……ふむ。ちと、色々と聞くべきことが多いようじゃな」


「あはは……確かに、ちょっと……色々と話したいことはあります」


 色々と話したいことはある。雪山のこととか、この右手のこととか。この格好のこととか。


 そう言って乾いた笑いをすると、破裂しそうなほど高鳴っていた胸が静まっていくのを感じた。


(……何を考えていたんだ、僕は。先生が急にそんなとをしてくる訳がないだろうに……)


 燃ゆる火にバケツ一杯の水をかけるように、勝手に熱を持った感情が急激に冷めていく。

 女性は熱を持つのも冷めるのも一瞬と聞いたが、これがそうだったら、男性は大変だな。


(前にユットロールさんにもそういうのがあったなぁ)


 最近、ぼくの体はちょっと変だ。

 まぁそんなことはどうでもいい。


「……さて。勝負はこれで終わりで良いか? まだ戦いたいなら戦うが」


「いやっ、いや! これで、良いです。まだ先生には敵わないみたいですし」


 これ以上戦えば、実力の誇示どころではない。戦闘狂の先生と新規戦闘狂の僕が暴れまわるだけの見世物になる。そんな酒の肴のような戦いはやりたくはない。


 そうして、僕が降参をすることで、模擬試合は終了をした。

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