331 軍隊式・腕試し
案内されたのは兵隊さん達が訓練していた広場のような場所。
なんともうオーディエンスがいるときた。ここで腕試しだって? イヤな気しかしないんだが。
というか腕試しという名のアレでしょう? 査定というか、お前どれくらいやれんだっていうカーストを決めるヤツですよね。
冒険者にもあったようなことを軍人がするとはなぁ。異世界おそるべし。
「……それで、腕試しをしたい人っていうのは」
「まずは……わたしから」
「え」スタスタと間合いを取る女性に目を奪われたが「まずは……って」
「申し訳ございません。私よりも立場の低い者も戦いたいという声があったのですが。ある種の指標として戦わせていただきます」
「はあ」
ほとんど目を瞑っている彼女の服装は黒。学生服は軍服が元になったという話は聞いたことがあったが、男子高校生の学ランみたいな服を着ている。使うのは刀……か? まるで彼女だけ昭和から出てきたような服装だ。
黒寄りの灰色の髪は肩辺りまでのびており、前髪は涼し気な瞳の上に少しかかる程度。
「では、よろしくおねがいします」
「あ、ルールとかって」
「どちらかが降参と言えば終わり。傷つけるのは常識の範囲内、ということで」
「ざっくりしてますね」
こういうのばっかりだな。この世界は。血の気が多い。
「いいですよ。戦いましょう」
──上げていた肩をゆっくりと落とし、周辺の声に耳を貸した。
「大尉が戦うのか」「仮面の方は誰だ? 知らない顔だが」「馬鹿、最近できたばっかりの部隊の隊長だぞ」「隊長? そんなヤツがなんで訓練場なんかに」「そりゃあ決まってんだろ。興味があったからとかだろ」
随分と適当な。というか、この人……大尉って。階級でいうと、少佐の下くらいになるのかな? ぼくが佐官級の権限を渡されているから、階級でいうと僕の下に彼女はいることになる。
変に恨まれてなきゃいいけど──
「……」
久々に魔素を動かして確認。鈍ってはないな。
まぁ、ここがそういう風習なら仕方ない。
ほんと、どこかの誰かに影響を受けてるんじゃないか? 軍隊ってもっと厳しい感じな気がするんだけど。
「武器は構えないので?」
表情を変えずに言われた言葉に、首を傾げた。
「はい」
と言葉を言い切ると、引いていた軸足から流れるように大尉の体が動いた。
「では──まずは初手を」
振るわれた剣を──いや、振るわれるハズだった剣を上から押さえつけた。
「スタートの号令とかないんですね」
「!?」
ガチッ、ガチッと大尉が鞘から剣を抜こうとして、その度にぼくが柄頭を抑えて金音がなる。
力勝負ではぼくの勝ちか。なら、まぁ、ある程度はなんとかなるか。
「これって、真剣ですよね? 痛かったらどうするつもりなんです?」
「それを込みの腕試しです」
「だったら──失礼しますね」
柄頭を手で抑えたまま、手で大尉の頬を掴んだ。むぎゅっと唇がすぼむ。
無抵抗過ぎて、そのままむにむにと頬を掴んだ。
「これ、わたしが魔法を使ってたら……顔に傷が付きましたね」
「…………」
「腕試し。まだ続けます?」
周りがようやくざわつき始めた。
おそらく、初手の雑な攻撃で勝敗が着くと思っていたのだろう。
「あなたは……賢者では」
大尉の声に動揺が声に乗った。
そりゃあそうか。魔法系の人に速度勝負の攻撃を仕掛けたのだ。勝てると思うのはそうだろう。
「今まで基本、一人で戦ってきましたので」
その一言をいうとまた周りがざわついた。魔法使いはパーティーを組むのが基本だ。
色々と事情を察してくれただろう。
「……分かりました。私の負けです」
鞘の中に刀を収めて気持ちよさそうに笑みを浮かべた。
良かった。後に引かないタイプの人だ。
「では、あの方に通しても大丈夫そうですね」
「あの方?」
……あ、そうか。「まずは」とか「指標」って言ってたもんな。
「申し訳ございません。どうしてもアイリス様と戦いという方がいらっしゃいまして……ただ、少し……今は機嫌が悪く」
機嫌が悪くって。
「それで私が先に戦ってみますのでそれで……という話をさせてもらいました。私で勝てる方だと……もたないと思いましたので」
なんだ? 王国の中に猛獣でも飼ってるのか?
「えぇっと……その方は軍人さん?」
「階級を持っている訳ではないのですが……その、指南役といいますか」
「あーっと……先生って感じ――」
と言いかけたところで、隣の訓練場からドォンと大きな衝撃音が響いた。
「!?」
何事かと思って見に行くと、鎧を身に着けている人が壁にめり込んでいた。
呼吸をしている。が、口から血を吐いている。
その人の周りには、同じように人が地面にうつ伏せになって倒れていて、ピクピクと痙攣をしている。
――敵襲。
そう考え、咄嗟に武器を取り出して――顔を歪ませた。
だって、そこにいたのは……
「え」
さらさらと流れるワインレッドの髪を後ろで二つに結んでいる人物。
目は光をも吸収してしまいそうな黒色は憂いを帯びており、小さな手が握るは簡素な長槍が二つ。
衝撃によって立った砂ぼこりの中でも、一際存在感を発する、その少女は。
「なんで……あの人が……」
「もしかして、お知り合いでしたか?」
大尉は首を傾げながらぼくの横に立つと彼女を紹介し始めた。
「そう。あちらで兵士相手に無双しているかの御人こそ、この王国の外部特別指南役兼軍事顧問。──ティナ師範です」
やっぱり、見間違いなんかじゃない。
というか、見間違える訳なんてない。どれだけあの人にボコボコにされたかわからないんだ。出で立ち、なんなら足音だけでもあの人がティナ先生だというのが分かる。
……兵士をティナ先生がぶっ飛ばしていた。それも、おそらく僕が手合わせをした時よりも強烈な攻撃によって。
頑丈そうな銀色の鎧が拉げる程の威力。鎧だけじゃない、兵士が持っていたであろう剣や槍等が地面に放り投げられているが、原形を保っている方が少ない。
「って、もしかして」
そして、この話の流れ的に……。
「まさか。あの人と……戦うんですか?」
返ってきた反応は、笑顔。
戦う姿をみてみたいという大尉の満面の笑顔だった。




