330 部隊員に挨拶ヨロシク
王城って広いんだなぁ。道に迷った。
「あの団子め……放置しやがって……」
自分の仕事があるから適当に挨拶しておいて〜、って。
軍人ってこんな感じなのか? 日本の自衛隊ってもっと厳しいイメージがあるし、海外ドラマの軍隊とかもっと規律ッ! 規律ッ! って感じだったけど。というか、あの人の周りだけ緩い気がする。そういうものなのか?
「……道に迷ったから聞かないといけないよなぁ……」
兵隊さんに話しかけ、露骨に嫌そうな顔をされ、道案内をしてもらった。
あぁ「期待されて職場に来たやつが実は使えないヤツだった」って顔してたなぁ。
胃が痛いよぉ……ステータス、なんとかしてくれ……。
「ようやく着いた。入りますよー……って、こんなノリもおかしいか」
悄然した様子で押し扉を開けようとして止まり、一先ず挨拶をしようとノックをした。
「アイリス――」本来ならこの後に自身の階級を言うのだろうけど、正式には軍人ではないらしいから――「国定魔導士、入室いたします」
公認賢者と自身の名前を呼ぶ訳にはいかないから、もう一つの名前である「国定魔導士」と名乗る。
国から認められた魔導士と聞いたが、色んな名前があって頭がてんてこまいになってしまう。
とりあえず「単翼蘭花章の〜」とかは言わなくてもいいだろう。うん。きっとそのはずだ。
「仰々しい名前になって入ってきたな。隊長」
扉を開くと、三人の顔があった。
まずは鎧立ての前に立ってたリリーさん。
準上位血盟である恩寵ノ集の血盟主であり、ケトスの親のような存在。
【紫蘭之団】のメンバーになったのがおかしいと思う。この前戦ったエヴァーチェよりも階級が上であり、なんと解析士という職業らしい。
「……あんたが隊長になったんだな」
ソファに座ったまま、こちらを確かめるように見やるのは褐色肌の人。名前は知らん。
その隣にいるのは青年。こちらも名前は知らない。二人は仲良しの様子。前から一緒だったのだろう。
「えぇっと……そうみたいです。なので、一応、三人の名前を改めて聞いてもいいですか?」
「おいおい。リーダーだろ? そんな下手でどうする。形式上は軍人だぞ?」
「元々は傭兵出身の作法も何も知らない愚鈍です。今更何をいいますか。アナタも冒険者で、既に地位があるでしょう」
「単なる暇つぶしさ。分血の暗黒森人ってのは寿命が長いんでね」
リリーさんと軽いプロレスをしながら、会話のし易い雰囲気を作っていった。助かります。ありがとうございます。ウィンク可愛いですね。
先程の軽く触れたけど、彼女は分血の暗黒森人のリリー・フィン・イレネロ。金髪で褐色のちっちゃい森人だ。
「それで……」と視線を流すと、はぁ、とため息を返してきた。
ごめんなさいね。自己紹介なんて、面倒でしょうけど。
「ローゲンだ。冒険者をやってたが、ほとんど活動はしてないな」
「ランクはどれくらいですか? 見た所……白金ほどかと思うんですが」
「持ち合わせはない。勝手に想像しろ」
ローゲンさん、と。情報が少ないため、勝手に鑑定をさせてもらった。
個体名:ローゲン
種族名:暗黒森の番人
称号:なし
称号は……ないか。あまり人の情報を勝手に盗み見るつもりはないから最低限の情報まで。
だが、ちらっと見えたレベルは……化物だな。
その骨格、太い腕、まるで鬼のようだ。無駄な肉が着いていないことで少しばかり細く見えるが、服の下からはちきれんばかりの筋肉は彼が戦士系であることを教えてくれる。
「ぼくはエコー。隊長の名前は? 賢者って聞いたけど」
ソファに胡座をかいて座っている青年。こちらは……なるほど。
個体名:エコー
種族名:分血の森守人
称号:なし
暗黒森の番人と分血の森守人の二人組ということね。
耳が少し短いから分からなかったけど、彼は森人系。
全体的に緑がかかっており、年齢はケトスほどに見える。少しだけ長い耳にはピアスの穴が空いており、鎖骨あたりまではだけている服には入れ墨のようなモノも見え、額にはそれらを連想させる何かの印が入っている。
入れ墨というよりかは、民族的なアレか? ちっちゃく、生意気で、でも柔和な雰囲気がどこか感じられる青年。
「わたしの名前はアイリス」仮面を外して、会釈をした「よろしく。ふたりとも」
礼儀もあるだろうし、仮面は取っておいた。これから付き合っていくんだから最初に見せておいた方が楽なこともある。
「エコーさんも冒険者で?」
「だ」とソファ上で小さくまとめた体を揺らして。「で、隊長さんはなんで隊長さんになれたの?」
「隊長を任せられるほどの人間なのか?」
うわぁ、ギスギスすることを平気で言うなぁ。ぼくが気にしてたらどうするんだ。
まぁ、どうせ言われるだろうってことだったから別にいいけど。
「…………わたしは、別にできた人間じゃないよ」
外していた仮面をつけて、口元を緩ませた。
「ただ、面倒事を買って出ただけさ。実力はここにいる皆さんよりも低い」
──ローゲン:レベル597
──エコー:レベル622
今のぼくじゃあ、この二人には勝てない。
勝つつもりもないけど。レベルで負けているのは事実だ。
「だから、皆さんにたくさん頼ろうとしてます。形だけの隊長ですよ」
でも──と口元を締めた。
「いつかは頼って貰えるようにがんばります。だから、仲良くしましょう」
「「……」」
手を差し伸べる。この手をにぎる人はいないけど、コッチは仲良くするつもりですよ、というアピールはしておいて損はない。
ましてや、これから何かしらの荒事を任せられるかもしれないのだ。ギスギスのまま何かをやるよりかは、楽しんでやりたい。
(大人ぶるのにも慣れたか)
嘘を付き、ヘイトを買わず、まとめあげる。
突然の出来事にも対処し、最善の結果を出す。
隊長だなんて急に任命されても、こうしてそれとなく話ができる。
ここ最近は、足がふわふわするようなことばかりだ。
でも、やらなければなるまい。
転生者だと知られずに過ごすためには、この【アイリス】を完成させる必要がある。
──コンコンッ。
「ん。お客さんかな」
がちゃと扉を開くと、黒い服をきている女性軍人さんが立っていた。
「失礼します。アイリス様。急遽、お仕事になるのですが」
「え、わたし?」
「はい。アイリス様と腕試しをしたいという者がいまして」
「腕試しって……えっ? 腕試し……?」
「みな、新たな隊長を一目みたいのです。どうぞこちらに」
「えぇ……挨拶の途中なんだけど」
「仕事です」
……お仕事と言われたならば従うしかないじゃん。
さり際に【紫蘭之団】の皆さんにペコリと会釈をしていた。
「じゃあ、みなさんこれからよろしくおねがいしますね!!」
扉を締めた時に微かに何か聞こえた気がしたが、なにを言ったかまでは聞き取れなかった。
うん。きっとそのハズだ。
『腕試しか。リーダーにならんでよかったな』なんて。
ぼくが貧乏くじを引いたみたいになるから、きっと違うハズだ。




