328 国定魔導士並びに部隊長任命
服装などは事前に話をしており、特殊繊維が織り交ぜられている服を用意してもらっていた。
「正装を準備しておくように」と言われて「そんなの持ってない」と言ったのだ。
辺境の村育ち、傭兵暮らし。そんなヤツが正装なんか持ってるわけもない。
見てみろ! そこら辺の服屋で買った服で王城の中をウロウロしてたじゃないか。
これにはあのお団子も納得していた。賢者に言葉で勝った、ちょっとうれしい。
(で、コレか……まぁ、無いよりはいいだろうけど)
魔導士協会に支給している服屋に依頼したらしく、どこか制服のようなデザインになっているのはそういうことなのだと。
制服というよりかは、研究者に近いか。これをユットロールさんも着るのかな? そう思うと面白い。
その色合いは黒と白を基調としたもので、派手ではなく淑やかさが感じられる文様が入っているフードが付いている。サイズは少しばかり大きいが、そのダボダボ感がなんとも言えない味を出している――と言ってきた。
でもなぁ、武器を持って戦うにしては動きにくい。
そういう設計にしてないのはそうか。魔法使いの人が武器を振り回すなんて……。
──ケトスとユットロールさんの動きを思い出した。
(……あの人らが特別なだけか)
あと、頭髪を隠せるフードは助かる。姿はエリルだけど、目立つためなら顔は隠しておいた方が返って目立つだろうし。今日は外さないといけないんだけどね。
まぁ、そんな大層な服に着られている状態で、城の中の広間に案内されて色々状況説明をされたという訳だ。
(……それで僕一人と。隊長の任命式とやらだから仕方ないか)
「では、アイリス君。仮面を」
「はい」
最後にものすごくイヤそうな顔を浮かべて、仮面を外した。
周りから感嘆な声がこぼれた。
廊下ですれ違う度に少し嫌そうにしていた軍人すらも驚いたような顔を見せた。
「ほぉ……これは」
それほどまでにエリルの顔というのは出来上がっている。
幼い彼女ですら時折、美しさの片鱗を見せてくるのだ。それの成人となるとこの手の反応はされるだろう。
(あとは、紫の瞳、か)
遠くの席であのお団子が楽しそうな顔を浮かべている。なんであんたはそんな場所にいるんだっての。
「どうされましたか。続きを」
止まっていた前回も相手をしてくれた中将さんに目を向ける。
「顔に傷、というのは」
──あ。
やばい。そうか、そうだった。
前回「仮面を外さない理由」で傷がついてるので、と話をしたんだった。
くそ、えぇと、なにか突っ込まれなさそうな理由を──
「……知り合いの治癒士に治療を。前回いただいたお金で治療をさせていただきました」
「そうか! 役に立ててもらえたようで良かったよ」
なんとかやり過ごせたらしい。
(まぁ、そんな傷なんてないけどさ)
顔に傷がついたことは何度もあるが、その度に全力で治療をした。古傷があるとしたら体の方、訓練中の傷がちょっと残ってる。それと、この右手の魔障もそうか。手袋で隠してるのは相変わらずです。
こんな理由で乗り切れるのは、これが王国軍の中でこじんまりと行われていることだからってのもあるだろう。
前回の【紫蘭之団】の時と同じようなものだが、明らかに組織内だけで行われているのが分かる。規模感が小さく、新聞記者なども入っていない。なんなら緩い雰囲気すら漂っている。
「では、ここからは──マールベリー元帥から」
「? 元帥……」
中将の奥から小さな笑い声が聞こえると、席に座っていたミルクティお団子が近くに歩み寄ってきていた。
「既に職務の手伝いをしていると聞いたが、改めて紹介をさせてもらおう。マールベリー・ルーファス・エルメリオン。アイリスくんの部隊を管轄する王国元帥だ」
「よろしくね。新たな賢者くん」
「……元帥……?」
「わっ――」とお団子は口を開けて笑おうとしたが、ギリギリのところで踏みとどまっていた。僕の反応が面白かったのだろう。
このミルクティお団子が……元帥だって?
元帥ってもっと、なんか、強いというか、関われないような人だと……思ってたんだけど。
だって、このジト目のミルクティお団子が魔導皇とか皇とかと一緒ってことでしょ……? あのハインストのログリオさんみたいな人ってことで……
(うそだあ……)
失礼ですが、見えない。ごめんなさい。
「元帥、これを」
中将は持っていた小さなメダルケースのようなものをお団子に傾け、お団子はそこにあったのを手にとった。
「アイリス。君は先の事件で王国を防衛し、王国に仕える賢者としてその存在を示した」
それがなにか分かるとぼくは首を傾けていた体を正す。
「――よって、この単翼蘭花章を授与する」
一歩前に出て、正装の胸上に片翼の蘭の花が刻まれた勲章を付けてもらった。
「感謝いたします」
「感謝すべきは我らの方さ。これからも祖国の為に精進をしていってくれたまえ」
……これで、ぼくは王国の賢者として逃れられなくなった訳だ。




